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しおりを挟む商店街を抜けて人通りが少なくなると、いきなり後ろから腕を引っ張られた。
「ジゼル!この親不孝者め!よくも騙してくれたな」
「っ!」
怒り狂った父だった。詐欺容疑を掛けられたが勘違いだったと言い張って罪を逃れたのだ。
「聞いたぞ!ジゼルには黒子があるってな!」
長女に確かめたのか。
「それが何ですか?私はカレンだと騎士団で認定されました」
「いや、お前は私の娘だ。家に戻るんだ!」
「離して!誰か助けて!!」
ガッ!と頬を殴られて私は地面に倒れた。抱き起こそうとする父に抵抗すると髪を掴まれて引きずられる。
「助けて!」
「黙れ!」
父は私の体を何度も蹴った。
絶対に戻りたくない、父の腕を掴んで「助けて!」と叫び続けていると「やめろ!」と声がして、髪を掴んでいた父の手が緩んだ。
「うるさい!これは私の娘だ!」
「はぁ?娘だって?」
「ザックさん・・・助けて!」
「コイツ!婦女暴行の現行犯で逮捕する!」
通りがかったザックさんに暴れる父は取り押さえられて、騎士団に突き出された。
騎士団の治療所で手当てを受けているとケインが来てくれた。
「カレン大丈夫か?怪我は?」
「治癒士さんに治してもらいました」
「あの親父まだ諦めていなかったのか」
「長女から黒子の話を聞きだしたみたいです」
「すまない、『君を守る』って言っておいて、こんな目に」
「いえ、父の性格は分かっていたのに油断していました」
「ジゼル・・・」
「その名は・・・」
「ああ、ごめん」
話していると取調からザックさんも戻ってきた。
「カレンちゃん大丈夫?男爵がカレンちゃんは娘のジゼルだって騒ぎまくってたよ?」
再調査されたらどうしよう。偽証したケインにも迷惑が掛かる。
「俺もカレンちゃんに間違いないって言っておいたよ。大丈夫さ」
「ザックさん有難う。本当に助かりました」
「もし良かったら俺の家においで。男爵から守ってあげるよ。これでも子爵家の次男だからさ」
「ザック!ちょっと待て、カレンはだめだ」
「なんで?・・・俺さ1回カレンちゃんに振られてるんだよね。もっと高位の貴族と結婚するからって」
ザックさんは笑顔を私に向けて「ね!」と言った。
「え?・・それは・・・ごめんなさい」
「いいよ、今のカレンちゃんも好きだ。顔はタイプど真ん中だし、胸も前より大きくなったよね」
胸を手で隠すとザックさんはクスクス笑った。
「ザック、カレンはダメなんだ」
「カレンちゃんはケインの幼馴染で恋人じゃないよね。就業時間は終わった、カレンちゃん送るよ。あ、これ合鍵ね」
ケインに合鍵を渡すとザックさんは私の手を取ってスタスタと歩き出し、私は小走りで付いていく。
「ザックさん・・・あの」
「挑発してやったけど、アイツまだ反応鈍いな。今からデートしよう。夕飯付き合ってよ、お助けしたお返しにさ」
私の返事も聞かずにザックさんは小奇麗なレストランに私を連れて行った。ワインを飲みながら料理を頬張るザックさんは、朗らかで女性の扱いも慣れていた。
「俺、背が低いでしょ?だから王宮騎士諦めて警備兵になったんだ」
食堂で見かける騎士は確かに全員大きい。女性も170センチ以上あった。
「体格の規定なんかあるんですか?」
「うん、7センチ足りなかったんだよ。まぁ遺伝だから仕方ないね、俺の家族は皆ちっせーの、はは」
緑の目を細めて優し気に笑う彼は、背など関係なく素敵だ。
「ケインは王宮騎士を目指してた。でも優秀な平民って貴族に妬まれるんだよね。高位貴族の罠に嵌められて騎士学校を追い出されたんだ」
「酷い・・・」
「で、先輩だった俺が警備隊にスカウトしたの。俺ってイイヤツでしょ?」
「ふふ、そうですね」
「でも悪い事は出来ない、その嵌めた貴族達は全員死んだ。昨年の違法植物の摘発で、敵に毒煙で攻撃されてケインの同期は大勢亡くなってる」
「まぁ・・・そんな」
「って、これはカレンも知ってる話なんだけど」
「!!!」
ザックさんは俯いて「この前の橋の事故で、亡くなったのはカレンなのか」と呟いた。
「ザックさんカレンは「ストップ!俺は知らないことにする」
「それは助かります」
「うん。・・・あ、そうだ、ケインがセーラに振られたの知ってる?」
「え!?」
それでケインはずっと機嫌が悪かったのか。
「セーラは元サヤ選んで、前の彼氏と同棲してる。俺はさ、ケインは振られると思ってたよ。セーラは前の彼氏にずっと未練があったからね」
「ケインさん気の毒ですね」
「アイツは真っすぐで、お人好し過ぎるんだよ」
食事が済んで外に出ると店の前でケインが腕を組んで待っていた。
「ケイン、俺カレンちゃんに本気になりそうだよ」
「ザック、カレンはだめだ」
「お前そればっかりだな、そんなだからモテないんだぞ」
「カレンはダメだ!絶対ダメだ。俺が送るから、行こう」
今度はケインに手を引かれて歩き出す。
私は振り返って「ザックさんご馳走様でした。すみません、私がお礼しないといけないのに」と言うと「カレンはそんな風に言わないよ、知り合いには気を付けて」と手を振った。
「ザックさんは知らんぷりしてくれるって」
「やっぱりバレたか・・・ザックがカレンに振られたのは知らなかった」
「カレンは多くの人に愛されていたんですね」
「俺は苦手だった。自己中心で我儘で、表と裏の顔を使い分けるカレンが嫌いだった。小母さんから『カレンを頼む』って言われた時はウンザリした」
「カレンのお母様は?」
「亡くなってる。母親を見捨てて王都に行ったから、親戚とも縁は切れてる」
ケインは立ち止まって私に頭を下げた。
「君がカレンに似てるからって・・・君は君なのに、酷い態度ですまなかった」
「私の方こそ貴方の気持ちも知らないで、面倒をかけて御免なさい」
「俺は馬鹿だな・・・ジゼル、最初は君に同情しただけで厄介だと思った」
「正直ですね」
「正直すぎてバカだってザックに言われる」
「ふふ、正直な人は好きですよ。私は嘘吐きだから、これからも嘘の人生を歩んでいくんです」
「それは君のせいじゃない。俺はこれからも力になるよ」
初めて会った時から、何度も彼に救われた。ケインが好きだ、諦めようと思ったのに想いがこみ上げてくる。
セーラさんと別れたのなら、いつかケインに気持ちを伝えてみたい。
「そんな気はない!」と断られそうだけど・・・伝えたい。
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