17 / 20
17 ミリオンとエリザ
しおりを挟む
ルッツは人の姿に戻っていて、自分の荷物のある部屋のベッドに寝転がっていた。
──もちろん、布団の下は裸。
「ルッツ、やっと話せるわね。どうなってるの?」
「ボスの命令だよ。決まってんだろ」
その返事にムッとしていると、エリザが勝手に入ってきた。
「ねぇ、黒豹見なかった? ルッツ? なんで同じ名前なの?」
「知らねーよ。出てけ」
「いやだ。あなた、傭兵でしょ? 黒豹探しなさい、命令よ!」
「はぁ?」
ルッツは布団を跳ねのけて立ち上がった。
「いやぁぁああーーーっ!」
エリザの悲鳴が宿中に響いた。──まぁ、無理もない。裸だもん。
「もう、早く服を着てちょうだい。目の毒だわ」
「うるせぇ」
ルッツはそのままスタスタと荷物の方へ歩いていく。
……ああ、でもその引き締まった背中、いや、ヒップライン……。思わず目を逸らした。
「行くぞ」
振り向いた彼は、いつものチンピラスタイルに戻っていた。
「その派手なシャツ、どこで買うの? ボタン取れてるけど」
「スラムの古着屋の売れ残りだよ。服なんて着られりゃいいんだ」
「今度、服を買ってあげる。前にビルド商店で買ってもらったお返しにね」
「……おう、悪くねぇな」
ちょっと照れたように笑うルッツ。その顔を見たら、なんか嬉しくなった。
──と、その時。廊下をドタドタと走る音が近づいてきた。
「妹を襲ったのはお前か! 捕らえろ!」
ミリオンだ。護衛がルッツに飛びかかる。
けど、一瞬で全員、返り討ちにあった。
「若様よぉ。こんなんで護衛とか笑わせんな」
「なっ……貴様、強いな。私の護衛にしてやる」
──ああ、こんなのが次の領主になるとか、この街終わるな。
「俺は王都の情報ギルド所属だ。話はそっちに通せ。言っとくが、俺は安くねぇぞ?」
ルッツがそう言って睨みつけると、ミリオンの顔は引きつった。
空気がピリついたその瞬間。
「それより黒豹はどこよ! 早く探してよ!」
エリザの声で、空気がふっと緩んだ。
「お探しの件は、王都の情報ギルドへどうぞ。私も所属しているから、依頼は受け付けるわ」
私がそう言うと、ミリオンの顔が青ざめた。
「……お前たち、情報ギルド員か。関わると厄介だ。帰るぞ」
「えぇー! あの黒豹が欲しいのに!」
「今は我慢するんだ」
そう言って、急いでミリオンはエリザを引きずって帰っていった。
情報ギルドの悪名は、やっぱりこの辺まで届いてるんだな。
……そりゃそうか。あのキスリー侯爵家を潰した組織だもん。
「やっと静かになったねぇ。一時はどうなるかと思ったよ」
叔母さんは外に向かって塩を撒いている。
「アリー、王都に戻ろうぜ。あいつら、また来る。宿屋に迷惑かけるぞ」
「そうね、帰ろっか。叔母さん、迷惑かけてごめんね」
「迷惑なんて思ってないさ。アリーが帰ると、また寂しくなるねぇ。いつでも戻っておいで」
叔母さんが私をぎゅっと抱きしめる。
本当は、まだ帰りたくなかった。
子どものいない叔母夫婦は、私を娘みたいに大事にしてくれるから。
「また帰ってくるよ」
私もそっと抱き返した。
***
父に連絡して三日経ったこの日、
私はルッツを連れて街の洋服店に向かっていた。
「なんか、デートみたいね」
軽く腕を組もうとしたら、スッと避けられた。地味に傷つく。
三歩前を歩くルッツの背中を見つめながら思う。
──私はこの背中を、これからも追ったままなんだろうか。
その隣に知らない女の人が立つ姿を想像したら、胸がチクッと痛んだ。
……いや、ダメ。ルッツにおしゃれなんて必要ない。
今の襟ナシ、チンピラスタイルで十分。女性除けになるし!
