深森の魔女セルリアの物語

端月小みち

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第二章 王女に恋した魔女の息子

第三十話 使い魔リーヴィッド ①

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「ダメよ! 母さんは許しませんよ! 」

 息子ダニーの告白を聞くなり、母セルリアは目くじらを立てて反対した。

「──こともあろうに王女様よ? お姫様よ?! まったくどこの街娘に見初めたのかと思ったら。母さんだってあなたの初恋に出来る限りの応援をしてあげようと思ったのに、よりにもよってシェリー姫の婚約者になりたいだなんて!! しかも馬上槍の御前試合に出るとか……全くもぉっ! 」

「だって母さん、シェリーはとってもいいなんだ。母さんだって絶対気に入るよ! 」

「そ、そりゃあ……母さんだって……あなたの女性を見る目を信じない訳じゃないのよ……いや、でもそうじゃなくて……」

 そう言いながら、思わず口を衝いて出そうになった言葉をセルリアは呑み込んだ。

──だって、あなたたち『異母兄妹』ってことじゃない? ……ディーンがあなたを婿に迎えてくれるはずなんてないじゃないの!

「──そうじゃなくて、何だよ? 母さん!」

「え? それは、その……えぇと、そ、そうよ、あなた、剣なんて握ったことないし、馬だって乗ったことないでしょう? 」

「──ふふんっ! 僕はこう見えても、母さんの魔法のレッスンの合間には、木の枝を剣に見立てて毎日庭で素振りを怠ったことはないし、ロバの背で乗馬の感覚も掴んできたよ。それに懸垂や腕立て伏せに、あと走ったりして身体作りもずっと続けてきたんだ──」

「まぁっ! 最近あなた、腕回りとか身体つきがガッチリしてきて……まるで父さんみたいに……胸板も厚くなってきたと思ってたら、隠れてそんなことをしていたのね……」

 セルリアはかつてのディーン王子の姿を思い出し思わず顔をポッと赤らめた。

「──だからさ、母さん? 剣や武具と馬をさ、僕のために揃えておくれよ、お願いだよ。いいでしょう? 」

「ちょっと待ってよ。母さんはあなたのことが心配なのよ。試合で大怪我をして帰って来ないかって……」

「僕はもう子供じゃないよ、母さん! あんな素敵なが、嫌いな男と結婚させられた挙げ句に、ずっと不幸な一生を送るかも知れないなんて僕にはとても我慢ができない! 」

「──でも、あなたは魔法使いなのよ。彼女とは違う人種なの! そのことはいずれあなたにも分かるわ。あなたはね、無駄に魔力を浪費さえしなければシェリーの十倍も長生きすることになるのよ。あなたはシェリーが……愛する奥さんが先に老いて亡くなっていく姿を間近で見たいの? 」

「そ、それは……勿論そんな悲しいことは嫌さ……」

「魔法使いは普通の人とは幸せな結婚生活を営むことは無理なの……それが魔法使いの運命さだめなのよ。あなたにはまだ難しいかもしれないけど、もう大人なんだから、このことは分かって頂戴ね……」

「……僕は、魔法使いと普通の人との『違い』が原因で彼女に他の好きなひとができたんだったら、僕は諦めてそいつに彼女を譲るよ。でも、今は彼女がせめて不幸にならないように、僕にできることをさせておくれよっ! ねぇ、母さん! お願いだよ! 」

 セルリアは、息子ダニーの自分を見詰める真剣な眼差しを見ているうちに、十九年前ディーン王子を諦めきれず王宮へメイドとして紛れ込んだ自分とダニーが重なって見えてきた。

「ふぅっっ……」

 セルリアはやれやれという顔をして溜め息を一つついた。
「……仕方のない子ね……あなたのその諦めの悪いところは、残念ながらわたしに似てしまったのかもしれないわね……」

「──やったぁ! じゃあ、試合に出させてくれるんだね! 」

「でも、約束してね。決して試合では無理をしてはダメよ? 危ないと思ったらすぐ棄権しなさいね? ……」

「うん分かったよ」

「──それから……」

「え、まだあるの……? 」

「あるわよ! あなたは魔法使いなんだから、いざとなったら魔法に頼りなさい。いいわね? これは約束よ? 」

「あぁ、分かった母さん! 約束するよ」

「じゃあ、やると決めたらとことんまでおやりなさい! ……」
「──と言っても……あなた、誰か良い剣の先生に教えてもらう必要があるんじゃないのかしら? 」

 セルリアは特に頼る者もいない孤独な一人息子を心配げに眺めた。

「母さん、こんな人里離れた森の奥にそんな先生が居るものか。自分で何とかするさ……」

 セルリアは尚も心配そうにダニーを見ながら考え込んだ。

「う~ん……でも、そんな甘いもんじゃないと思うのよねぇ……だって、国の外からも剣や槍の猛者達がうじゃうじゃと集まってくるんでしょう? 」

「そりゃそうだよ。でも、僕も腕力の強さと素早い身のこなしには自信があるよ? 簡単に負けやしないさ! 」

「……う~ん、でもそうは言ってもねぇ……」

 その時、キッチンから部屋へと入ってきた黒猫リーウィッドとセルリアの目が合った。

「そうだ! リーウィッドよ! 」

「みゃぁぅぅ? ……」



※※※※※※※※※※

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