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6 ユキ

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 お姉ちゃんが行方不明になって1週間経った。

 家に残されたナイフやフォークなどの不審物を警察に届けると意外なことが分かった。

「ミオさんの指紋がついています。他にも不明な指紋が少数。それと数個の青石なのですが、地球上の物質では無いと思われ、然るべき研究機関に送られています」

「それってまさか、お姉ちゃんは・・・」
「ミオはエイリアンに攫われたんですか⁈」
「そんな、そんな・・・うそ、そんな」
 私達は酷く混乱した。

 異世界転移は漫画の話で、宇宙人誘拐説の方が現実味がある気がした。

「まだ分かりませんが、引き続き捜索を続けます」
 私達は警察に「くれぐれも宜しくお願いします」と頭を下げた。


「UFOに祈るんじゃ!ミオお姉ちゃんを返して下さいと、祈るんじゃ!」

 この日からお爺ちゃんは縁側で四六時中、空に向かって祈り出した。
 両親も時々並んでお姉ちゃんの無事を祈っている。

 本当にUFOが攫ったんだろうか。



 一月近く経ってもお姉ちゃんは見つからず、私達はお姉ちゃんの情報を求めて、駅などでチラシを配った。
 お姉ちゃんの情報は全く得られず、マジでUFOに攫われたと私は思い始めていた。

 だが、私はやっとお姉ちゃんの情報を発見した。
 夏休みが終わった始業式の朝、納屋から自転車を出していると見つかったのだ。


「お姉ちゃんからの手紙があったぁあーーーー!!!」
 お姉ちゃんの自転車が知らない間に消えていた。
 うちには数台自転車があって、誰も1台消えたのに気が付かなかったのだ。

 お姉ちゃんは自転車に乗って通学途中に事故にあった。
 退院してから自転車を買い替えたが、お姉ちゃんは怖がってバス通学に切り替え、自転車は納屋の奥に仕舞ってあったので消えたのが分からなかった。



 自転車があった場所には手紙と一緒に金貨が落ちており、手紙には信じられない事が書いてあった。

「異世界転移?フリック王子とリシャールに保護されて無事に暮らしているから安心してほしい?5年後には帰れるかもしれない?なんだこれは!悪質な嫌がらせか!」

 しかし間違いなくお姉ちゃんの字だった。

「お父さん!お姉ちゃんはきっと中二病の犯人に無理やり書かされたんだよ!」
「それか、ストックホルムシンドロームってやつかもな。ミオ・・・どこにいるんだ」

 お姉ちゃんの事件は誘拐と判断された。

 同時に先の銅貨と今回の金貨には、未発見の鉱石が含まれているのが判明した。
 宇宙人が関与している説が一気に浮上し、私達にが敷かれた。


 その後、再びお姉ちゃんの手紙は発見された。
 なんと一瞬で居間のテレビが消えて手紙と金貨が数枚置かれていた。
 その瞬間を誰も見ておらず残念極まりない。


「王子がどうしてもテレビを見たいというのでトレードします。この金貨を換金して新しいテレビを買って下さい。だと?」
「宇宙人の王子様?まさかマジで異世界転移?」

「おい、次にトレードする物が書いてあるぞ!こっちも手紙を書こう」
「何が消えるの?」

「・・・・・お米と炊飯器。海苔と梅干を炊飯器の中に入れておいて欲しいそうだ」

「ミオちゃんは無事なのよね。無事でさえいてくれれば・・・ううぅう」
「お母さん、手紙を書こう。お姉ちゃんの好きな蜂蜜梅干を買ってこなきゃ」


 私達は準備して、お米と炊飯器を居間のテーブルの上に置いて交代で見張った。

 炊飯器の中には家族の様子を撮ったお姉ちゃんのスマホも入れておいた。
 本当に無事なのか確認したかったのだ。


「マジだったら世間になんて公表すればいいのかな?」
「誰も信じないで、家出しただけと思われるだろうな。父さんは未だに信じられん」

「なんでミオちゃんが選ばれたのかしら」
「宇宙人に一目ぼれされたんじゃ。ミオお姉ちゃんは美人じゃからな」
「5年は長いねぇ。ミオちゃん本当に戻れるんじゃろうかねぇ」

 夕食後、テーブルを囲んで全員でお米と炊飯器を見つめていると──

「「「「「消えたぁああ!!!」」」」」


 目の前でお米と炊飯器は消えて、金貨と手紙が残されていた。

「マジだった・・・・・」



 数日後、お姉ちゃんの学校の鞄が消えて、スマホが残されていた。

 そこには、恐ろしく美形の騎士様と王子様と共に『!”#$%』と言って微笑んでいるお姉ちゃんの動画があって、異世界の様子を撮った写真もあった。

 お姉ちゃんは何か喋っているけど、日本語じゃないので分からず、ヘナヘナと体の力が抜けた。

「これは何語なんだ?なんでミオは日本語を話さないんだ、意味が分からないじゃないか」
「ミオちゃんは本当に無事に暮らしているのね、良かった・・ぅぅうう」
「楽しそうに笑ってたよ。あのイケメンは恋人っぽいね、いいな・・・」

 5年間、こうやって連絡を取り合えばお姉ちゃんはきっと戻ってくる、私達はそう信じていた。


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