クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫

文字の大きさ
204 / 286

マーリン

しおりを挟む
「何も起きませんね。壊れているのでしょうか?」
デイルさんは何度か魔力を込めて、使えないことを確認してから、火の杖を返しながら言った。

「失礼ですが、デイルさんは魔法のスキルをお持ちですか?」
持っていないのは確認した上で聞く。

「いえ、獲得していません」

「実は、この杖は使用者を選ぶのです。僕はこのように使用することが出来ます」
デイルさんに説明してから、火の杖に魔力を込めて炎の壁を作り出す。
壁といっても、畳一畳分くらいのサイズで、厚みもない。
火傷を覚悟で通り抜けることも出来るだろう。

「そんな……。ありえません」
デイルさんが驚愕する。
先程自分が発動出来なかったことを僕が簡単に発動したからではなく、杖から離れたところに炎の壁が出来たからだ。

この世界の人は自身の魔力を魔法として発動するので、自身の体に接しているところを起点としないと魔法を発動出来ない。
それは魔導具でも同じで、魔導具が媒体になるだけで、必ず魔導具から事象が起こる。
デイルさんは杖の先から炎が出て壁を形成すると思っていたはずだ。
それが、少しではあっても離れたところに急に壁が形成されれば驚くのも無理はない。

僕もこの事実を知ってからは、信頼出来る相手の前以外では手の平から魔法を放つように気を付けている。

「この杖を見つけた時に僕も驚きました。もしかしたら、見えないだけで杖から炎が出ているのかも知れませんが、僕には調べるだけの知識も経験もありません。実戦に使うには心許ないので、倉庫に眠ってもらうしかありません。それはもったいないので、これを機に専門家に譲ろうと思った次第です」
僕は耳触りのいい言葉を適当に並べて説明する。

「少し時間をください」
そう言ってデイルさんは試験場を出ていき、男の人を連れて戻ってきた。

「こちらの者に使わせてみてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

デイルさんが水魔法と風魔法を習得している男の人に火の杖を使わせる。
すると、先程と同じように炎の壁が形成された。
この人は魔法使いのカテゴリにカウントされたようだ。

「おおぉ!素晴らしい。本当にこれを頂いてもよろしいのでしょうか?」
デイルさんは少し興奮気味だ。

「はい。支部長に渡してください。対価ではありませんが、先程の魔導具の件よろしくお願いします。作って頂けるのであれば、冒険者ギルドまでお願いします」
騎士はこの後辞める予定なので、冒険者ギルドの方に連絡をしてもらうように頼む。
この様子だと、デイルさんからマーリンさんに悪くない形で話はいくはずだ。

「その必要はない。デイル!貴様の目は節穴かっ!」
急な大声にビクッとしながら振り向くと、マーリンさんがいた。
マーリンさんだけでなく、工房の方にいた人がみんな作業を止めてこちらを見にきている。

「支部長、この杖の特異性は私も理解しております。騎士団長様よりお譲り頂けるとのお言葉も頂いております」

「そんなことではない!ここでは落ち着いて話は出来ないか……。そこのお前、ついて来い。デイル、お前もだ。詳しく話を聞かせろ」
40後半くらいだろうか……。歳は重ねていそうだけど、サラボナさんの言っていた通りきれいな人だ。
ただ、第一印象はお姉さんではなく親方だ。

何に対してマーリンさんがデイルさんに怒っているのか知らないけど、話を聞いてもらえるみたいだし、ラッキーだな。

「適当に座れ」
また応接室にでも行くと思っていたけど、連れてこられたのは、工房の中にある部屋だ。
休憩室というよりも、倉庫といった方が近いかもしれない。

座れと言われても椅子はないので、適当な木箱の上に腰掛ける。

「お前、名前は?知っていると思うが、私はこの支部を任されているマーリンだ」

「クオンといいます」

「デイル、経緯を説明しろ」
マーリンさんに言われて、デイルさんが僕が訪ねてきたところから順に説明する。

「ほう。お前が噂の騎士団長か。いくつか答えれば魔導具は作ってやる」
僕のことを知ってはいたようだ。

「何でしょうか?」

「あの杖はどうやって手に入れた?」

「先程、デイルさんがダンジョンで拾ったと説明していましたよ」

「あんな物がダンジョンに転がっているわけがないだろう。聞き方を変えようか。どうやって作った?」
僕が作ったと何故かバレているようだ。
それらしいスキルを持っているわけでもないし、なんでバレたんだ……?

「言っている意味がわかりません」
認めれば面倒なことになるのが目に見えているので否定する。

「知っているか?人は誰でも嘘を吐く時に、表情に多少の変化が出る。表情に出ないように気を付けても、それがおかしく見えるものだ」
なるほど。実際に僕が作ったと気付いているわけではなく、カマをかけてきたということか。

「そうなんですね。でも、僕がその杖の作成者というのは間違ってますよ。拾っただけです」
自身の幻影を自分自身に被せてから返事をする。
これで、表情を読まれることはない。

「どこのダンジョンで拾ったんだ?」
マーリンさんにこちらを睨み気味に聞かれる。

「魔法学院のダンジョンです。もしかしたら、生徒か教員が落としたのかもしれませんね。まあ、ダンジョンで見つけた物は拾った人に所有権があるはずなので、トラブルにはならないはずですよ」
幻影にニコッと笑わせながら答える。

「……言いたくないならそれでもいい。だから、そのふざけた顔をやめろ」
僕の笑顔は人を不快にさせるようだ。

「ふざけているつもりはなかったですけど、わかりました」

「次の質問だ。メルダンの娘を治したのはお前だな?」
杖のことはもういいようだ。

「メルダンって誰ですか?」
それらしき人に心当たりはあるが、その人の名前を知らないので確認する。

「ザングの領主だ。騎士団長のお前がなんで知らない?」
貴族の名前くらいは知っていて当然なのだろう。

「あの人がメルダンさんなんですね。確かに僕の持っていた秘薬で治しましたよ。それから、貴族の名前を知らないのは、騎士になって日が浅いというのもありますが、貴族に興味がないからです」
これは調べればわかってしまうことなので、素直に認めることにする。

「秘薬もダンジョンで拾ったのだったな?」

「はい、そうです。誰かが野営でもした後にしまい忘れたんだな、ラッキー!と思って拾ったポーションがまさか失った足が生えてくる程のものだったなんて驚きです」

「なぜそれがポーションだと思ったんだ?毒かもしれないだろ?それともお前は、得体の知れないものを領主の娘に飲ませたのか?」

「拾った時に一舐めしたんです。そしたら、切り傷が治ったのでポーションなんだなと」

「未知の杖に、奇跡を起こす秘薬。2つもダンジョンで拾うなんて、自分で言っていておかしいとは思わないのか?」

「僕は運がいいようですね」

「最後の質問だ。なんで急に嘘が上手くなった?」

「元々嘘なんて吐いていませんので、答えかねます」

「いいだろう、その杖を寄越した礼に声を変える魔導具を作ってやる」

「助かります。どのくらい掛かりますか?」

「元々、声を変える魔導具は作ったことがある。違うのは、特定の人物の声を出すというだけだ。その機能を付け加えて調整するだけだから、10日もあれば完成する」
思ったより早いな。

「わかりました」

「“また”ダンジョンで面白いものを拾ったら持って来い。代わりに望むものを作ってやる」

「そんな簡単に拾うことなんてないと思いますが、もしも拾ったら持ってきます。僕が要らないものであればですが……」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...