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ちょっとイカれた僕たちの温泉旅行
第47話:ルームシェアも夢ではないけれど
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今日一日やる予定の掃除を頭に思い描きながら、漏れのないように一つずつカゴに入れていく。輪ゴム一本、綿棒一本、そんなどうでもいいものさえない家だから、少しも油断は出来ない。状況を手に取るように思い浮かべるイメージング力が試された。
値段を勘案すれば、百円ショップを回ったり、詰め替え用などをまとめ買いする方が安いのだが、そこまで踏み切ることは出来なかった。今日の分、だけだ。さっきまでの虹を渡るような確信はここにはなく、握りしめた詰め替え用洗剤の方が、虹よりはかなく見えた。
今、心を決めて、虹に足を踏み出すことなら、出来るだろう。
でも、詰め替え用洗剤の封を切るのは、ひと月後?いや、三ヶ月以上か。
・・・そんなことは、分からなかった。
三ヵ月後といえば、もう四月になる。
会社に属していれば、四月には、いろいろと何かが変わるものだ。部署変えも、新しい上司や後輩も、まさかの転勤だって可能性はゼロではない。うちの会社はいつだって人事がギリギリで、たぶん今年はこの消費税戦争で、更にギリギリになるだろう。
要は、四月に僕がどこで何をしているか、そんなことは誰にも分からないのだ。
詰め替えのビニールパック一つに、そんな未来が、入っている。
もちろん、その頃だって、こうやってたまの週末にここへ来て、風呂を洗ってやれたらいいけど。
そうじゃ、なかったら。
まるで遺品みたいに、僕が今ここにいた微かな証としての詰め替え用洗剤があの家に残されて、きっとそれっきりなんだ。
・・・え、遠距離恋愛?
馬鹿言うな、そんなの無理だよ。
・・・まあ、そんなこといったって、なるようにしかならないし。今僕がここで何を考え、どう足掻こうと、どうなるものでもないんだけど。
そして、結局詰め替え用は棚に戻すのだった。
今日だけ。とにかく、今日を最後まで無事に生きるだけだ。それ以上のことは考えないようにしよう。現実逃避でしかなかったとしても、詰め替え用洗剤をじっと見つめて五分も突っ立っていたって、何の意味もないんだ。黒井と過ごす五分が無駄に消費されただけだ。うん。もうやめよう。
食料は、簡単な朝食用のパンと卵、昼食にパスタとトマト、一応夕飯用に鶏肉とねぎ、きのこなどを買った。他にも果汁100%のジュース、バターや缶詰、冷凍のほうれん草などをいくつか。考え始めるときりがないから、目に付いたものだけ、適当に。RPGゲームを二つ掛け持ちしてるみたいに、やれレベル上げだの、装備変更だの、仲間を見つけるのと、それぞれ全部を勘案していたら時間と体がいくつあっても足りない。黒井の生活全部まで面倒見切れない・・・というよりは、まあ、面倒を見るわけではないのだから、諦めるしかない。あいつだっていい大人だ。今までだって生きてきたんだし、僕がいなくても食い物くらい食うだろう。
・・・いったい僕は黒井の何だというのだろう。ちょっと笑えた。たった一日で奥さん気取りか。
両手にビニール袋を提げ、ようやく帰路につく。小一時間かかってしまった。あいつ、ちゃんと待ってるかな。自分で勝手に食事も掃除も済ませて、僕は用済みになったりしないかな。などと思っていたら、無意識にかなり早足で歩いていたらしい、もう着いてしまった。
出ていくときは何とも思わなかったが、ひとのマンションに一人で入るのは少し気が引けた。誰にも会いませんように、と思うと、必ず、会ってしまう。髪の長い女性が、硬い会釈を寄越してすれ違っていった。ふわりとあとから香水の匂い。どこの誰だかわからない人たちと、壁と床を隔てて一緒に住んでいる。不思議なことだ。
五階で降りて、ポケットから鍵を出そうと荷物を持ち替えながら部屋の前まで歩くと、途端にドアが開いた。
「うわ」
「お、・・・おか、えり」
「・・・ただいま」
スウェット姿の黒井が出迎える。ついさっきまで寝ていたという顔。何だ、暇だとかぼやいてたくせに。あ、暇だからまた寝たのか。
でも、鍵、開ける前にちゃんと出迎えてくれたけど。ご主人が帰ったら、ドアの前でしっぽを振っている犬のよう、って、言い過ぎか。ただ眠そうなだけだ。
両手に荷物を持ったまま強引に靴を脱ぎ、掃除用具は風呂場の前、食料は冷蔵庫に突っ込む。まずは、トーストと目玉焼きから。
「すぐ、作るから」
「ねえ、お前さ、お嫁さん出来るね」
・・・。いや、うん。来たいけどさ。ここへ。
「・・・お前は旦那様にも向かないね」
「え、何で?ちゃんと働いてるじゃん」
「今時家事のひとつも出来ないなんて、需要ないぞ。しかも、出来なくても手伝おうという気概もないし」
「いいんだよ、結婚しないから」
「・・・結婚願望、とか、ないわけ」
「ない」
「そ、そう」
いやいや、そういうやつほどさっさと結婚するんだよ。あてになるかボケ!
