天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫

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一方、王国では

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国王視点


異世界の勇者の召喚に成功した。

勇者に聖女、賢者までいる。

これで魔族共の領地が手に入るのも近いな。
その後は帝国も滅ぼしてこの世界を余のものにするのもいいかもしれん。

宰相が全員分の結果を聞き終えて戻ってくる。
結果は聞こえていたが、宰相から報告を受ける。

勇者が誰かという報告ではない。
誰を見せしめに処刑するかという報告だ。

元々、反抗させない為に1人見せしめに殺す予定だった。
ちょうど天職が盗賊なんてゴミのような奴がいたので、宰相はそいつにしたようだ。
余もそれが良いと思ったので了承する。

宰相が盗賊が天職のゴミを処刑すると言うと異世界人達が騒ぐが、宰相が黙らせる。

処刑は可哀想だから追放にしようと余が宰相に耳打ちする。
もちろんそんなことは思っていない。
元々の筋書き通りだ。

ゴミが転移陣に引きずられていき、転移した。
転移先は神すらも逃げ出すと言われている深淵の樹海だ。
1分も保たずに死ぬだろう。

死ぬところが見れなくて残念だ。

「きゃーー」
「変態!」
「気持ち悪いもの見せるな!」
異世界人達が余に、騒ぎながら無礼なことを言う。

「こ、国王陛下……。その格好は?」
宰相が余のことを驚愕の表情で見ている。

余は自分を見る。

は……?

何故か裸になっていた。

「……宰相、後は任せる」
冷静を装って命令を下したはいいが、何が起きたかわからない。
異世界人の誰かが余に何かしたのか?
色々と思うところはあるが、今は服を着なければいけない。

余は笑われながら、王の間を後にする。
屈辱だ。

自室の前には使用人のメイドが焦った様子で立っていた。
余を見てさらに困惑する。

「こ、国王陛下。お伝えしないといけないことがあります」

「今はそれどころではない。余の服を用意しろ!」

「それが……国王陛下の服が全て消失しました」
メイドが意味の分からないことを言った。

「何を言っている!余の姿が見えないのか!服を用意しろと言っているんだ!」
余はふざけたことを言うメイドに怒鳴る。

「……見てもらった方が早いと思います。私は誰かに服を借りてきます」
メイドは余の命令を無視して走り去っていった。

あいつはクビだ!

余は自室の扉を開ける。

そこには服どころか何もなかった。
家具すらない。

「国王陛下、ひとまずこれを……」
余が呆然と立ち尽くしていると、先程のメイドが服を持って戻ってきた。

「余にこれを着ろと言うのか?」
メイドが持ってきたのは使用人用の服だ。

「申し訳ありません。しかし私がすぐに用意できる物はそれくらいしかありません。お許しください」

「お前はクビだ!今すぐ出て行け!」

「そんな……」

「二度言わせる気か?処刑されたくなければ今すぐ余の前から失せろ!」
メイドが泣きながら出て行った。
泣きたいのは余の方だ。

部屋に1人となった余は、裸よりはマシだと使用人の服を着る。

「クソ!小さくて着れないではないか!」

ドンドンドン!

