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第49話 呪われし者たち9

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「ちょっとやり過ぎちゃったかな……」

 辺り一面真っ黒焦げになったエルフの森の跡を訪れて俺は罪悪感に苛まれた。
 至る所で炎に焼かれて炭と化した動物たちの屍が散乱している。

「あとで創り直してあげればいいじゃない。それよりもまずはエルフの女王をちゃんと始末できたか確認してきませんこと?」

「そうだね。王宮はどこにあるんだろう?」

 俺とロリエはグリフォンに乗って空からエルフの森の跡を探索する。

 やがて目の前に大きな宮殿の跡が見えてきた。
 全体が真っ黒に焼け焦げてはいるが、その美しく造形された内装の跡がはっきりと分かる。
 玉座の跡の近くには黒焦げになった拳大の石が転がっていた。

「何だろうこれ……どことなく魔瘴石にも似ている気がする」

「アデプトもこれと同じ物を持っていましたわ。これがエルフの呪術の源である精呪石に間違いありませんわ」

「ふーん、これがそうなのか」

 俺はその石を手にとって触れて見たが、何の力も感じられなかった。
 恐らく超高熱の炎で長時間焼かれた事でその効力が失われたのだろう。
 俺は気を取り直して周囲の壁に触れながら王宮内の調査を続けた。

「この王宮は一本の木をくり抜いて作られているのか。凄い技術だな」

「ルシフェルト、感心している場合ではありませんわ。あれが女王の亡き骸ではなくて?」

「あれか?」

 俺はグリフォンから降りてロリエが指差す先に転がっていた屍に近付いた。

 全身どころか身につけている物も全て焼け焦げているので性別すら判別が困難だが、頭部につけている焼け爛れた王冠は明らかにこの人物が高貴な者である事を示している。

 手っ取り早い確認方法は本人に確かめてみる事だ。

 俺はこの黒焦げの屍に対して【破壊の後の創造】スキルを使用して元の状態に創り直してあげた。

 屍が光り輝き、女神様のように美しい姿をした女性に復元された。

「う……ここは……はっ!?」

 女性は俺の顔を見て驚愕し後ろに飛び退いた。

「ル、ルシフェルト!? あなたどうしてここに!?」

「俺を知ってるとは話が早い。ところで君は誰?」

「無礼者、私を誰だとお思い? 私は偉大なるエルフの……」

 言いかけてその女性は口を噤んだ。
 自らの置かれた状況を理解したからだ。

 俺は友好的な態度を崩さずに女性に質問を続けた。

「エルフの女王を探しているんだけど、どの屍がそうなのか知らない?」

「え、ええと……これ……かしら?」

 女性は少し離れたところに転がっていた屍を指差して言った。

「この人で間違いない? 嘘だったらどうなるか分かっているよね?」

「ま、待って下さい。これだけ黒焦げだとあまり自信がありません……でも体格的にきっとこの人だと思いますわ」

「確かにこのままじゃ分からないね。でもこうすれば分かるよね」

 俺はその屍に【破壊の後の創造】スキルを使用して元通りにした。

「う、うーん……俺は一体何を?」

 蘇ったその人物は壮年のエルフの男性だった。

「どこが女王様だ。おっさんじゃないか」

 俺はエルフの女性を睨みつけて凄んだ。

「ひっ……だから黒焦げで自信がないと先程……」

 起き上ったおっさんエルフはキョロキョロと周囲を見回して状況を確認すると、女性に向けて開口一番答えた。

「女王陛下よくぞご無事で!」

「こ、こら! お黙りなさいライアン! ……はっ」

「ふーん、やっぱり君がエルフの女王シルフィナだったのか」

「ち、ちが……きっとこの男が人違いをしているんです」

「へえ」

 俺は続けて周囲に転がっている屍に対して【破壊の後の創造】スキルを使用する。

 蘇ったエルフたちは女性を見て異口同音に答えた。

「女王陛下ご無事でしたか!」
「やや……こやつはルシフェルト! 女王陛下危険です、お下がり下さい」
「お逃げ下さい女王陛下! ここは我らがお守り致します!」

「お……お黙りなさいあなたたち!」

 女性はそれでもまだシラを通そうとするが、これで彼女こそがエルフの女王シルフィナであるとはっきりした。
 俺はシルフィナに向けて魔力を込めた手を翳した。

「破壊魔法、デストロイボール!」

「や……やめて……ぎゃっ」

 俺の手から放たれた漆黒の魔力の球は蘇らせたばかりの周囲のエルフたちを巻き込んで大爆発を起こし、彼女たちに二度目の死が訪れた。

 これで世界を乱した元凶がひとつ片づいた。

 でも戦争とはいえいくらなんでもひとつの種族を絶滅まで追い込むのはやり過ぎだ。

 俺は【破壊の後の創造】スキルで森や動物たちを蘇らせるついでに女王以外のエルフを元通りに創り直してあげた。

 ただし森の炎の中で焼け焦げて効力を失った精呪石だけは創り直さない。
 精呪石さえなければエルフは今までのように呪術で悪さをする事ができなくなるからだ。

 蘇ったエルフたちは俺に対して敵意をむき出しにする者、慈悲に対して感謝の意を表する者など反応は様々だった。

 中には武器を手に問答無用で襲いかかってきた者もいたがロリエによってあっさりと押さえつけられていた。

 呪術が使えないエルフたちは既に俺たちにとっては何の脅威でもなかった。

 俺はエルフたちに停戦協定の話がしたいから一週間以内に次の王を決めるように伝え、魔獣たちを引き連れて王宮を後にした。

 その後エルフの間では徹底抗戦派と停戦派に真っ二つに分かれたが、もし俺たちともう一度戦争になったとしても今回と同様に森ごと焼き尽くされるだけだと気付いて徹底抗戦派は一気に縮小していった。

 そして一週間後、新たに即位したエルフの女王との話し合いで俺たちとエルフの停戦が無事に締結した。

 もちろん俺たちとエルフの間での停戦なので、アデプト率いる魔王軍との戦争については好き勝手にやってもらえばいい。

 もっともエルフ軍にはそんな戦力は残っていないので魔王軍から攻めてこない以上戦争になる事はないだろうけど。

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