32 / 42
【開業前Side Story】探偵になりたい英雄の極めて不本意な日常
第5話 竜はお留守番
しおりを挟む
自動車も電車もない世の中、街から街への移動は普通馬車で何日もかかる。
リュートは白竜、ギルフォードは火竜。
それぞれが数時間で移動出来てしまうのは、一般市民からすればなかなかに卑怯な移動手段だろうと思う。
気性の大人しい、市民の移動の足として首長竜と言う別種類の竜もいるが、距離や事前の申請など色々と制限があり、そこまで気軽な交通手段だとは言い切れない。
白竜は、勝手に付いてきた竜ではあるが、今となっては色々な意味で重宝している。
リクルの冒険者ギルドに戻って、元々の依頼の完了報告を済ませた頃には、ギルフォードが言っていた通りに、リュート宛の指名依頼がザイフリート辺境伯家から出されていた。
辺境伯家直々の依頼ということで、ギルド内がざわつくのも仕方のないところではあったが、リュートは周囲の声にはまったく取り合わなかった。
いちいち反応していては、やっていられないからだ。
「辺境伯領と、ブラウニール公爵領ってまるで方向違うよな? とりあえず、どうしろと?」
今回の依頼に関して、ザイフリート辺境伯家を代表する形で、ギルフォード・リードレもリュートと行動を共にする話になっていた。
辺境伯家当主も、騎獣軍の軍団長も、それぞれに自分の職務があり、おいそれとは居住するところからは動けないからだ。
ギルドからの依頼書を懐にしまいながら尋ねるリュートに「ああ」と、ギルフォードが軽い調子でそれに答えた。
「ブラウニール公爵領はどちらかと言えば王都に近い。その領都に行けば、ある程度を長男のミハイルさんが手配して下さっていると聞いている。まあ多分だが、領都の屋敷を見張るとか、周囲の聞き込みとか、男爵を探して後をつけるとか……その辺じゃないか?」
まさに刑事か探偵か。
なるべく表情を変えないよう気を付けつつも、リュートは内心ではかなりテンションが上がっていた。
突然意識を刈り取られるかのようにデュルファー王国に放り出されるまで、リュートは日本ではかなりのミステリーマニア、それも探偵小説が大のお気に入りだった。
まあ、どこぞの部屋に容疑者を全員集めて謎解き……なんてことは、本の中の世界の話と分かっていた。
分かってはいたが、それと憧れを持たないこととは同列の話には出来なかった。
――お金がたまったら、探偵事務所を開く。
異世界だろうとなんだろうと、夢くらいあってもいいだろうと、リュートは内心では思っていたのだ。
そして今回、絶好の機会が目の前に現れた。
辺境伯家に今後、都合のいいように利用されるかも知れない……なんて思いながらも、リュートは探偵を気取りたい誘惑に抗えなかったのだった。
再び、ギルフォードとそれぞれが竜にまたがって、見慣れたリクルの街から行ったことのない街、ブラウニール公爵領領都エッボへと移動する。
街に入る門の外に竜舎が存在しているあたり、さすがは公爵家が管理する領都と言うべきだろう。
リュートの白竜、ギルフォードの火竜とそれぞれをそこに預けて、二人はエッボの街中に足を踏み入れることにした。
来たことがあるのか、予め何らかの指示があるのか、ギルフォードが迷うことなく街中をスタスタと歩いて行くので、リュートとしてはもはや質問することは諦めて、黙って後ろを歩くよりほかなかった。
「いやぁ、おまえと歩くなら護衛もいらんし、背後に気を配らなくてもいいし、ラクでいいな」
さすがにそんなことを言って笑いながら歩いている時には、後ろから蹴り飛ばしてやろうかとは思ったが、それを実行に移す前にギルフォードが歩みを止めたため、リュートも渋々矛を収めるしかなかった。
「……どう見ても高級宿だな」
「まあ、エイベル様かブラウニール公爵家かが費用は出してくれるんだろうから、いいんじゃねぇの?」
「言質は取ったからな」
お金を持っていないとは言わないが、意味のないことに無駄に使う気にはなれない。
ギルフォードにそのあたりはしっかりと釘を刺しつつも、その先の対応は委ねておくしかなかった。
