深森の魔女セルリアの物語

端月小みち

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第二章 王女に恋した魔女の息子

第三十一話 使い魔リーヴィッド ②

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「──リーウィッド?? 一体何を言ってるの母さん? 」

 ダニーは思わず首を傾げた。
 餌をねだろうと尻尾を立てて、セルリアの方に近づいてきたリーウィッドの前にセルリアは屈み込んだ。

「リーウィッド? あなたはわたしの『使い魔』として契約して以来、ずぅぅっと長い間、ただただわたしから放射される『魔力』を毎日ペロペロと『吸いなめ』ながら、この世界でお気楽に暮らしてきたわね? 今度はわたしの役に立って頂戴?  元々あなたとの契約は相互扶助が本来の目的なんだからね! いいこと? 分かってる、リーウィッド? 」

 するとリーウィッドは、猫の四つ足姿からスッと立ち上がると、二つの光る点が丁度顔の目の位置にかがようている、漆黒の闇を鋏で切り抜いたような小さな影法師のような立ち姿へと変貌していった。

「リ、リーウィッドは猫じゃなかったのかい!? 」

 ダニーはびっくりしてユラユラと床から生え出た海の藻のように揺らめくその黒い影に目を見張った。

『ふぅっ! ……ええ、そうでなんです、ダニー坊っちゃん。僕は使い魔の姿に戻ったのはいつ以来だったかなぁ……危うく本来の姿を忘れてしまいそうになっちゃってましたよ……』

「ホント相変わらず呑気なものねぇ……リーウィッドは……」

 セルリアは呆れ顔で腕を組んだ。

『──あ! でもセルリア? 僕はセルリアが寂しい時はいつでも、猫の温かく柔らかな身体ともふもふの柔毛で君の心を癒してきたじゃないか! 何にもしてないなんてそれは言い過ぎだね! 僕はセルリアのその言い草には断固抗議するから! 」

「う~ん……でもそれは、愛玩動物ペットとしての役割でしょう? 契約の最後の方の極めて付随的なおまけのような条件をあなたが特に何かを苦労をする訳でもなく……」

 膝丈くらいの大きさの切り絵のような漆黒の影法師へ、セルリアはビシッと指差し、容赦なく言い放った。

「──ただこなしてきたに過ぎないわねっ!! 」

『……あぁ、僕のご主人様は手厳しいなぁ……』

「まぁ、いいわ! 普段あなたにこれといった用事を言い付けていないわたしも悪いんだから……ところで、今のわたしたちの話はキッチンで盗み聞きしていたでしょう? あなたにダニーの剣の先生が務まるかしら? 」

『ふふん! 僕をそんなに見くびらないで欲しいものだね、セルリア? 僕はこう見えても悪魔の端くれ。剣とか槍とか、無力な人間同士が屠り合うために造り出した、そんな幼稚な道具の習得なんて造作も無いことだね。もちろんそれを誰かに教えるなんてことも同じことさ! 』

「──そうなの? じゃあ良かった! これで決まりね、リーウィッド? ダニーに基礎から剣と槍の扱い方を教えて、それから大会で優勝できるくらいまでにはその腕前を上達させて頂戴ね? いいこと? 分かったかしら? 」

『もちろん! ただ飯喰らいと呼ばれるのは僕も本意じゃないからね。このリーウィッドがダニー坊っちゃんにしかと教えて差し上げますよ! 』

「良かった──」

 するとセルリアは、寝室のベットの下から金貨袋を取り出してくると、それをリーウィッドに手渡した。

「本当に頼もしいわ、リーウィッド! じゃあ、このお金で剣とか槍とか、武具とか馬とか……あと身体の鍛練に必要な道具の一切合切、これから市場へ行って調達してきて頂戴な? 」

『うへぇぇ……まずそこからですかぁ? それじゃあ、武具などは身体のサイズに合うものを揃えますから、坊っちゃんもご一緒に王都に参りましょうか? 』

「──うん、分かった! じゃあ、大会まではもうそれほど日にちもないし、今からサクッと箒に乗って買いに行こう! 」

『畏まりました、坊っちゃん! 』



──本当に良かったのかしら。でも、息子が自分で決めたことなのだから……

 再び猫の姿に戻ったリーウィッドを上衣の懐に入れ、箒に跨がり飛び立っていくダニーの姿をセルリアは心配そうに見送った。



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