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29 月神の神殿を目指して
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かつて北の大陸には氷の国があった。魔王に滅ぼされたその小さな国を支配していたのが月神だった。
ルナフィスはその滅んだ国を新天地と決めて目指していた。
「ルナ様は新天地にはいつから行こうと考えていたのですか?」
「流刑がシルバームーンに決定した時だ。公爵に頼んで船を出してもらおうと閃いた。そこにはかつて月神の神殿があったんだ。行けば月神の加護を受けた理由が分かり、呪いも解ける気がするんだ」
「え?」
レティーナはルナフィスが指していた神殿が宙の神殿ではない事に気づいた。
「どうしたのティーナ?」
「いえ、その神殿は今はどうなっているのかな~って思ったの」
「それは行ってみないと分からないよ」
船の中で日に日に二人の親密度は高まり、指を絡めて互いを「ティーナ」「ルナ様」と呼び合っている。
公爵は心配だった。予定ではルナフィスを北に運ぶのが目的で、魔法の才能に長けた彼ならば一人で神殿に向かっても大丈夫だと思っていた。それが思いがけず愛娘が付いてきたのだ。ジェルドから二人が文通するほど親しいとは聞いていたがこんなに愛し合っているとは思いもしなかった。
ラミネル殿下は最初から気に入らなかったので婚約破棄できたのは公爵にとっては思わぬ僥倖だった。これ幸いと流刑になった娘と他国で暮らせば良いと考えている。しかし今の雰囲気では娘は恋人のルナフィスにどこまでも付いて行きそうなのだ。
ルナフィスは陛下に頼まれて公爵がずっと見守ってきた大切な王子だが、それとこれとは話が別だった。
順調な船の旅は一か月間に及びレティーナとルナフィスの5年間の空白を埋めるのには十分な時間だった。公爵の気持ちも知らず、レティーナは愛するルナフィスと離れる気は無い。
夜になるとルナフィスは北に向かって影を飛ばした。その形は黒い蝙蝠だったり鳥だったりする。
「影の形は他にもあるのですか?」
「人型も出来るよ。真っ黒な人形だ」
魔法を唱えれば彼の影から人型の影が現れた。
「これに魔力を流すと、ほら、触れてごらん」
レティーナが影人形に触れると、冷たい人肌を感じて「ひゃぁ!」と飛び退いた。
「ははは、ゴーレムのようなものだよ」
ルナフィスと過ごす時間が幸せ過ぎてレティーナはこのままずっと船旅が続けばいいのにと思った。しかし北の陸地が見えてきて船旅は終わりを迎えた。
北の新天地、そこには小さな漁村があり港も設置されていた。
巨大な魔導船の到来に漁民の一族は恐る恐る港に出迎えた。昼間であった為、公爵とレティーナが船を下りると長と思われる老人が恭しく前に進み出て公爵と挨拶を交わした。
彼等は夏の間はここで漁をし、冬になると温かな国へと移動する一族だった。大陸の中央に行きたいと告げるととんでもない事だと引き留められた。
「ここは1年の半分は氷と雪に閉ざされて夏でも夜は底冷えします。どの国にも属さない土地ですから行くと言うなら止めませんが中央は死者に呪われているそうです。それに到着するまでの道すがら魔物や野生動物が出没して大変危険なのです」
長の話によって公爵は引き返そうと提案したがルナフィスは応じなかった。
「なぜです? もっと環境の良い国で我々と一緒に暮らせば良いではないですか」
「それだと何も変わらない。私は自分の運命を変えるためにここに来たんだ」
「レティーナは同行させません」
「分かってるよ。最初からそのつもりだった」
これにレティーナが同意するはずも無かった。
「一緒に行きます。ルナ様は嘘をついたのですか?」
「嘘ではない、新天地まで一緒に来ただろう? この先は危険過ぎるから安全な場所で待っていて欲しい」
「嫌です! だって昼間は魔法を使えないじゃないですか。ルナ様は私が守ります。自分で自分も守ります」
公爵も必死で説得したがレティーナは頑なに拒否した。
「では一緒に行こう」
「はい!」
「なっ! 殿下!」
「ティーナが辛いと言えば空間魔法で引き返そう。中央までは1週間もかからないだろう」
レティーナは直ぐに音を上げるだろうと誰もが思っていた。公爵家という温室で大切に育てられた花のような彼女が耐えられる訳がないと信じて疑わなかった。
ルナフィスはその滅んだ国を新天地と決めて目指していた。
「ルナ様は新天地にはいつから行こうと考えていたのですか?」
「流刑がシルバームーンに決定した時だ。公爵に頼んで船を出してもらおうと閃いた。そこにはかつて月神の神殿があったんだ。行けば月神の加護を受けた理由が分かり、呪いも解ける気がするんだ」
「え?」
レティーナはルナフィスが指していた神殿が宙の神殿ではない事に気づいた。
「どうしたのティーナ?」
「いえ、その神殿は今はどうなっているのかな~って思ったの」
「それは行ってみないと分からないよ」
船の中で日に日に二人の親密度は高まり、指を絡めて互いを「ティーナ」「ルナ様」と呼び合っている。
公爵は心配だった。予定ではルナフィスを北に運ぶのが目的で、魔法の才能に長けた彼ならば一人で神殿に向かっても大丈夫だと思っていた。それが思いがけず愛娘が付いてきたのだ。ジェルドから二人が文通するほど親しいとは聞いていたがこんなに愛し合っているとは思いもしなかった。
ラミネル殿下は最初から気に入らなかったので婚約破棄できたのは公爵にとっては思わぬ僥倖だった。これ幸いと流刑になった娘と他国で暮らせば良いと考えている。しかし今の雰囲気では娘は恋人のルナフィスにどこまでも付いて行きそうなのだ。
ルナフィスは陛下に頼まれて公爵がずっと見守ってきた大切な王子だが、それとこれとは話が別だった。
順調な船の旅は一か月間に及びレティーナとルナフィスの5年間の空白を埋めるのには十分な時間だった。公爵の気持ちも知らず、レティーナは愛するルナフィスと離れる気は無い。
夜になるとルナフィスは北に向かって影を飛ばした。その形は黒い蝙蝠だったり鳥だったりする。
「影の形は他にもあるのですか?」
「人型も出来るよ。真っ黒な人形だ」
魔法を唱えれば彼の影から人型の影が現れた。
「これに魔力を流すと、ほら、触れてごらん」
レティーナが影人形に触れると、冷たい人肌を感じて「ひゃぁ!」と飛び退いた。
「ははは、ゴーレムのようなものだよ」
ルナフィスと過ごす時間が幸せ過ぎてレティーナはこのままずっと船旅が続けばいいのにと思った。しかし北の陸地が見えてきて船旅は終わりを迎えた。
北の新天地、そこには小さな漁村があり港も設置されていた。
巨大な魔導船の到来に漁民の一族は恐る恐る港に出迎えた。昼間であった為、公爵とレティーナが船を下りると長と思われる老人が恭しく前に進み出て公爵と挨拶を交わした。
彼等は夏の間はここで漁をし、冬になると温かな国へと移動する一族だった。大陸の中央に行きたいと告げるととんでもない事だと引き留められた。
「ここは1年の半分は氷と雪に閉ざされて夏でも夜は底冷えします。どの国にも属さない土地ですから行くと言うなら止めませんが中央は死者に呪われているそうです。それに到着するまでの道すがら魔物や野生動物が出没して大変危険なのです」
長の話によって公爵は引き返そうと提案したがルナフィスは応じなかった。
「なぜです? もっと環境の良い国で我々と一緒に暮らせば良いではないですか」
「それだと何も変わらない。私は自分の運命を変えるためにここに来たんだ」
「レティーナは同行させません」
「分かってるよ。最初からそのつもりだった」
これにレティーナが同意するはずも無かった。
「一緒に行きます。ルナ様は嘘をついたのですか?」
「嘘ではない、新天地まで一緒に来ただろう? この先は危険過ぎるから安全な場所で待っていて欲しい」
「嫌です! だって昼間は魔法を使えないじゃないですか。ルナ様は私が守ります。自分で自分も守ります」
公爵も必死で説得したがレティーナは頑なに拒否した。
「では一緒に行こう」
「はい!」
「なっ! 殿下!」
「ティーナが辛いと言えば空間魔法で引き返そう。中央までは1週間もかからないだろう」
レティーナは直ぐに音を上げるだろうと誰もが思っていた。公爵家という温室で大切に育てられた花のような彼女が耐えられる訳がないと信じて疑わなかった。
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