「国王陛下至急お伝えしないといけないことがあります」
ドアを忙しなく叩かれた後、言われる。

「何か知らないが、それよりも余のサイズに合った服を持ってこい!」

「いや、それよりも至急お伝えしないといけないことが……」

「いいから持ってこい!殺されたいのか!」

「た、只今持ってきます」
バタバタと走っていく音が聞こえる。

余は中途半端に履いたズボンを脱ぎ、投げ捨てる。

しばらくして服が届いた。
普段余が着ているものよりは安物のようだが、妥協してやるとするか。

……今度はちゃんと履けたからな。

「国王陛下、至急お伝えしないといけないことがあります」
服を持ってきた貴族らしき男が言う。
こいつはどこの家のものだったか……

「さっきもそんなことを言っておったな。くだらないことだったら許さないからな」

「宝物庫の中身が全て消えました」
余の耳はおかしくなってしまったのだろうか……。

「よく聞こえなんだ。もう一度言え」

「宝物庫が空になりました」
聞き間違えではなかった。

「……見張りは何をしていたのだ!賊に全て盗まれるとは何事だ!」

「ち、違います。それが…「何が違うと言うのだ!」

「目の前でいきなり全て消失したんです」
そんなふざけたことがあるか。

「言い訳とは見苦しい。見張りをしていた者は処刑しろ!お前はクビだ!爵位は剥奪だ!」

「国王陛下、本気で言われていますか?」

「本気だ!無能な奴隷など要らぬ」

「……わかりました」
男は出て行った。

クソ!どいつもこいつも使えない。
宝物庫の中身が無くなっただと?あそこにはどれだけの物が保管されていたと思っているのだ。

「国王陛下、失礼します」
少しして、宰相が入ってきた。

「なんだ?」

「ルマンダ侯爵が話があるそうです」

「今はそれどころではない!要件だけ聞いてこい」

「ルマンダ侯爵はただならぬ雰囲気でしたが、本当によろしいでしょうか?」

「何用かは知らぬが、今はそれどころでない。いいから聞いてこい!」
宰相まで使えぬようになりおったか。
そんなこと余が言わなくてもわかるだろうが!

「かしこまりました」
宰相が部屋から出て行く。

コンコン!

「国王陛下、お伝えすべきことがあります」
宰相が出て行ってすぐにまた誰かやって来た。

「今度はなんだ!」

「王妃様がお怒りになられています」
今度は妻か……。

「今はそれどころではないのだが、何に腹を立てているんだ?」
あいつを怒らせると後が面倒だ。
内容を聞かなければならない。
本当はそれどころではないのだが……

「国王陛下が王妃様に贈られた物が全て無くなったそうです。妾を捨てて、他の女に貢ぐつもりかとお怒りになられています」

「そんなこと余は知らん!王妃が無くしただけじゃないのか?」

「国王陛下が贈られた物が全て無くなっているのです。それは考えられません。王妃様は国王陛下が盗んだと本気で思ってはいないでしょうが、代わりの物を贈って機嫌をとられた方がいいかと具申します」

「わかった。お主は下がって良い。あいつには何が欲しいか聞いておいてくれ」

「かしこまりました」

「国王陛下、お伝えすることがあります」
次から次へと……

「なんだ!」

「王女様がお怒りになられています」
次は娘か……

「何を怒ってるんだ?」
あれだけ甘やかしてやっているというのに、何を余に怒ることがあるのだ。

「国王陛下から貰った物が全て無くなったそうです」
娘もか……。

「代わりに何か送るから機嫌を直してくれと言っておいてくれ。今は忙しい」

「かしこまりました」

「少し待て!」
出て行こうとする男を呼び止める

「無くなったものは本当に全てか?」

「正確には国王陛下が買い与えた物です。国王陛下が送られた手紙などは残っています。それから王女様のお小遣いで買われた物は、高価な物であっても残っています。それもあって王女様は国王陛下が持っていったと思われています」

なんだそれは……。余が金の力で手に入れた物が全て消失したとでも言いたいのか……。

「お主はもう下がってよい」

「失礼します」

宝物庫の中身も無くなっているからな……。
とりあえず宰相辺りに金を出させて妻と娘に贈り物をするとするか……。

「国王陛下、失礼します」
ちょうどいいところに宰相がやってきた。

「ちょうどいいところに来たな。宝物庫の中身が無くなったのだ。妻と娘の機嫌を取る為に金がいる。金を出せ!」

「……そんなことよりも大事な話があります」

「そんなこととはなんだ!」
あいつらがヘソを曲げるとどれだけ面倒かこいつには分からんのか?

「ルマンダ侯爵から伝言を預かって来ました。まずは聞いてください。聞いた上でそんなことと思われるなら謝罪いたします。『息子の爵位を剥奪することは、私を敵に回してもよいとのご判断をされたと受け取りました。私も爵位を返上します』とのことです。なぜルマド伯爵の爵位を剥奪なんてしたのですか!?ルマンダ侯爵の派閥は全体の1/3以上です。しかも武闘派ばかりです。全てを敵に回して勝てる見込みがあるのですか?」
思い出した。
さっきの男はルマンダ侯爵の息子だった。

あそこは宰相の言う通りかなりの力を持っている。
まずいまずいまずいまずい…………
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