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「美(?)山猫と野獣」(サブキャラ:四課の課長とみーちゃん)

後編:山猫ル、真実の愛を得る

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 そうしてしばらくして、ポットのミーちゃんの助けもあり、山猫ルは再びトイレ前で野獣と話すことができました。
 はじめは少しギクシャクしていたのですが、中庭で雪合戦をしたり追いかけっこをしたりしているうちに、二人はまるで友達のように仲良くなっていきました。

「やったなお前!ほら、お返しだっ!」
「ぐはっ!ずるいぞ、その巨体で本気で投げるなよ!」
「うるせー、俺はいつだって本気なんだよっ!」
「ひいっ、つ、冷たいっ!!」

 昼間は遊んだり、庭でランチを食べたり、昼寝をしたり。
 夕飯の後は少し語らったり、お酒を飲んだりもしましたが、その後はちょっと恥じらって、山猫ルはそそくさと部屋に帰るのでした。

(でも何だか、監禁されてるなんて、嘘みたいだ。今まで、毎日がこんなに楽しかったことなんてない。夜の方はまだちょっと怖いけど、でも僕は、これからもずっとこうしていたい・・・)

 そしてそれは、野獣の方も、同じ気持ちでした。


* * *


 そんなある日のこと。
 夕飯を終えて、山猫ルはやはり部屋に戻っていき、野獣は一人で窓の外をぼうっと眺めておりました。

(・・・むむ、何か、においがする。これは狼でなく、人間・・・?)

 野獣は足音を忍ばせて城の正面ホールへ向かい、物陰で息を潜めていると、二人の若い男がおそるおそる入ってきました。

「うわっ、何ここ、こえーっ」
「何かヤバそうだよ。引き返した方がよくない?」
「そっかなあ。でもお城みたいだし、合コン会場に使えたり・・・」
「って、それもアリか!?」

 どうやら、近くで迷った者が、好奇心に駆られて入ってきたようです。
 これまではずっと野獣が周辺を警戒しており、人間が簡単に入ってこないようにしていたのですが、最近は山猫ルと遊んでばかりで、ついそれを怠っていたのです。

「おーい、誰かいますかー!?お城貸してー!」
「あはは、やめろって!」

 誰であろうと人間が入ってきたということは、約束通りにするなら、山猫ルを殺さなくてはなりません。
 しかし野獣は、そんなことはしたくありませんでした。
 
(・・・なら、この二人を、始末するしか・・・)

 野獣が後ろから近づいて、心臓をひと突きにしようとした、その時。
 
「そこに誰か、いる・・・?」

 山猫ルが、二階の自室からランプを持って、階段を下りてくるところでした。
 野獣は物陰に戻り、低い唸りで「グルルルッ、失せろ・・・!」と威嚇すると、二人の男はビビって声を上げることも出来ず、スタコラ逃げていきました。

「・・・あれ、そこで何してるの?物音が聞こえた気が・・・」
「何でもない、ここまで狼が入ってきただけだ。今夜は冷えるから、お前ももう寝ろ」
「・・・わ、分かった」

 そうして野獣は再び警戒心を強めましたが、やがてこのことが、起きてほしくないことを招き寄せてしまうのでした。


* * *


「はあ・・・」
「ベル、またため息?」
「だって・・・」

(どうして最近ずっと、野獣は僕と遊んだり、ちょっとイチャついたりしてくれないんだろう)

 野獣の思いなどつゆ知らず、山猫ルは、自分に性的魅力が足りないのではなどと的外れなことを考えておりました。

(勇気を出して夜、部屋を訪ねたのに、このところ毎晩ずっといないみたい・・・)

「別に、焦ることないよ。そりゃ、のことはあるけどさ、ゆっくりやっていけば・・・」
「でもさ、ミーちゃん、実はもうすぐ、あれから一年なんだよね」
「うわっ、もう一年?全然進展しないし、季節感ないねー」
「いやいや、問題はそこじゃなくて、・・・僕、家に帰らなきゃなんないかもしれない」
「え、何で?」
「一年の約束だから・・・。何もなければ、お父様が迎えに来て、それでこの監禁生活も終わり・・・」

(もしかして野獣もそれで、別れを前によそよそしくなったのかな。そんなんだったらもう、いっそ誰かが城に来て、野獣が僕を殺してくれたらいい・・・)

 
* * *


 約束の一年が経つ、その最後の日。
 雪もやんで、満月の夜でした。

「ああ、綺麗なお月さまね」
「いやほんと、綺麗だね。でも君の方が・・・」
「きゃっ、やだ、クサい!」
「あらーっ、やっちゃったかな?おれに惚れちゃったかな?」
「・・・ちょっと、道そっちじゃないっすよ!こっちこっち!」
「ええっ?あ、いやあ~、絶対こっちだよ。君もおれについておいで」
「ちょ、オジサン、知らないくせにいいカッコしようとしない!」

 静かな夜道を、たくさんの男女がケータリングのオードブルを手に、<今年の忘年会会場>に向けて歩いています。一人のオヤジがしきりに道を誘導しますが、若い男二人が軌道修正し、彼らは野獣の城へと近づいていました。

(すまん山猫ル・・・!村の馬鹿が城を見つけてしまったようだが、こいつらはピンピンしてるし、たぶん遠くから見ただけだろう。お前が殺されてないことを信じて、おれは女の子にチョッカイをかけるしか・・・)

「ほら見てあっち、キノコが光ってるよ!行ってみよう」
「もうヤダー!卑猥ー!」
「おいおいミチシゲくん、まだ酒も入ってないのに・・・。しかしこの辺りは昔、呪われた怪物がいると噂があったな」
「さ、サクラダ村長!それは危ないですね、女の子たちもいるし、今日は中止にしましょう!」
「いやいや、そういう不穏な輩は早めに潰しておかないと。我が村の安全や信頼、売り上げなんかもこういう危機管理を徹底してこそ・・・」
「それならまた、武器とか持って、機会を改めて・・・!」
「なに、私は護身用の銃を持ってる。それにきみの行方知れずの娘さんだって、この辺はまだ捜索してないんじゃないか?」

(・・・アンタが捜索すると、殺されちゃうんだよ!!)

 そしてとうとう、一行は城のすぐそばまでやって来ました。


* * *


「あれ、おかしいな、確かここのはず・・・」
「うん、だよなあ」

 若い男二人が城を探しますが、野獣がなんか草むらを作ったり(?)していたため、入り口が見当たりません。

「き、きみたち、本当は城なんかなかったんじゃないの?」
「い、いや、あったって!城に入ったとこで、コイツが何かの声にビビって逃げたから・・・」
「いや、お前が先に逃げたんだろ?お、俺は何も・・・」

(・・・ああ、やはり野獣の城に入ったのか、山猫ル・・・!)


* * *


 その頃、山猫ルは最後の夕飯を終えて、部屋に戻ってきました。

(もう終わりだ。一年間、誰も来なかった。僕は明日、解放される・・・)

 しかしその時、窓の外から、何やら騒がしい声が。

「何かあっちに明かりが見えない?もしかして山猫ルちゃん、この辺でたくましく生きてるかもよ?」
「ええ、あの地味な子が?まさか、その怪物と一緒に暮らしてたりして」
「怪物はやばいでしょ!」

 山猫ルはそれを聞くと、どこかがプツンときて、窓のさんに積もる雪を丸めて思いきりそちらに投げつけました。

「きゃっ!何!?・・・あそこに、誰かいる!?」
「おいきみたち、下がっていなさい。私が銃を出すから・・・!」

 村長が、腰のホルスターから銃を取り出しました。
 野獣と言えど、撃たれたら死んでしまいます。
 事態はまさに一触即発でした。


* * *


「ねえ、表に人が来てるよ。だから約束どおり・・・」
「・・・山猫ル、お前が呼んだのか?入り口は見えないようにしてたのに」
「向こうは銃を持ってる、早くしないと」
「・・・まさか俺を殺すため?おい、俺は約束は守る。明日まで待てばお前を解放したのに・・・なんでだよ」
「違う、俺は解放なんかされたくない!村には戻りたくないんだ、戻るくらいなら俺は、お前に・・・」
「・・・そうか、分かった。それなら、お前を殺して俺も死ぬ。でも、その前に・・・」

 野獣は、山猫ルの肩に手を置き、出来るだけそっと抱きしめようとしましたが、手加減ができず、やはり乱暴に衣服が破かれました。

「・・・お願い、・・・して、最後まで」
「山猫ル、俺だってずっと、ずっと・・・」


* * *


 とうとう二人は、禁断の領域に足を踏み入れました。
 山猫ルは、どうせ死ぬつもりなら・・・と覚悟を決めて、野獣に背中を向け、冷たい床に手と膝をつきます。
 何かが裂けてしまうかも・・・と身体が震えますが、その瞬間を待ちました。

 そして。

「あっ、んっ、ああっーーッ!」


* * *


 山猫ルの甲高い悲鳴を聞いて、一階の広間をうろついていた村人たちは、背筋が凍りました。
 それでも何とか、村長を先頭に、震える足でゆっくり階段をのぼります。

 ひとつずつ部屋を見ていくと、だんだん、野獣の唸り声が近くなってきました。
 そしてとうとう最後の部屋のドアを開け、村長は銃を構えました。

「や、山猫ルくん、そこにいるのか!?我が村民に何をする、怪物め!」

 部屋の奥で、野獣が巨体を揺らしてうめいています。
 村長はその頭を狙い、上の方をめがけて銃を発射しました。

 バンッ・・・!!

「・・・っ、あ、んっ、うあっ!」

 ただし、野獣の最後の喘ぎ声発射も、同時でした。
 するとその巨体がしゅるしゅると縮み、辺りは不思議な霧に包まれました。


* * *


 山猫ルは、その時いったい何が起きたのか、さっぱり分かりませんでした。
 ただ覚えているのは、その挿入の瞬間・・・。

(何だよ、あそこだけは普通の人間サイズだって、それなら早く言ってよ・・・!!)

 そう、実は野獣は何となく恥ずかしくて言えなかったのですが、呪いの魔法をかけられた時に怖くて股間を押さえていたせいで、あそこだけは、野獣だけど野獣ではなかった(?)のです。

「・・・山猫ル」
「・・・ん」

 上から手のひらが重なって、指の間に指が入り、きゅっと握られました。
 しかしその手は毛むくじゃらでもなく肌色で、長く鋭い爪もありませんでした。

「えっ・・・だ、誰!?」
「・・・俺だよ」

 山猫ルが四つん這いのまま振り向くと、そこには見たこともない裸のイケメンがおりました。しかし二人はまだ確かに繋がっていて、山猫ルは、これが野獣の元の姿であり、彼が自分の中で愛をほとばしらせたその瞬間、呪いが解けて元の姿に戻ったのだと分かりました。
 

* * *


「おい、怪物はどこへ行った!?」
「キャーっ、あそこ!」
「ど、どこだ!」
「あそこに、い、イケメンが・・・!」

 やがて、部屋の霧が晴れてきました。

「えっ、イケメンどっから出てきたの?山猫ルちゃんと裸で抱き合ってる!?」
「あの娘行方不明だと思ってたのに、あんなイケメンと駆け落ちだったわけ!?きぃーーっ、悔しい!!」
「お、おい、ミチシゲくん、これはどういうことかね!」
「えっ、それは・・・あのイケメンまさか・・・」

 そこでイケメンが立ち上がり、パンパンと手を叩くと、一同はとりあえず静かになりました。
 山猫ルは下から手を伸ばし、布切れでその股間を隠しました。

「俺はこの城の主《あるじ》、クロイーヌ王子。お前ら好き勝手なこと言って、銃まで撃ったりしてさ、もうちょっとイクの遅かったら俺死んでたじゃん!いったい何しに来たんだよ!」
「・・・あ、すいません、実は忘年会の会場で使わしてもらえないかなーって」
「じゃあ大広間でやって!」
「あ、それじゃ皆さん、会場へ移動しましょうー!」


* * *


 騒がしい宴会の声がかすかに聞こえる中、二人は山猫ルの狭い部屋で、再び抱き合っていました。

「あっ・・・、も、もっと噛んだり、引っ掻いて、いいから」
「前みたいに、血が出るほど?」
「う、ん・・・ああっ、きもち、いい・・・」
「お前、こんなMだったのか・・・」

 その部屋の隅。
 先ほど王子とともに呪いが解け、青年の姿に戻っていたミーちゃんは動くに動けず、一部始終を聞かされるはめになりました。

 やがて二人が力尽きると、「まったく、仲良くやってよね」と部屋からそっと出て、ちゃっかり宴会の一同に混ざりました。
 その後は村で<みつのしずく>という酒場を始め、忘年会シーズンにはあの二人がこっそり訪れるとか、訪れないとか。

 ・・・めでたし、めでたし。


* * *


【CAST】

山猫ヤマネコル・・・・・・山根やまね
|野獣(クロイーヌ王子)・・・・・・黒井くろい

山猫ルの父親、ミチシゲ・・・・・・四課・道重みちしげ課長

村の若い男1・・・・・・望月もちづき
村の若い男2・・・・・・榊原さかきばら

嫉妬する女の子たち・・・・・・支社の噂好きの女の子たち

サクラダ村長・・・・・・桜田さくらだ支社長

ミーちゃん・・・・・・みーちゃん

光るキノコに反応する女・・・・・・あとみく


妄想・執筆・・・・・・あとみく
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