本当のところ、ルッツ自身の素材は最高なんだ。
磨けば、きっと誰よりも光る。
「何ブツブツ言ってんだよ。金あんのか?」
「あるよ。紫の、ラメ入りのシャツ買ってあげる」
「お、いいじゃんそれ」
「あと、ダボダボのパンツもね」
「それは楽でいいな」
……マジか?
冗談のつもりだったんだけど。
街角の洋服店に着くと、女性店員はルッツに似合いそうなシャツを次々出してきた。
「こちらなんてどうですか?」
「フリル? 女みたいだな、いらねぇ。白は汚れるし、ボタン多いのもダルい」
ルッツは一枚ずつ文句を言いながら放っていく。
私は無難な紺色とグレーを手に取って差し出した。
「これとか、似合うと思うけど」
「お前がいいならそれでいいよ」
うーん。なんか違う。
「やっぱりルッツっぽくないね。これにしよ」
私が指さしたのは、深紅のシルクシャツ。襟の形がちょっと変わってるやつ。
「パンツはこれ。試着してみて」
黒地に細いグレーのストライプ。冬用にはベージュのトレンチコート。
革靴も黒。全部そろえた瞬間――やばい、カッコよすぎる。
「まぁ、とてもお似合いです!」
店員さんの頬が一瞬で赤くなった。あ、これ、やりすぎたかも。
「悪くねぇけど……お前、金大丈夫か?」
「父にもらってるから余裕。次はアクセサリーね」
お揃いの、ちょっとしたやつでいい。
もちろん、ルッツには内緒で。
──もちろん、布団の下は裸。
「ルッツ、やっと話せるわね。どうなってるの?」
「ボスの命令だよ。決まってんだろ」
その返事にムッとしていると、エリザが勝手に入ってきた。
「ねぇ、黒豹見なかった? ルッツ? なんで同じ名前なの?」
「知らねーよ。出てけ」
「いやだ。あなた、傭兵でしょ? 黒豹探しなさい、命令よ!」
「はぁ?」
ルッツは布団を跳ねのけて立ち上がった。
「いやぁぁああーーーっ!」
エリザの悲鳴が宿中に響いた。──まぁ、無理もない。裸だもん。
「もう、早く服を着てちょうだい。目の毒だわ」
「うるせぇ」
ルッツはそのままスタスタと荷物の方へ歩いていく。
……ああ、でもその引き締まった背中、いや、ヒップライン……。思わず目を逸らした。
「行くぞ」
振り向いた彼は、いつものチンピラスタイルに戻っていた。
「その派手なシャツ、どこで買うの? ボタン取れてるけど」
「スラムの古着屋の売れ残りだよ。服なんて着られりゃいいんだ」
「今度、服を買ってあげる。前にビルド商店で買ってもらったお返しにね」
「……おう、悪くねぇな」
ちょっと照れたように笑うルッツ。その顔を見たら、なんか嬉しくなった。
──と、その時。廊下をドタドタと走る音が近づいてきた。
「妹を襲ったのはお前か! 捕らえろ!」
ミリオンだ。護衛がルッツに飛びかかる。
けど、一瞬で全員、返り討ちにあった。
「若様よぉ。こんなんで護衛とか笑わせんな」
「なっ……貴様、強いな。私の護衛にしてやる」
──ああ、こんなのが次の領主になるとか、この街終わるな。
「俺は王都の情報ギルド所属だ。話はそっちに通せ。言っとくが、俺は安くねぇぞ?」
ルッツがそう言って睨みつけると、ミリオンの顔は引きつった。
空気がピリついたその瞬間。
「それより黒豹はどこよ! 早く探してよ!」
エリザの声で、空気がふっと緩んだ。
「お探しの件は、王都の情報ギルドへどうぞ。私も所属しているから、依頼は受け付けるわ」
私がそう言うと、ミリオンの顔が青ざめた。
「……お前たち、情報ギルド員か。関わると厄介だ。帰るぞ」
「えぇー! あの黒豹が欲しいのに!」
「今は我慢するんだ」
そう言って、急いでミリオンはエリザを引きずって帰っていった。
情報ギルドの悪名は、やっぱりこの辺まで届いてるんだな。
……そりゃそうか。あのキスリー侯爵家を潰した組織だもん。
「やっと静かになったねぇ。一時はどうなるかと思ったよ」
叔母さんは外に向かって塩を撒いている。
「アリー、王都に戻ろうぜ。あいつら、また来る。宿屋に迷惑かけるぞ」
「そうね、帰ろっか。叔母さん、迷惑かけてごめんね」
「迷惑なんて思ってないさ。アリーが帰ると、また寂しくなるねぇ。いつでも戻っておいで」
叔母さんが私をぎゅっと抱きしめる。
本当は、まだ帰りたくなかった。
子どものいない叔母夫婦は、私を娘みたいに大事にしてくれるから。
「また帰ってくるよ」
私もそっと抱き返した。
***
父に連絡して三日経ったこの日、
私はルッツを連れて街の洋服店に向かっていた。
「なんか、デートみたいね」
軽く腕を組もうとしたら、スッと避けられた。地味に傷つく。
三歩前を歩くルッツの背中を見つめながら思う。
──私はこの背中を、これからも追ったままなんだろうか。
その隣に知らない女の人が立つ姿を想像したら、胸がチクッと痛んだ。
