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第一章 唇を奪われたお姫様と片想いの魔女
第十二話 奪われた唇 ③
しおりを挟む「──んっ! んっ! ……やだぁ、もぉっ、へミリー! おひゅじゃけがふぎまふよっ! おひゃめなはいっ! 」
「いいえ。お嬢さま……」
「へぇ?……な、何でふゅって?! 」
セルリアは無言で応えたまま、摘まんだ唇を決して離すことはしなかった。むしろ更に指先にきゅっと力を込めてきつく引っ張った。
「んっ!! んぁんっ! おひゅじゃけふぁおひゃめなはいっ! 手をへゃなしてっ! 」
レイラの唇はセルリアにきつく引っ張っられて、スルメのように突っ張り、前へと長く伸ばされた。
「──ひぁっ! ひゃぁん、ひゃめて! ひょんとにやめて頂戴! へミリーっ!! 」
「うふふふ、ごめんなさい……レイラ様……」
しかしセルリアはその手にぎゅうと強く力を込め、更に思いっ切りレイラの唇を前に引っ張った。
「おひゅじゃけがふぎまふよっ! おひゃめなはいっ! 」
するとセルリアはエプロンのポケットからある「もの」を掴み出し、手の平の上に掲げた。
「──ッ! ひゃ、ひゃに?! 」
そうしてセルリアは、何事かを口の中でブツブツと唱えたかと思うと、仕上げとばかりにカッと目を見開き、最後にレイラの唇をきつく摘まんで唱えた。
「『タラコ』よ! 唇の代わりとなせ!! 」
「──きええぇぃっ!!! 」
──ぽんっ!!
「──ッ!!! 」
という、まるでシャンパンの栓を引き抜いたかのような音が部屋に響き渡ったかと思うと、
「………」
部屋に静寂が戻った。
セルリアは手に二つの赤くプニプニとした長ブドウのようなものを摘まみ持ちながら、ニコッとレイラ姫に微笑んだが、その時にはもう変身薬の効き目が切れていて、オレンジブロンドの髪を結い上げた、いつものセルリアの顔立ちに戻っていた。
レイラ姫は目に涙を溜めて叫んだ。
「あ……あなた、エミリーじゃないっ! 」
「レイラ様の唇をちょっとお貸し頂きますわ。ごめんなさい! また用が済んだら返しにきますから……」
「えっ! えっ?! ちょっと、何?! ……わたくしの唇っ?! ……」
レイラは慌てて鏡に目を遣ると、レイラの上下の唇は大振りのタラコに変わっていた。
「──きゃあぁぁぁぁぁっっ!! なっ、なんてことをっ!! 」
レイラは愕然としながら鏡に映る自分の顔を見ながら、今や分厚く飛び出たタラコへと変わってしまった唇を撫で回し、引っ張り取ろうとするが、タラコは既に顔の一部となりしっかりとくっついている。
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