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25 ミシュベルとジェルドの場合
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「ねぇねぇいつになったらネル様とお姉さまの婚約が無くなるの?」
神殿ではミシュベルがしびれを切らせていた。
側近から『王太子妃がネル様との婚約を約束してくれています』と会議中に耳打ちされてミシュベルはその気になっている。
「もう少し待ってください。お祈りしていればきっと神様は願いを聞いてくれますよ」
「むぅ、そればっかり」
毎日祈りを捧げていればネル様と婚約できると聞いて我慢していたのだ。
神殿の神の間で毎日『早くネル様の婚約者になれますように』と祈り続けていたが一向に朗報は入ってこない。それどころか両親は離婚してしまった。
レティーナへの虐待を理由に離縁されたイザベルは実家で肩身の狭い思いをしていた。だから先日ミシュベルに泣きついて来た。
『ミシュからも離婚を考え直すようにお父様にお願いして欲しいの』
『でも離婚届は出したんでしょう?』
『私と再婚するように頼んで欲しいのよ。他の女と再婚してミシュの母親になったら嫌でしょう?』
『うん、分かったわ。お母様』
領地に引きこもってしまったシオンに会えるとしたらシルバームーンの夜だ。その時に説得すると約束してイザベルを安心させた。
安心はさせたが、何を言っても父は母を受け入れないだろうとミシュベルは思った。会議でレティーナを『汚らわしい子』だと言ったからお父様も王様もネル様も、みんな凄く怒っていた。
ミシュベルは姉を特別嫌いではなかったが、ネル様の婚約者なのが気に入らない。だから母親に厳しくされていても可哀そうだとも思わなかった。両親の離婚も、姉が本当は従姉だとしても構わない、ミシュベルの頭の中は全てネル様が占めている。
そんな一途なミシュベルに鍾愛の神は奇跡を起こした。ラミネルへの愛のみで生きているミシュベルに姉に対抗できる聖女の印を与えたのだ。
聖女は博愛の心を持って祈り続ければ奇跡の力が得られ真の聖女となる。自分の為だけに祈り続けるミシュベルに再び奇跡が訪れることはない。彼女は神殿の象徴に過ぎなかった。
「シルバームーンっていつなの?」
「1週間後ですよ、聖女様」
ネル様の暗殺未遂以降は宮殿でのお茶会は中止となっていた。会議でラミネルに拒絶されてもミシュベルの愛は揺るがない。
「後1週間でネル様に会えるのね」
高位貴族以上の場合、神殿の敷地内から【手紙流し】が行われる。隣接する河には船着き場が設置されており、王族から順番に舟形を流すのだ。その時にミシュベルは必ずネル様に会えるはずだ。
シルバームーンにルナフィスもそこから小舟に乗せられて海へと流される。ミシュベルは彼との婚約は永久に起こらないと思って安堵した。
神殿の暮らしは悪くなかった。誰もがちやほやして尊敬してくれる。もう綿飴令嬢とは呼ばせない。ネル様がレティーナを選んだとしても、祈っていればいつか必ず自分を選んでくれるとミシュベルは信じている。
*****
ジェルドはレティーナが危険を冒してまでルナフィスに会いに行ったことを感動するとともに危惧した。
証拠は無いが恐らく神殿の思惑でレティーナを陥れようとしたのだ。ただ鍵を渡したに過ぎないが、レティーナが自ら選択して実行すれば彼女は犯罪者となっていた。
『貴人牢に行ってきますので、この鍵の処分をお願いします』
モナに言われるがままに鍵を処分した。付いて行くと申し出たが『大丈夫です』断られた。
ジェルドは【忠誠神の加護】を持つモナに強い信頼を寄せている。レティーナを主として絶対的な忠誠を誓う彼女だからこそグナード公爵は同志に選んだに違いない。
船でルナフィスを助けたいと思ったレティーナだが、そんな考えなど王家はお見通しだった。
シルバームーンの日は翌日まで船の出航は既に禁じられていた。頼みの綱の公爵は領地のトラブルで出向いており、いつ戻れるか分からない。
希望を絶たれたレティーナは部屋に閉じ籠っておりモナが心配してずっと傍についている。差し入れの悶着以降、もう誰であってもルナフィスへの接見は禁じられてしまった。
公爵が不在の今、ジェルドは執事長から公爵が残していった指示書を毎日渡されて執務をこなしている状態だ。公爵と同じ【戦神の加護】を持つジェルドは剣を持たせれば一流だったが、それ以外は凡人だと自覚している。
(レティーナと会ってルナフィス殿下は何を思っただろうか。離れていても二人は惹かれ合っていた)
長い間近くにいるジェルドは二人の想いを知っていた。
ジェルドは何度もレティーナにルナフィスの気持ちを伝えてやりたいと思った。だが伝えたところで彼女を苦しめるだけだと考えて黙っていた。
(このまま想い合う二人が引き裂かれても良いのだろうか)
今日もジェルドは執事長から公爵の指示書を受け取って執務室に向かおうとした。だが彼は思い直してレティーナの部屋に向かったのだった。
それぞれが苦悩する中、最後までルナフィスの流刑は取り消されることなくシルバームーンの日を迎えようとしていた。
神殿ではミシュベルがしびれを切らせていた。
側近から『王太子妃がネル様との婚約を約束してくれています』と会議中に耳打ちされてミシュベルはその気になっている。
「もう少し待ってください。お祈りしていればきっと神様は願いを聞いてくれますよ」
「むぅ、そればっかり」
毎日祈りを捧げていればネル様と婚約できると聞いて我慢していたのだ。
神殿の神の間で毎日『早くネル様の婚約者になれますように』と祈り続けていたが一向に朗報は入ってこない。それどころか両親は離婚してしまった。
レティーナへの虐待を理由に離縁されたイザベルは実家で肩身の狭い思いをしていた。だから先日ミシュベルに泣きついて来た。
『ミシュからも離婚を考え直すようにお父様にお願いして欲しいの』
『でも離婚届は出したんでしょう?』
『私と再婚するように頼んで欲しいのよ。他の女と再婚してミシュの母親になったら嫌でしょう?』
『うん、分かったわ。お母様』
領地に引きこもってしまったシオンに会えるとしたらシルバームーンの夜だ。その時に説得すると約束してイザベルを安心させた。
安心はさせたが、何を言っても父は母を受け入れないだろうとミシュベルは思った。会議でレティーナを『汚らわしい子』だと言ったからお父様も王様もネル様も、みんな凄く怒っていた。
ミシュベルは姉を特別嫌いではなかったが、ネル様の婚約者なのが気に入らない。だから母親に厳しくされていても可哀そうだとも思わなかった。両親の離婚も、姉が本当は従姉だとしても構わない、ミシュベルの頭の中は全てネル様が占めている。
そんな一途なミシュベルに鍾愛の神は奇跡を起こした。ラミネルへの愛のみで生きているミシュベルに姉に対抗できる聖女の印を与えたのだ。
聖女は博愛の心を持って祈り続ければ奇跡の力が得られ真の聖女となる。自分の為だけに祈り続けるミシュベルに再び奇跡が訪れることはない。彼女は神殿の象徴に過ぎなかった。
「シルバームーンっていつなの?」
「1週間後ですよ、聖女様」
ネル様の暗殺未遂以降は宮殿でのお茶会は中止となっていた。会議でラミネルに拒絶されてもミシュベルの愛は揺るがない。
「後1週間でネル様に会えるのね」
高位貴族以上の場合、神殿の敷地内から【手紙流し】が行われる。隣接する河には船着き場が設置されており、王族から順番に舟形を流すのだ。その時にミシュベルは必ずネル様に会えるはずだ。
シルバームーンにルナフィスもそこから小舟に乗せられて海へと流される。ミシュベルは彼との婚約は永久に起こらないと思って安堵した。
神殿の暮らしは悪くなかった。誰もがちやほやして尊敬してくれる。もう綿飴令嬢とは呼ばせない。ネル様がレティーナを選んだとしても、祈っていればいつか必ず自分を選んでくれるとミシュベルは信じている。
*****
ジェルドはレティーナが危険を冒してまでルナフィスに会いに行ったことを感動するとともに危惧した。
証拠は無いが恐らく神殿の思惑でレティーナを陥れようとしたのだ。ただ鍵を渡したに過ぎないが、レティーナが自ら選択して実行すれば彼女は犯罪者となっていた。
『貴人牢に行ってきますので、この鍵の処分をお願いします』
モナに言われるがままに鍵を処分した。付いて行くと申し出たが『大丈夫です』断られた。
ジェルドは【忠誠神の加護】を持つモナに強い信頼を寄せている。レティーナを主として絶対的な忠誠を誓う彼女だからこそグナード公爵は同志に選んだに違いない。
船でルナフィスを助けたいと思ったレティーナだが、そんな考えなど王家はお見通しだった。
シルバームーンの日は翌日まで船の出航は既に禁じられていた。頼みの綱の公爵は領地のトラブルで出向いており、いつ戻れるか分からない。
希望を絶たれたレティーナは部屋に閉じ籠っておりモナが心配してずっと傍についている。差し入れの悶着以降、もう誰であってもルナフィスへの接見は禁じられてしまった。
公爵が不在の今、ジェルドは執事長から公爵が残していった指示書を毎日渡されて執務をこなしている状態だ。公爵と同じ【戦神の加護】を持つジェルドは剣を持たせれば一流だったが、それ以外は凡人だと自覚している。
(レティーナと会ってルナフィス殿下は何を思っただろうか。離れていても二人は惹かれ合っていた)
長い間近くにいるジェルドは二人の想いを知っていた。
ジェルドは何度もレティーナにルナフィスの気持ちを伝えてやりたいと思った。だが伝えたところで彼女を苦しめるだけだと考えて黙っていた。
(このまま想い合う二人が引き裂かれても良いのだろうか)
今日もジェルドは執事長から公爵の指示書を受け取って執務室に向かおうとした。だが彼は思い直してレティーナの部屋に向かったのだった。
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