……いや、ダメ。ルッツにおしゃれなんて必要ない。
今の襟ナシ、チンピラスタイルで十分。女性除けになるし!
本当のところ、ルッツ自身の素材は最高なんだ。
磨けば、きっと誰よりも光る。
「何ブツブツ言ってんだよ。金あんのか?」
「あるよ。紫の、ラメ入りのシャツ買ってあげる」
「お、いいじゃんそれ」
「あと、ダボダボのパンツもね」
「それは楽でいいな」
……マジか?
冗談のつもりだったんだけど。
街角の洋服店に着くと、女性店員はルッツに似合いそうなシャツを次々出してきた。
「こちらなんてどうですか?」
「フリル? 女みたいだな、いらねぇ。白は汚れるし、ボタン多いのもダルい」
ルッツは一枚ずつ文句を言いながら放っていく。
私は無難な紺色とグレーを手に取って差し出した。
「これとか、似合うと思うけど」
「お前がいいならそれでいいよ」
うーん。なんか違う。
「やっぱりルッツっぽくないね。これにしよ」
私が指さしたのは、深紅のシルクシャツ。襟の形がちょっと変わってるやつ。
「パンツはこれ。試着してみて」
黒地に細いグレーのストライプ。冬用にはベージュのトレンチコート。
革靴も黒。全部そろえた瞬間――やばい、カッコよすぎる。
「まぁ、とてもお似合いです!」
店員さんの頬が一瞬で赤くなった。あ、これ、やりすぎたかも。
「悪くねぇけど……お前、金大丈夫か?」
「父にもらってるから余裕。次はアクセサリーね」
お揃いの、ちょっとしたやつでいい。
もちろん、ルッツには内緒で。
67
あなたにおすすめの小説
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
彼女は白を選ばない
黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。
プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。
そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。
※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない
降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。
しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。
粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。
危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。
すれ違う2人の想いは?
呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです
シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。
厄災を運ぶ、不吉な黒猫──そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。
不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。
けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で──……
「やっと、やっと、見つけた──……俺の、……番……ッ!!」
えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!? というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!!
「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」
「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」
王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない! となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。
世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。
※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる