後宮画師はモフモフに愛される ~白い結婚で浮気された私は離縁を決意しました~

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第一章

第一章 ~『決断 ★趙炎視点』~

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~『趙炎ちょうえん視点』~

 雪華せっかと別れた趙炎ちょうえんは、美蘭びらんを連れて、彼が結婚する前の護衛の頃から利用していた私室へと移動する。窓から差し込む光で照らされた室内には、簡素な木製の寝台が置かれ、鍛錬用の木刀や弓が立てかけられている。

「懐かしいな」

 ボソリと昔を思い出して感慨に耽る趙炎ちょうえんに対し、美蘭びらんは眉間に皺を寄せる。

「随分と貧乏くさい内装ね。おまけに埃っぽい。最低の部屋だわ」

 美蘭びらんは大げさに何度か咳き込む。机や棚の上、窓枠の隙間には薄く埃が積もっており、指先で触れると、白い埃が薄く付着した。

「俺が留守の間、掃除されていなかったのか……」

 屋敷には掃除を専門にしている使用人がいる。趙炎ちょうえんの留守の間、そのままにしておくとは考えづらい。

 事実、机の上に散らかっていた書物は本棚に仕舞われており、掃除された形跡が見て取れる。

 最初は掃除していたが、途中から止めたような不自然さだった。不吉な予感を覚え、趙炎ちょうえんはゴクリと息を呑む。

「まさか、浮気を知られていたんじゃ……」

 一抹の不安が呼び起こされる。だがそう考えれば、雪華せっかの敵対的な態度にも納得できたし、不自然な室内にも説明がついた。

「それならそれで好都合じゃない。あの女を始末するのに躊躇いがなくなるでしょう」
美蘭びらん、お前は本気で雪華せっかを殺すつもりなのか?」
「ええ。だって邪魔でしょう」
「だが、さすがに殺すのは……」
「あのね、これは生きるか死ぬかの戦いなの。もし浮気の証拠を先に掴まれて、離縁されでもみなさい。あんたはただの平民に、私は娼婦に逆戻りよ。輝かしい将来のためにも、覚悟を決めるべきよ」

 美蘭びらんは悪事を働くことに躊躇いがない。その恐ろしさに戦慄を覚えながらも、味方であることに頼り甲斐を覚える。

「あの小娘から財産をすべて奪い取り、贅沢三昧の毎日を楽しみましょう。そのためにも趙炎ちょうえんには一線を超えてもらうわ」
「わ、分かった。だがリスクは高いぞ。なにせ雪華せっかが死ねば、真っ先に疑われるのは俺だ。警吏に捕まれば、最悪、死刑もあり得る」
「なら事故を装えばいいのよ」
「事故?」
「後宮で画師の仕事をしているんでしょう。馬車の手綱に細工して、人為的に事故を起こせば、私たちが疑われる心配もないわ」

 雨風による劣化や摩擦によって手綱が切れ、制御が効かなくなった結果、馬車が横転する事故はよくある出来事だった。警吏も深くは疑わないだろう。

美蘭びらんは本当に恐ろしい女だよ」
「ふふ、だからこそ魅力的でしょう」
「さすが俺の愛した女だ」

 危険だからこそ惹かれてしまう。趙炎ちょうえん美蘭びらんの虜になっていた。

美蘭びらん……」
趙炎ちょうえん……」

 無言で二人は見つめ合う。静寂が支配し、恋人同士の時間が始まろうとする最中、窓の外から微かな音が聞こえてくる。何者かの気配を感じた趙炎ちょうえんは顔に緊張を走らせた。

「誰だ!」

 戦場で培った鋭い感覚を頼りに趙炎ちょうえんは窓に近づくと、勢いよく開け放った。心臓が高鳴る中、その先で目にしたのは一羽の小鳥だった。小さな体がふわりと空中を舞い、軽やかに飛び回っている。

「俺も気が立っているのかもな」
「戦争帰りだもの。仕方がないわ」

 趙炎ちょうえんは緊張を緩ませると、小さく息を吐く。冷静に考えれば、ここは二階であり、人が登ってこられる高さではない。

「最終確認よ。私達の未来のために、雪華せっかを殺す。構わないわね?」

 美蘭びらんの冷たい声に、趙炎ちょうえんは頷く。二人は雪華せっかという障害を取り除くことが、自分たちの未来を切り開く唯一の方法だと信じて疑わないのだった。

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