「じゃあお前はお嫁に行っちゃうの?」
「へっ?そ、そうね、需要が、あるかもね」
今のところ皆無だけど。
「えー、やめなよ。姉貴も嫁に行ったけど、嫁なんてそれほどいいもんじゃないよ」
「お、お前はお姉さんの何を知ってるっていうんだよ。っていうか、お嫁さん出来るねって褒めたのはお前だろ?」
「あ、そっか」
馬鹿な話をしている間に、目玉焼きの黄身に半透明の膜が張ったようになり、半熟に近づいている。もう、すぐだ。
レンジで焼いたトーストにスプーンでバターを塗りながら、バターナイフを買い忘れたことに気づく。うん、人ひとりの生活というのは、意外と物入りなのだ。これは変な意味なしに、ルームシェアなどをする方がよほど経済的だし、エコにもなると感じた。たぶん、人類が誕生してからつい最近まで、一人単位で生活を営むなんてことは出来なかったんじゃないだろうか。こうして少々のお金を払えば生活周りが全て揃えられるというのも、文明の発達と貨幣経済の発展、更に現代日本のインフラの・・・
「ねえ、焦げ臭くない?」
「うわっっ!!」
・・・・・・・・・・・・・
焦げ臭い目玉焼きと、単なるバタートースト。たとえ目玉焼きにケチャップをかけたって、最悪なことに変わりはない。
「別に、大丈夫だよ。うまいって」
「ほっといてくれ・・・」
「何、考えてたの」
「・・・日本経済と環境問題について」
「へえ?何それ」
「お前がバターナイフのひとつも持ってないからだ」
「何でそうなるの」
「・・・べ、別に」
「言わないと、目玉焼き焦がしたって言うよ」
「誰に」
「お前に」
「もう言ってる」
「あ、そっか。じゃ、これ以上言われたくなかったら言え」
「・・・分かんないやつだな」
しばらく憮然としたまま黒井の顔を見て、降参。両手を上げた。
「だ、だから・・・こう何もないと、揃えるのが大変だって・・・」
「・・・で?」
「いや、人ひとりでも、物入りだなって・・・」
「・・・で?」
「共用で生活資材を使用するという制度の有用性について・・・」
「・・・うん?」
「分かったよ。一緒に住んだ方が楽だって、嘆いてたんだ!」
いや、別に、僕は本当にルームシェアという制度の有用かつ必要性をエコの観点から論じようとしただけで・・・まあ、結論としては、一言で表すと、お嫁に来たいよってこと、なん、だけどさあ。もう、何それ。
「ねえ、じゃあさあ、住むとしたらどこがいい?」
「え?」
「俺はこんくらいで充分だけど、ねこは、もっと広いのがいい?書斎とか、ほしい?」
「ん、そうだなあ。そりゃ、あるに越したことはないけど」
「じゃ、2DKって感じ?俺はさ、テラスで酒が飲みたいよね。夏とか、花火とか見えたりして」
「ああ、いいなあ、そういうの」
「月とかも見えるんだよ」
「お前にしては、風情があるじゃん」
「月は、好きだよ」
「ふうん。月見酒」
「いいね、最高」
・・・何だか、夢のようだった。
そんな物件、あるのかわかんないけど。もし二人で家賃を出しあったら、借りれて、しまえるんだろうか。2DKくらい、なら。そういうの、夢のまた夢、ってほどでもなくて、何かの面倒な手続きさえ済ませれば、手の届く夢なんだろうか。現実が、ふわふわしてくる。そういう人生って、僕にも、出来るわけ?
「ごちそーさん」
「・・・ふむ」
「だから、別に、焦げたって美味しいんだって」
「・・・そう?」
「だって話できて、楽しかったじゃん」
「まあ、ね」
「俺こう見えて、そこそこ貯金してるんだよ」
「え?」
「だからさ、住みたいとこ住んだらいいよね」
「・・・」
「俺ね、ほんの何日かだけど、公園で寝泊まりしてた時にさ、思ったんだ、別に好きなとこで寝りゃいいんだって」
「・・・公園?」
「まあ、いろいろ、追い出されてさ」
「・・・そ、そう、なの」
「ねえ!」
いきなり、横から抱きつかれる。心臓が、跳ねた。
首の後ろに、黒井の頬が当たる。息づかいが、ゆっくりと、合わさって。どうしよう、どうにかなってしまいそう。
「俺、怖がりになった。今すごくそう思った。もっと、強かった、はずなんだよ。もっともっと。お前なんか、アレしちゃうくらい」
あ、アレって、何だよ。・・・まあ、ぶっ飛ばしちゃうとか、気にもかけないとか、そんな感じ、だろうけど。
「でも、きっと、だいじょうぶだ。それも、感じる。ねえ、そういうのって・・・」
・・・。
続きは、なかった。黒井はすうと息を吸って、ゆっくりと、ピアニストが最後の音のあと、手を離すときみたいにゆっくりと、僕から離れた。
黒井は目をこすった。泣いた、の?
「お前の髪が、目に入っただけ!」
強がって、笑う。すごく子どもっぽいようでもあり、届かないくらい大人っぽくもある。いつまでたっても定まらない、風のような。
昨日だって、今朝だって、もうこれ以上ないってくらい好きだったのに。
まだ、好きになるなんて。
何より、自分の中に、そこまで人を好きになる容量が残っていたことに驚いてしまう。そんなの、なかった、はずなのに。
上限って、ないんですかね。どっかで、飽和しないんですかね。あはは、別に、いいんだけど。あはは、もう、このまんま、この気持ち、伝えたいけど。
僕は、ほんの一秒だけ、黒井を正面からハグして、頭の中で「お前が好きだ!」って叫んで、戦場へ、つまり風呂場へ向かった。
値段を勘案すれば、百円ショップを回ったり、詰め替え用などをまとめ買いする方が安いのだが、そこまで踏み切ることは出来なかった。今日の分、だけだ。さっきまでの虹を渡るような確信はここにはなく、握りしめた詰め替え用洗剤の方が、虹よりはかなく見えた。
今、心を決めて、虹に足を踏み出すことなら、出来るだろう。
でも、詰め替え用洗剤の封を切るのは、ひと月後?いや、三ヶ月以上か。
・・・そんなことは、分からなかった。
三ヵ月後といえば、もう四月になる。
会社に属していれば、四月には、いろいろと何かが変わるものだ。部署変えも、新しい上司や後輩も、まさかの転勤だって可能性はゼロではない。うちの会社はいつだって人事がギリギリで、たぶん今年はこの消費税戦争で、更にギリギリになるだろう。
要は、四月に僕がどこで何をしているか、そんなことは誰にも分からないのだ。
詰め替えのビニールパック一つに、そんな未来が、入っている。
もちろん、その頃だって、こうやってたまの週末にここへ来て、風呂を洗ってやれたらいいけど。
そうじゃ、なかったら。
まるで遺品みたいに、僕が今ここにいた微かな証としての詰め替え用洗剤があの家に残されて、きっとそれっきりなんだ。
・・・え、遠距離恋愛?
