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11 先代がくる
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書斎にいる父と義兄に護衛からユリウスの件が報告され二人は抗議文を送ると言って怒り出したのをエマは止めた。
「きっとエマと婚約を解消して家で肩身が狭いのだろう。馬鹿な奴だ! エマ、丁度いいタイミングで手紙が届いているぞ」
「手紙? どなたからですか」
「お爺様だよ。ルイーザが子ども達を連れて領地に向かうそうだ。その後こちらにルイーザ達と一緒にお爺様も来るそうだ」
「まぁ、それは楽しみですね!」
エリーザは先代のいる領地に曽孫を見せに行くようだ。護衛も多数いるだろう迎える準備が大変だ。
「エリックという人物も同伴するらしい。ルイーザの夫、ターナ伯爵の弟だ。わざわざ同伴させるという事はエマの婚約者候補かもしれないな。お前は早く相手を見つけた方が良い」
「老侯爵はエマを辺境に嫁がせるつもりでしょうか?」
カミールは老侯爵がこんなに早く動くとは予想していなかった。いや、自分の手紙がそうさせたのか。
「どうだろうな、エマに強制はしない。嫌なら断ればいい」
「お爺様にお願いしたのに、お断りしても大丈夫かしら」
「勿論だ、嫌なら私からも話してやろう。ここに来るのは10日ほど先だ。迎える準備を始めておくか。孫も大きくなっただろうな」
「トーマスが6歳とマシューが3歳ですね。お姉様にも早く会いたいわ」
カミールは言い知れぬ焦りを覚えた。義父は後継者にオリーヴを望んでいる。
(10日以内に何とかしないとエマは辺境に行ってしまうかもしれない)
なんでも卒なく熟せるカミールだがエマが相手だとどうしても義妹の域から出てくれず上手くいかない。エマがなんだか楽しそうなのも地味に落ち込む。
カミールの想いを余所に屋敷内はルイーザの帰省と厳しい先代の老侯爵を迎える準備で大わらわだ。
義父は先代を恐れて帳簿や書類、諸々のファイルを見直すと言い出す始末。
城での仕事も重なってカミールはエマをデートに誘う時間が得られず声もかけられないでいた。
ようやく休みが取れたのはルイーザたちが訪れる2日前であった。
「エマ、明日は少し出かけないか?」
「お兄様は忙しくないですか?」
「ああ、気分転換に植物園にでも行こう」
「行きたいです!今はフルーツがとれてジュースにして飲めるそうですよ。ボートにも乗りたいわ」
大きな人工池は恋人たちに人気のデートスポット。カミールはボートの上で今度こそエマに愛の告白をしようと意気込んでいた。
──────── デート当日。
「残念でしたね。雨だなんて」
「・・・・・間違えたな。オペラか芝居にしておけば良かった」
「また今度行きましょう。今日はのんびり過ごしてお兄様の体を休めて下さいな」
「それも悪くないな。ゆっくりエマと話がしたかったんだ」
「じゃぁ お菓子とお茶の用意をしますね」
エマがメイドに声をかけようとした時「カミール、問題が起こった」と父がサロンに駆け込んできた。
「お父様どうしたの?」
「エマはいいんだ。カミールちょっと書斎に来てくれ」
「え、今すぐですか?」
「そうだ、先代が来る前に片づけないと大変だ」
結局カミールはこの日、想いを伝える事は出来なかった。
問題を起こしたのはオリーヴで事実関係を調べるのに時間がかかってしまい、エマに告白する間もなく先代達を迎えることになる。
***
────────先代とルイーズがやって来た。
隠居した身ではあるが侯爵家の実権はまだ先代が握っている。
体も声も大きな先代は立派な髭を蓄えた老人だ。
家族全員で一行を出迎えた。父は婿養子で先代に頭が上がらない。
「父上、ご無沙汰致しております」
「ああ、エマまで婚約解消とはな、どうなっているんだこの家は!」
「申し訳ございません」
父の横でエマも頭を下げる。
「オリーヴ! 王家の顔に泥を塗って、おめおめとよくも戻って来れたな!」
「はい、侯爵家の面汚しでございますわ」
「まぁまぁお爺様落ち着いて下さいまし。お父様、エリック様を紹介しますわ」
ルイーザが後方に控えていた黒い髪の騎士様に顔を向けた。
「エリックです。お世話になります」
年は20代後半、ルイーザと同じ位だろうか、黒い髪に茶色の瞳、体格の良い立派な騎士様だ。
「ようこそ、歓迎するよエリック殿。ルイーザも元気そうだな」
父は手を差し出し、エリックと握手をした。
ルイーザの息子二人も髪は黒くエリックの横に並ぶと親子に見える。
先代の大声に怯えているようなのでエマは声をかけた。
「お爺様、まずは部屋に。子ども達も長旅で疲れたでしょう」
「そうしよう、カミール! お前は一緒に来るんだ!」
「・・・はい」
嵐が去って父は吐息を漏らした。
「はぁ、先代は相変わらず元気で何よりだ」
「相変わらず、威張った爺様ね。早く帰って欲しいわ」
「オリーヴ!口の利き方には気を付けるんだ」
「はいはい。ところでエマどう?」
「え?何が」
「エリック様よ。素敵じゃない?ちょっと年が離れてないかしら」
「そうですね」
ルイーザの夫は堅物でワイルドで熊みたいな人。
美しい姉一筋で子どもも2人授かり子煩悩な旦那様だ。
エリックもそういう人だと良いなとエマは思った。
「きっとエマと婚約を解消して家で肩身が狭いのだろう。馬鹿な奴だ! エマ、丁度いいタイミングで手紙が届いているぞ」
「手紙? どなたからですか」
「お爺様だよ。ルイーザが子ども達を連れて領地に向かうそうだ。その後こちらにルイーザ達と一緒にお爺様も来るそうだ」
「まぁ、それは楽しみですね!」
エリーザは先代のいる領地に曽孫を見せに行くようだ。護衛も多数いるだろう迎える準備が大変だ。
「エリックという人物も同伴するらしい。ルイーザの夫、ターナ伯爵の弟だ。わざわざ同伴させるという事はエマの婚約者候補かもしれないな。お前は早く相手を見つけた方が良い」
「老侯爵はエマを辺境に嫁がせるつもりでしょうか?」
カミールは老侯爵がこんなに早く動くとは予想していなかった。いや、自分の手紙がそうさせたのか。
「どうだろうな、エマに強制はしない。嫌なら断ればいい」
「お爺様にお願いしたのに、お断りしても大丈夫かしら」
「勿論だ、嫌なら私からも話してやろう。ここに来るのは10日ほど先だ。迎える準備を始めておくか。孫も大きくなっただろうな」
「トーマスが6歳とマシューが3歳ですね。お姉様にも早く会いたいわ」
カミールは言い知れぬ焦りを覚えた。義父は後継者にオリーヴを望んでいる。
(10日以内に何とかしないとエマは辺境に行ってしまうかもしれない)
なんでも卒なく熟せるカミールだがエマが相手だとどうしても義妹の域から出てくれず上手くいかない。エマがなんだか楽しそうなのも地味に落ち込む。
カミールの想いを余所に屋敷内はルイーザの帰省と厳しい先代の老侯爵を迎える準備で大わらわだ。
義父は先代を恐れて帳簿や書類、諸々のファイルを見直すと言い出す始末。
城での仕事も重なってカミールはエマをデートに誘う時間が得られず声もかけられないでいた。
ようやく休みが取れたのはルイーザたちが訪れる2日前であった。
「エマ、明日は少し出かけないか?」
「お兄様は忙しくないですか?」
「ああ、気分転換に植物園にでも行こう」
「行きたいです!今はフルーツがとれてジュースにして飲めるそうですよ。ボートにも乗りたいわ」
大きな人工池は恋人たちに人気のデートスポット。カミールはボートの上で今度こそエマに愛の告白をしようと意気込んでいた。
──────── デート当日。
「残念でしたね。雨だなんて」
「・・・・・間違えたな。オペラか芝居にしておけば良かった」
「また今度行きましょう。今日はのんびり過ごしてお兄様の体を休めて下さいな」
「それも悪くないな。ゆっくりエマと話がしたかったんだ」
「じゃぁ お菓子とお茶の用意をしますね」
エマがメイドに声をかけようとした時「カミール、問題が起こった」と父がサロンに駆け込んできた。
「お父様どうしたの?」
「エマはいいんだ。カミールちょっと書斎に来てくれ」
「え、今すぐですか?」
「そうだ、先代が来る前に片づけないと大変だ」
結局カミールはこの日、想いを伝える事は出来なかった。
問題を起こしたのはオリーヴで事実関係を調べるのに時間がかかってしまい、エマに告白する間もなく先代達を迎えることになる。
***
────────先代とルイーズがやって来た。
隠居した身ではあるが侯爵家の実権はまだ先代が握っている。
体も声も大きな先代は立派な髭を蓄えた老人だ。
家族全員で一行を出迎えた。父は婿養子で先代に頭が上がらない。
「父上、ご無沙汰致しております」
「ああ、エマまで婚約解消とはな、どうなっているんだこの家は!」
「申し訳ございません」
父の横でエマも頭を下げる。
「オリーヴ! 王家の顔に泥を塗って、おめおめとよくも戻って来れたな!」
「はい、侯爵家の面汚しでございますわ」
「まぁまぁお爺様落ち着いて下さいまし。お父様、エリック様を紹介しますわ」
ルイーザが後方に控えていた黒い髪の騎士様に顔を向けた。
「エリックです。お世話になります」
年は20代後半、ルイーザと同じ位だろうか、黒い髪に茶色の瞳、体格の良い立派な騎士様だ。
「ようこそ、歓迎するよエリック殿。ルイーザも元気そうだな」
父は手を差し出し、エリックと握手をした。
ルイーザの息子二人も髪は黒くエリックの横に並ぶと親子に見える。
先代の大声に怯えているようなのでエマは声をかけた。
「お爺様、まずは部屋に。子ども達も長旅で疲れたでしょう」
「そうしよう、カミール! お前は一緒に来るんだ!」
「・・・はい」
嵐が去って父は吐息を漏らした。
「はぁ、先代は相変わらず元気で何よりだ」
「相変わらず、威張った爺様ね。早く帰って欲しいわ」
「オリーヴ!口の利き方には気を付けるんだ」
「はいはい。ところでエマどう?」
「え?何が」
「エリック様よ。素敵じゃない?ちょっと年が離れてないかしら」
「そうですね」
ルイーザの夫は堅物でワイルドで熊みたいな人。
美しい姉一筋で子どもも2人授かり子煩悩な旦那様だ。
エリックもそういう人だと良いなとエマは思った。
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