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5好意が不幸に化ける時

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また別の年、父は町内会への対応を変えた

買い出し内容はメモに書き出し
野菜も切り方を教えただけで、自身では切らない
調味料の分量や入れるタイミング
こまめな味見をする様に指示した

「良かったら一杯どうぞ」

そう差し出されたのは甘酒用に買った……という名目のお酒
好意に応えて、沢山呑んだ

調理・配膳は手伝わなかった

その年、父が手伝うようになってから初めてのことが起こった

鍋に大量の甘酒と豚汁が残った

父は、大きな鍋で持ち帰ってきた

不味くは、無かった

でも、その場で味わった人達から
おかわりは無く

沢山の人がスカスカの量しか入っていない鍋を持ち帰った

ーー初めて行事に参加した人が「鍋なんて図々しい」と勘違いしたのだ

それを計算した上での量を作って居るのに

配る際の手際の悪さが、目立っていた
配膳に必死で、余裕が無い
愛想のない姿に、幼い子はコップを差し出すのを嫌がった
こぼれてベトベトの器に、顔を歪める人は多かった

病院直属の給食センター店長の父にとって
ありえない光景だった

手際良く愛想良く、こぼさず無駄にしない

父はこれを……当たり前に、無償でやって来てしまった

例えそれが好意であっても

技術の無料提供の継続は、時に人を不幸にする
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