馬鹿言うな、そんなの無理だよ。
・・・まあ、そんなこといったって、なるようにしかならないし。今僕がここで何を考え、どう足掻こうと、どうなるものでもないんだけど。
そして、結局詰め替え用は棚に戻すのだった。
今日だけ。とにかく、今日を最後まで無事に生きるだけだ。それ以上のことは考えないようにしよう。現実逃避でしかなかったとしても、詰め替え用洗剤をじっと見つめて五分も突っ立っていたって、何の意味もないんだ。黒井と過ごす五分が無駄に消費されただけだ。うん。もうやめよう。
食料は、簡単な朝食用のパンと卵、昼食にパスタとトマト、一応夕飯用に鶏肉とねぎ、きのこなどを買った。他にも果汁100%のジュース、バターや缶詰、冷凍のほうれん草などをいくつか。考え始めるときりがないから、目に付いたものだけ、適当に。RPGゲームを二つ掛け持ちしてるみたいに、やれレベル上げだの、装備変更だの、仲間を見つけるのと、それぞれ全部を勘案していたら時間と体がいくつあっても足りない。黒井の生活全部まで面倒見切れない・・・というよりは、まあ、面倒を見るわけではないのだから、諦めるしかない。あいつだっていい大人だ。今までだって生きてきたんだし、僕がいなくても食い物くらい食うだろう。
・・・いったい僕は黒井の何だというのだろう。ちょっと笑えた。たった一日で奥さん気取りか。
両手にビニール袋を提げ、ようやく帰路につく。小一時間かかってしまった。あいつ、ちゃんと待ってるかな。自分で勝手に食事も掃除も済ませて、僕は用済みになったりしないかな。などと思っていたら、無意識にかなり早足で歩いていたらしい、もう着いてしまった。
出ていくときは何とも思わなかったが、ひとのマンションに一人で入るのは少し気が引けた。誰にも会いませんように、と思うと、必ず、会ってしまう。髪の長い女性が、硬い会釈を寄越してすれ違っていった。ふわりとあとから香水の匂い。どこの誰だかわからない人たちと、壁と床を隔てて一緒に住んでいる。不思議なことだ。
五階で降りて、ポケットから鍵を出そうと荷物を持ち替えながら部屋の前まで歩くと、途端にドアが開いた。
「うわ」
「お、・・・おか、えり」
「・・・ただいま」
スウェット姿の黒井が出迎える。ついさっきまで寝ていたという顔。何だ、暇だとかぼやいてたくせに。あ、暇だからまた寝たのか。
でも、鍵、開ける前にちゃんと出迎えてくれたけど。ご主人が帰ったら、ドアの前でしっぽを振っている犬のよう、って、言い過ぎか。ただ眠そうなだけだ。
両手に荷物を持ったまま強引に靴を脱ぎ、掃除用具は風呂場の前、食料は冷蔵庫に突っ込む。まずは、トーストと目玉焼きから。
「すぐ、作るから」
「ねえ、お前さ、お嫁さん出来るね」
・・・。いや、うん。来たいけどさ。ここへ。
「・・・お前は旦那様にも向かないね」
「え、何で?ちゃんと働いてるじゃん」
「今時家事のひとつも出来ないなんて、需要ないぞ。しかも、出来なくても手伝おうという気概もないし」
「いいんだよ、結婚しないから」
「・・・結婚願望、とか、ないわけ」
「ない」
「そ、そう」
いやいや、そういうやつほどさっさと結婚するんだよ。あてになるかボケ!
「じゃあお前はお嫁に行っちゃうの?」
「へっ?そ、そうね、需要が、あるかもね」
今のところ皆無だけど。
「えー、やめなよ。姉貴も嫁に行ったけど、嫁なんてそれほどいいもんじゃないよ」
「お、お前はお姉さんの何を知ってるっていうんだよ。っていうか、お嫁さん出来るねって褒めたのはお前だろ?」
「あ、そっか」
馬鹿な話をしている間に、目玉焼きの黄身に半透明の膜が張ったようになり、半熟に近づいている。もう、すぐだ。
レンジで焼いたトーストにスプーンでバターを塗りながら、バターナイフを買い忘れたことに気づく。うん、人ひとりの生活というのは、意外と物入りなのだ。これは変な意味なしに、ルームシェアなどをする方がよほど経済的だし、エコにもなると感じた。たぶん、人類が誕生してからつい最近まで、一人単位で生活を営むなんてことは出来なかったんじゃないだろうか。こうして少々のお金を払えば生活周りが全て揃えられるというのも、文明の発達と貨幣経済の発展、更に現代日本のインフラの・・・
「ねえ、焦げ臭くない?」
「うわっっ!!」
・・・・・・・・・・・・・
焦げ臭い目玉焼きと、単なるバタートースト。たとえ目玉焼きにケチャップをかけたって、最悪なことに変わりはない。
「別に、大丈夫だよ。うまいって」
「ほっといてくれ・・・」
「何、考えてたの」
「・・・日本経済と環境問題について」
「へえ?何それ」
「お前がバターナイフのひとつも持ってないからだ」
「何でそうなるの」
「・・・べ、別に」
「言わないと、目玉焼き焦がしたって言うよ」
「誰に」
「お前に」
「もう言ってる」
「あ、そっか。じゃ、これ以上言われたくなかったら言え」
「・・・分かんないやつだな」
しばらく憮然としたまま黒井の顔を見て、降参。両手を上げた。
「だ、だから・・・こう何もないと、揃えるのが大変だって・・・」
「・・・で?」
「いや、人ひとりでも、物入りだなって・・・」
「・・・で?」
「共用で生活資材を使用するという制度の有用性について・・・」
「・・・うん?」
「分かったよ。一緒に住んだ方が楽だって、嘆いてたんだ!」
いや、別に、僕は本当にルームシェアという制度の有用かつ必要性をエコの観点から論じようとしただけで・・・まあ、結論としては、一言で表すと、お嫁に来たいよってこと、なん、だけどさあ。もう、何それ。
「ねえ、じゃあさあ、住むとしたらどこがいい?」
「え?」
「俺はこんくらいで充分だけど、ねこは、もっと広いのがいい?書斎とか、ほしい?」
「ん、そうだなあ。そりゃ、あるに越したことはないけど」
「じゃ、2DKって感じ?俺はさ、テラスで酒が飲みたいよね。夏とか、花火とか見えたりして」
「ああ、いいなあ、そういうの」
「月とかも見えるんだよ」
「お前にしては、風情があるじゃん」
「月は、好きだよ」
「ふうん。月見酒」
「いいね、最高」
・・・何だか、夢のようだった。
そんな物件、あるのかわかんないけど。もし二人で家賃を出しあったら、借りれて、しまえるんだろうか。2DKくらい、なら。そういうの、夢のまた夢、ってほどでもなくて、何かの面倒な手続きさえ済ませれば、手の届く夢なんだろうか。現実が、ふわふわしてくる。そういう人生って、僕にも、出来るわけ?
「ごちそーさん」
「・・・ふむ」
「だから、別に、焦げたって美味しいんだって」
「・・・そう?」
「だって話できて、楽しかったじゃん」
「まあ、ね」
「俺こう見えて、そこそこ貯金してるんだよ」
「え?」
「だからさ、住みたいとこ住んだらいいよね」
「・・・」
「俺ね、ほんの何日かだけど、公園で寝泊まりしてた時にさ、思ったんだ、別に好きなとこで寝りゃいいんだって」
「・・・公園?」
「まあ、いろいろ、追い出されてさ」
「・・・そ、そう、なの」
「ねえ!」
いきなり、横から抱きつかれる。心臓が、跳ねた。
首の後ろに、黒井の頬が当たる。息づかいが、ゆっくりと、合わさって。どうしよう、どうにかなってしまいそう。
「俺、怖がりになった。今すごくそう思った。もっと、強かった、はずなんだよ。もっともっと。お前なんか、アレしちゃうくらい」
あ、アレって、何だよ。・・・まあ、ぶっ飛ばしちゃうとか、気にもかけないとか、そんな感じ、だろうけど。
「でも、きっと、だいじょうぶだ。それも、感じる。ねえ、そういうのって・・・」
・・・。
続きは、なかった。黒井はすうと息を吸って、ゆっくりと、ピアニストが最後の音のあと、手を離すときみたいにゆっくりと、僕から離れた。
黒井は目をこすった。泣いた、の?
「お前の髪が、目に入っただけ!」
強がって、笑う。すごく子どもっぽいようでもあり、届かないくらい大人っぽくもある。いつまでたっても定まらない、風のような。
昨日だって、今朝だって、もうこれ以上ないってくらい好きだったのに。
まだ、好きになるなんて。
何より、自分の中に、そこまで人を好きになる容量が残っていたことに驚いてしまう。そんなの、なかった、はずなのに。
上限って、ないんですかね。どっかで、飽和しないんですかね。あはは、別に、いいんだけど。あはは、もう、このまんま、この気持ち、伝えたいけど。
僕は、ほんの一秒だけ、黒井を正面からハグして、頭の中で「お前が好きだ!」って叫んで、戦場へ、つまり風呂場へ向かった。
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