これが夢でありませんように

ミカン♬

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 付き合いは短いけれどケインは真面目で誠実な人だと思う。

「では死んだのはカレンなのか?」

 だから私は正直に真実を全て彼に話した。

「入れ替えなどと傲慢な貴族の考えそうなことだ」
「・・・いつから嘘に気づいていたの?」

「会った時からヘンだと思ったよ。俺の知ってるカレンはもっと図々しくて、男と距離も近い我儘な女だった」
「自由な人だったのね。私にはマネできないわ」

「死んだのは伯爵夫人のジゼルだ。醜聞を避けて伯爵側はそう証言するさ。男爵は何も言えないだろう」

 驚いた事にケインは幼馴染を嫌っており、特にカレンの死を嘆くこともなく私に協力してくれようとしている。

「本当に今のままで良いのかしら。遠くに逃げた方が良いと思うの」
「俺が守ってやる!何かあればお前がカレンだって俺が証言してやるから、お前も強くなれ!」

 ケインに励まされて私はカレンとして生きて行こうと再び決心した。

     ***


 父は狡猾で伯爵の意識が戻る可能性が低いと知るや、死んだのはカレンだと騎士団に訴えた。
 愛人を優遇して、ジゼルは耐え切れず逃げ出したのだと説明した。

 伯爵との契約を破って、なんて恥知らずな男だ。私を妻の座に戻し、離縁させて慰謝料を頂く算段だ。その後はまた金になりそうな貴族に私を売るに違いない。

 後日、私は騎士団に呼ばれて真偽について話を聞かれることになった。

「ケイン、話し合いの前に髪を切って欲しいの」
「ええ?こんなに綺麗な髪なのに」
「お願い」
 ケインにバッサリと切ってもらって心も軽くなった。髪は身元不明者の共同墓地の傍に埋めて、石を置いてジゼルの墓にした。
 花を一輪供えて、父と対決する為に私はジゼルと決別した。


 髪を短く切って、少年のような姿の私に父は絶句した。

「・・・おお・・ジゼル!可哀そうに騎士団の食堂で働いていたんだってな。もう大丈夫だ、伯爵家に戻れるぞ!」

(白々しい)
「はぁ?このおじさん誰なの?ジゼルって後から割り込んできたあの嫌な女?」
「??・・・貴様は何を言ってるんだ!」
 父は絶対に娘は自分には逆らえないと思っている。
(そうはさせない!)

 取り調べの騎士は私と父を交互に見比べて「お前はこの男を知らないのか?」と尋ねた。
「初めて会ったわ。誰なの?」
「伯爵夫人の父親だ。お前をジゼル夫人だと言っている」

「あたしは、あのジゼルって女に追い出されたのよ。ロイドもやっぱり貴族の女の方が良いって言ってね、僅かなお金を握らされて追い出されたわ!」
「嘘だ!話が違う・・・」

「おじさん、あたしがジゼルって証拠はあるの?」
「証拠?・・・ジゼルの証拠・・・」

「親なら娘の証拠出せるでしょうが!ヘンな言いがかりは止めてよね!」
「そんな・・・本当にジゼルは死んだのか・・・」
「追い出されて良かったわ、あたしが死んでたかもしれないもの」

 心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。ケインと何度もこの場面を想像して言い返す練習をしていた。

 取調の騎士が合図すると取調室にケインが連れて来られた。
「この女性はお前の幼馴染のカレンで間違いないか?嘘を吐くと罪になるぞ?」

「カレンに間違いありません!お尻に2個並んだ黒子があるはずです。子供の頃から俺は何度も見ました」
「ヤダ!お尻なんて見せないわよ!」

「コホン・・・女性騎士を呼べ」
 黒子を確認されて私はカレンだと認められた。

 父が黒子を知るはずもない、私には触れたこともないのだから。
「そんな・・・くそっ!」

「男爵には詐欺の容疑が掛かっている」
「違う!勘違いしただけだ」
 真っ青な顔の父を見て溜飲が下がった。

「カレン、最後に聞くが愛人だったお前は伯爵を恨んでいたか?」
「追い出されて腹は立ったけど別に恨んでないわよ。亡くなった二人は気の毒だと思うわ」

「そうか・・・よし!お前達はもういい、帰りなさい」
「失礼致します!」
 ケインに背を押されて私達は退出した。

「よくやったな!まだ泣くなよ」
「ぅ・・うん」
 涙が零れそうなのを耐えて、ケインの服の袖をしっかりと握っていた。
 もう父を怖がる必要はない。私は平民のカレンになった。


     ***


 父と決別して仕事も順調だ。皿洗いと野菜の下ごしらえから調理の補佐まで任せられるようになった。お給料も少し上がったので、早くケインとセーラさんにお礼をしなければと思った。

 セーラさんを食堂で見つけたので、食事に誘ってみた。
「遅くなりましたが、お給料も頂いたのでお礼にご馳走させて下さい」
「ありがとう。今は忙しくて休暇が取れないの、気持ちだけ頂いておくわね」

 残念ながら断られてしまった。恋人に面倒かける幼馴染など厄介なだけよね。
 食事は諦めてケインには刺繍したハンカチを何枚か渡そうと思った。

 ケインの家を訪問すると迷惑そうな顔で「もう貸しはナシだ、気を使わなくていい」と言って仕事に行ってしまった。
 私は掃除と夕飯の用意をしてテーブルに刺繍したハンカチを3枚置いた。
 合鍵を握ってこれで借りは清算しようと決めた。

 優しいけどぶっきら棒で、面倒見の良いケインに惹かれていた。
 ケインにはセーラさんという恋人がいる、幼馴染づらした私が周囲をチョロチョロするのは迷惑よね。借りと一緒にこの気持ちも清算しよう。

 警備隊の詰め所に行くとザックさんがいて「カレンちゃん久しぶり~」と人懐っこい顔で挨拶してくれた。彼に合鍵をケインに渡すよう頼むと「なにかあったの?」と聞かれたけど曖昧に笑っておいた。
 それから商店街で食料を買い込んで、寮に足を向けた。その私の後ろから、ゆっくりと黒い馬車が近づいて来るのを私は気が付かないでいた。


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