どう見ても高級宿の、そのまた更に上層階にある部屋に案内をされた。
ただしその理由は、窓から外を見た途端にすぐに氷解した。
「公爵家が見えるのか……」
もちろん丸見えと言うわけではない。
敷地の周囲には高い塀があり、内側には背の高い木が何本も植えられていて、中庭なんかは見えない設計がきちんと施されている。
ただ、何が見えるのかと言えば、その屋敷に出入りをする人間を、遠巻きながらもきちんと確認することが出来るのだ。
全てを秘密主義にしてもいいところを敢えてそうしないのは、後ろ暗いところはないとの宣言なのか、ちょっとやそっとで調べられる筈がないとの自信なのか。
「恐らくは男爵なり当の息子なりが出入りをするだろうから、様子を見ながらあとは臨機応変にってコトらしいぜ」
ベッド脇の机に置かれていた手紙にざっと目を通しながら、ギルフォードがそんなことを言ってくる。
「出入りってことは、中で滞在はしていないってことなのか?まだその連中、そこまで信用されてはいないと?」
「まあ、当人がどんな態度かは知らんが、後見が素行不良の辺境伯家次男とその取り巻きじゃな。俺がブラウニール公爵でも様子見したくなるわ。今は朝夕の食事を共に、って話で出入りを許されているんだと」
素行不良の程度が分からないが、ギルフォードがそこまで言うのも相当なものなんだろう。
「ふうん……ってか、その男爵の後ろに辺境伯家次男がいるってコトは、もうバレてるんだな?」
「っつーか、エイベル様が自らブラウニール公爵に詫びも兼ねて種明かしに行ってる。次男に何が起きても辺境伯家は関知しない――すなわち煮るなり焼くなり好きにしていい、とな」
「おぉ……さすが辺境伯家の長ともなればシビアだな」
「まあ、出入り見張ってるだけで進展があるかと聞かれるとこっちも困るんだが。しばらく地道に見張るしかないってコトだろうさ」
何が悲しくて男と二人で張り込み……などとブツブツ呟くギルフォードの頭の上に、とりあえずリュートは拳骨を落としておいた。
リュートは白竜、ギルフォードは火竜。
それぞれが数時間で移動出来てしまうのは、一般市民からすればなかなかに卑怯な移動手段だろうと思う。
気性の大人しい、市民の移動の足として首長竜と言う別種類の竜もいるが、距離や事前の申請など色々と制限があり、そこまで気軽な交通手段だとは言い切れない。
白竜は、勝手に付いてきた竜ではあるが、今となっては色々な意味で重宝している。
リクルの冒険者ギルドに戻って、元々の依頼の完了報告を済ませた頃には、ギルフォードが言っていた通りに、リュート宛の指名依頼がザイフリート辺境伯家から出されていた。
辺境伯家直々の依頼ということで、ギルド内がざわつくのも仕方のないところではあったが、リュートは周囲の声にはまったく取り合わなかった。
いちいち反応していては、やっていられないからだ。
「辺境伯領と、ブラウニール公爵領ってまるで方向違うよな? とりあえず、どうしろと?」
今回の依頼に関して、ザイフリート辺境伯家を代表する形で、ギルフォード・リードレもリュートと行動を共にする話になっていた。
辺境伯家当主も、騎獣軍の軍団長も、それぞれに自分の職務があり、おいそれとは居住するところからは動けないからだ。
ギルドからの依頼書を懐にしまいながら尋ねるリュートに「ああ」と、ギルフォードが軽い調子でそれに答えた。
「ブラウニール公爵領はどちらかと言えば王都に近い。その領都に行けば、ある程度を長男のミハイルさんが手配して下さっていると聞いている。まあ多分だが、領都の屋敷を見張るとか、周囲の聞き込みとか、男爵を探して後をつけるとか……その辺じゃないか?」
まさに刑事か探偵か。
なるべく表情を変えないよう気を付けつつも、リュートは内心ではかなりテンションが上がっていた。
突然意識を刈り取られるかのようにデュルファー王国に放り出されるまで、リュートは日本ではかなりのミステリーマニア、それも探偵小説が大のお気に入りだった。
まあ、どこぞの部屋に容疑者を全員集めて謎解き……なんてことは、本の中の世界の話と分かっていた。
分かってはいたが、それと憧れを持たないこととは同列の話には出来なかった。
――お金がたまったら、探偵事務所を開く。
異世界だろうとなんだろうと、夢くらいあってもいいだろうと、リュートは内心では思っていたのだ。
そして今回、絶好の機会が目の前に現れた。
辺境伯家に今後、都合のいいように利用されるかも知れない……なんて思いながらも、リュートは探偵を気取りたい誘惑に抗えなかったのだった。
再び、ギルフォードとそれぞれが竜にまたがって、見慣れたリクルの街から行ったことのない街、ブラウニール公爵領領都エッボへと移動する。
街に入る門の外に竜舎が存在しているあたり、さすがは公爵家が管理する領都と言うべきだろう。
リュートの白竜、ギルフォードの火竜とそれぞれをそこに預けて、二人はエッボの街中に足を踏み入れることにした。
来たことがあるのか、予め何らかの指示があるのか、ギルフォードが迷うことなく街中をスタスタと歩いて行くので、リュートとしてはもはや質問することは諦めて、黙って後ろを歩くよりほかなかった。
「いやぁ、おまえと歩くなら護衛もいらんし、背後に気を配らなくてもいいし、ラクでいいな」
さすがにそんなことを言って笑いながら歩いている時には、後ろから蹴り飛ばしてやろうかとは思ったが、それを実行に移す前にギルフォードが歩みを止めたため、リュートも渋々矛を収めるしかなかった。
「……どう見ても高級宿だな」
「まあ、エイベル様かブラウニール公爵家かが費用は出してくれるんだろうから、いいんじゃねぇの?」
「言質は取ったからな」
お金を持っていないとは言わないが、意味のないことに無駄に使う気にはなれない。
ギルフォードにそのあたりはしっかりと釘を刺しつつも、その先の対応は委ねておくしかなかった。
どう見ても高級宿の、そのまた更に上層階にある部屋に案内をされた。
ただしその理由は、窓から外を見た途端にすぐに氷解した。
「公爵家が見えるのか……」
もちろん丸見えと言うわけではない。
敷地の周囲には高い塀があり、内側には背の高い木が何本も植えられていて、中庭なんかは見えない設計がきちんと施されている。
ただ、何が見えるのかと言えば、その屋敷に出入りをする人間を、遠巻きながらもきちんと確認することが出来るのだ。
全てを秘密主義にしてもいいところを敢えてそうしないのは、後ろ暗いところはないとの宣言なのか、ちょっとやそっとで調べられる筈がないとの自信なのか。
「恐らくは男爵なり当の息子なりが出入りをするだろうから、様子を見ながらあとは臨機応変にってコトらしいぜ」
ベッド脇の机に置かれていた手紙にざっと目を通しながら、ギルフォードがそんなことを言ってくる。
「出入りってことは、中で滞在はしていないってことなのか?まだその連中、そこまで信用されてはいないと?」
「まあ、当人がどんな態度かは知らんが、後見が素行不良の辺境伯家次男とその取り巻きじゃな。俺がブラウニール公爵でも様子見したくなるわ。今は朝夕の食事を共に、って話で出入りを許されているんだと」
素行不良の程度が分からないが、ギルフォードがそこまで言うのも相当なものなんだろう。
「ふうん……ってか、その男爵の後ろに辺境伯家次男がいるってコトは、もうバレてるんだな?」
「っつーか、エイベル様が自らブラウニール公爵に詫びも兼ねて種明かしに行ってる。次男に何が起きても辺境伯家は関知しない――すなわち煮るなり焼くなり好きにしていい、とな」
「おぉ……さすが辺境伯家の長ともなればシビアだな」
「まあ、出入り見張ってるだけで進展があるかと聞かれるとこっちも困るんだが。しばらく地道に見張るしかないってコトだろうさ」
何が悲しくて男と二人で張り込み……などとブツブツ呟くギルフォードの頭の上に、とりあえずリュートは拳骨を落としておいた。
11
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる