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7ドラマチック・スイッチ

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また更に翌年
町内会長が頭をさげに来るようになった

『……俺が死んだら、どうするんだ?』

勿論、直接は言っていない
母にだけ、珍しく愚痴をこぼした
お喋りな母は私にも話した

あまりにも父の愚痴は稀過ぎて
一人で抱えるのに絶えられなかったそうだ

煽てて、口だけ動かして
作業するのは俺ばっか
正直、楽だよ
みんな下手くそだから
手伝われても、邪魔なのは間違いない
効率だって悪い

俺が金を貰ってしまったら
他の人が手伝わなくて良い理由として成立してしまう

「この先、俺無しじゃ出来ない、じゃ……ダメだろ?」

そんな思いが通じるはずもなく、優しくて断れ無い父は

その年も笑顔で依頼を受けた


ーーしかし、ここで母が立ち上がった

……なんて言うのはカッコつけすぎな言い方になるが

ただ、ご近所さんへ愚痴をこぼしただけ

……すると、たちまちその話は地域に広がり

父への理不尽な悪い噂は
とりあえず、私たちの前では顔を見せなくなった

行事の作業形態に少しは改善を見せたものの

楽しみにしていた高年齢層の減少と
若い世代の町内会離れが進み

父の寿命よりも先に、その行事の息が絶えた

ーーこれは、映画じゃない

『皆が改心して、みるみる改善されていった!

 愛されて来た町内会の行事は、今もなお受け継がれている!』


そんなシナリオは所詮妄想で、存在しなかった

それでも、みんなが望んだ『理想の展開』になった

ーー皮肉にも、
これはこれでドラマチックだと思ってしまう自分がいた

それが、この物語を綴るきっかけだった
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