188 / 275
懐かしき来訪者
187
しおりを挟む
安物のうるさい時計の針が時刻を刻み、かつらを招いてから1時間が経過していた。
ソラの行方をかつらにせがまれたウミは、なるべく時系列順に今までの出来事をかつらに伝え終えた。
落胆しながら話すウミに、しばらく悲しげな表情で頷くばかりのかつらだったが、ウミに目線を合わせて口を開いた。
「そんな悲劇があったのね…。」
「悲劇?そうなのか、これは悲劇なのか?」
ウミは無意識でつむじ付近に生えている青い髪を指先で摘んでいる。
「そうよ、悲劇だわ。新婚の夫婦がありとあらゆるトラブルに巻き込まれて離れ離れに暮らしているのですから。
本来であれば夫婦水入らずで過ごす暖かい空間のなかで愛し合い、希望に満ちた将来を夢みて語り合うはずなのよ…。」
「お、おぉ…。」
ペットボトルのコーラを飲み、ウミは左手で口元を拭った。
「神園くん?」
「あぁ?」
「ワタクシ、神園くんがこのまま終わる男性ではない事を存じておりますわ。
短い期間ではあったけれども、ワタクシの知る神園くんは非常に意思が強く実行力があり他人の意見には左右される人ではない。
どんな苦境に立たされても、諦める事などなく乗り越えて行くはずですわ。」
言い終えたかつらの口は震えていた。
「そりゃ俺があんな変態野郎になんざ負けやしないさ。」
ウミはかつらから視線を外しスタンドに大切に立てかけられているエレキギターを見つめて言った。
「こんなの序の口、屁でもねぇ。
俺はバンドで大成すんだしよ。
今までだって自分の力で問題を解決してきたんだからな。
今回も見事、ソラを探し出してやるぜ!」
すくっと立ち上がり座っているかつらを見下ろして言った。
「そうですわ。それでこそワタクシが知る神園くんだわ。」
強気な態度を取り戻したウミを見てかつらは胸元で小さく拍手をしている。
「しっかしどんだけやる気に満ち溢れたって、ソラがどこいるかわからねえのが致命的だ…。」
オンボロアパートの6畳一間でソラの行方を考えた時、かつらの助言で強気を取り戻したウミではあったが、手持ち花火のように火花は早々と散り、出ていったソラを見つけだす手がかりがない状況で、ウミはかつらに丸まった背中をみせて再び座り込んでしまった。
カチ
カチ
カチ
安物の目覚まし時計の秒針は2人に静寂を許さず、焦らせるかのように刻一刻と時ばかりが流れ、自ら行方不明になったソラへの想いを募らせる。
「その事ですがワタクシ、妙案を思い付きましたわ。
奥様を探し出すのは決してイージーではありませんが、やってみる価値はあると思うのだけれど…。」
「なんだ?聞かせろよ!」
妙案という言葉に反応したウミは腰を回転させて、目をパチクリさせてかつらを見た。
「あれはワタクシが小学生の頃、当時、まだ仔犬だったドーベルマンの"シュバルツ"をワタクシが目を離した隙に逃してしまった事がありました。」
「仔犬をか。」
「ええ。ワタクシは自分の不注意で迷子にしてしまったシュバルツを思い、自分自身を殺してやりたいほど憎みましたわ。
この件でお食事はおろか、学校にも通えなくなり両親には酷く心配をかけてしまいました。
ワタクシの運転手を務める"オガタ"が泣き崩れるワタクシを見兼ねて、従業員をかき集めシュバルツ捜査本部を設立してくれましたわ。
オガタ達は表の社会の人間だけでなく、裏社会の者達にも通ずるほど顔が利く利点をいかし、すぐさま街中をシラミ潰しで探した所、2日間でシュバルツを胸に抱く事ができました。
もし、神園くんがよろしかったら、ワタクシがオガタに相談を…キャァ!」
「その話、乗ったぜっっっ!ありがとよ!善は急げだ。今すぐオガタだかゼニガタだかに合わせてくれ!」
ウミはおしゃぶりを咥えた小熊がプリントされたパンツ以外を脱いで半裸になった。
「ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ!!あの神園くんのしなやかで美しい肉体を見てしまったわ。
ま、まさか、ここで妻である大嵐さんがいない寂しさを紛らわす為にワタクシを抱くつもりなのかしら?
だ、駄目よ!そんな貞操観念のない破廉恥な行為は許されないわ!
でも、神園くんがワタクシで癒されるのなら…。」
かつらは頬を両手でパチパチ叩いていたが、刺激が足りなかったようで尻を右手で左右順番に力を込めて引っ叩き始めた。
「あぁん!かつら!何を考えているの?
ここで流されては駄目!気をしっかり持つのよ!生まれ変わると天に誓った日を忘れてどうするの?
神園くんの事は、とうの昔に諦めたはずよ。
今や神園くんはワタクシが尊敬してやまない大嵐さんのご主人なのですからぁぁぁん!!」
ウミはスリムなブラックジーンズを履き、PIL(パブリック・イメージ・リミテッド)のバンドTシャツを着て鏡で髪を整えていた。
「おう?ケツなんか叩いてどうした?
もしかして便秘でクソが出ねえのか?
そんな無意味な事してないで恥ずかしがらず便所借してやっからいけって。
気合いを入れて、踏ん張ってこいや。
溜まったクソが出ると良いな!」
大口を開けてウミはかつらを見て笑った。
「違う…違う…そんなじゃありませんわ…ワダグヂは。(ワタクシは)うっうっうっ…。」
単に着替えていただけだと知ったかつらは、ウミが肉体関係を迫って来たと勘違いしていたなんて説明をしたくても説明できないもどかしさに涙が頬を伝った。
ソラの行方をかつらにせがまれたウミは、なるべく時系列順に今までの出来事をかつらに伝え終えた。
落胆しながら話すウミに、しばらく悲しげな表情で頷くばかりのかつらだったが、ウミに目線を合わせて口を開いた。
「そんな悲劇があったのね…。」
「悲劇?そうなのか、これは悲劇なのか?」
ウミは無意識でつむじ付近に生えている青い髪を指先で摘んでいる。
「そうよ、悲劇だわ。新婚の夫婦がありとあらゆるトラブルに巻き込まれて離れ離れに暮らしているのですから。
本来であれば夫婦水入らずで過ごす暖かい空間のなかで愛し合い、希望に満ちた将来を夢みて語り合うはずなのよ…。」
「お、おぉ…。」
ペットボトルのコーラを飲み、ウミは左手で口元を拭った。
「神園くん?」
「あぁ?」
「ワタクシ、神園くんがこのまま終わる男性ではない事を存じておりますわ。
短い期間ではあったけれども、ワタクシの知る神園くんは非常に意思が強く実行力があり他人の意見には左右される人ではない。
どんな苦境に立たされても、諦める事などなく乗り越えて行くはずですわ。」
言い終えたかつらの口は震えていた。
「そりゃ俺があんな変態野郎になんざ負けやしないさ。」
ウミはかつらから視線を外しスタンドに大切に立てかけられているエレキギターを見つめて言った。
「こんなの序の口、屁でもねぇ。
俺はバンドで大成すんだしよ。
今までだって自分の力で問題を解決してきたんだからな。
今回も見事、ソラを探し出してやるぜ!」
すくっと立ち上がり座っているかつらを見下ろして言った。
「そうですわ。それでこそワタクシが知る神園くんだわ。」
強気な態度を取り戻したウミを見てかつらは胸元で小さく拍手をしている。
「しっかしどんだけやる気に満ち溢れたって、ソラがどこいるかわからねえのが致命的だ…。」
オンボロアパートの6畳一間でソラの行方を考えた時、かつらの助言で強気を取り戻したウミではあったが、手持ち花火のように火花は早々と散り、出ていったソラを見つけだす手がかりがない状況で、ウミはかつらに丸まった背中をみせて再び座り込んでしまった。
カチ
カチ
カチ
安物の目覚まし時計の秒針は2人に静寂を許さず、焦らせるかのように刻一刻と時ばかりが流れ、自ら行方不明になったソラへの想いを募らせる。
「その事ですがワタクシ、妙案を思い付きましたわ。
奥様を探し出すのは決してイージーではありませんが、やってみる価値はあると思うのだけれど…。」
「なんだ?聞かせろよ!」
妙案という言葉に反応したウミは腰を回転させて、目をパチクリさせてかつらを見た。
「あれはワタクシが小学生の頃、当時、まだ仔犬だったドーベルマンの"シュバルツ"をワタクシが目を離した隙に逃してしまった事がありました。」
「仔犬をか。」
「ええ。ワタクシは自分の不注意で迷子にしてしまったシュバルツを思い、自分自身を殺してやりたいほど憎みましたわ。
この件でお食事はおろか、学校にも通えなくなり両親には酷く心配をかけてしまいました。
ワタクシの運転手を務める"オガタ"が泣き崩れるワタクシを見兼ねて、従業員をかき集めシュバルツ捜査本部を設立してくれましたわ。
オガタ達は表の社会の人間だけでなく、裏社会の者達にも通ずるほど顔が利く利点をいかし、すぐさま街中をシラミ潰しで探した所、2日間でシュバルツを胸に抱く事ができました。
もし、神園くんがよろしかったら、ワタクシがオガタに相談を…キャァ!」
「その話、乗ったぜっっっ!ありがとよ!善は急げだ。今すぐオガタだかゼニガタだかに合わせてくれ!」
ウミはおしゃぶりを咥えた小熊がプリントされたパンツ以外を脱いで半裸になった。
「ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ!!あの神園くんのしなやかで美しい肉体を見てしまったわ。
ま、まさか、ここで妻である大嵐さんがいない寂しさを紛らわす為にワタクシを抱くつもりなのかしら?
だ、駄目よ!そんな貞操観念のない破廉恥な行為は許されないわ!
でも、神園くんがワタクシで癒されるのなら…。」
かつらは頬を両手でパチパチ叩いていたが、刺激が足りなかったようで尻を右手で左右順番に力を込めて引っ叩き始めた。
「あぁん!かつら!何を考えているの?
ここで流されては駄目!気をしっかり持つのよ!生まれ変わると天に誓った日を忘れてどうするの?
神園くんの事は、とうの昔に諦めたはずよ。
今や神園くんはワタクシが尊敬してやまない大嵐さんのご主人なのですからぁぁぁん!!」
ウミはスリムなブラックジーンズを履き、PIL(パブリック・イメージ・リミテッド)のバンドTシャツを着て鏡で髪を整えていた。
「おう?ケツなんか叩いてどうした?
もしかして便秘でクソが出ねえのか?
そんな無意味な事してないで恥ずかしがらず便所借してやっからいけって。
気合いを入れて、踏ん張ってこいや。
溜まったクソが出ると良いな!」
大口を開けてウミはかつらを見て笑った。
「違う…違う…そんなじゃありませんわ…ワダグヂは。(ワタクシは)うっうっうっ…。」
単に着替えていただけだと知ったかつらは、ウミが肉体関係を迫って来たと勘違いしていたなんて説明をしたくても説明できないもどかしさに涙が頬を伝った。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
ヤンキー、悪役令嬢になる
山口三
恋愛
岸田和華(きしだわか)は異世界に飛ばされた。自分が読んでいた小説の悪役令嬢ジュリエットに憑依してしまったのだ。だが和華は短気でガサツで、中学高校と番を張ってたヤンキーだ。高貴な身分の貴族令嬢なんてガラじゃない。「舞踏会でダンス? 踊りなんて盆踊りしか知らないからっ」
一方、リアル世界に残された和華の中にはジュリエットが入っていて・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる