【完結】ハッピーエンドを目指す大聖女は家族を見返します

上下左右

文字の大きさ
5 / 60

第一章 ~『私からなら殴れる』~

しおりを挟む

 試験会場を後にしたマリアは、夕日を背に受けながら、意気揚々と帰路についていた。教会の馬車で最寄りの街まで送ってもらえたため、屋敷までの距離はすぐそこだ。

(きっとお父様は怒りますわね。でも関係ありませんわ。このまま好きでもない人と結婚するくらいなら喧嘩上等ですもの)

 冷酷な父親は容赦なく娘を王子の元へと嫁がせるだろう。それが分かっているからこそ、退くことはできない。

 額に汗を浮かべながら屋敷に辿り着くと、内庭の四阿へ向かう。この時間はマリアを除いた家族全員が、日課の団欒をしている頃だ。

「お父様、お母様、それにサーシャも。やっぱりここにいましたのね」
「マリア! お前、今までどこに行っていた⁉」
「私を心配してくれていたのですか?」
「馬鹿を言うな。お前がいなくなったせいで、その分の仕事が遅れているのだ。今日は寝る間を惜しんで働け。遅れを取り戻すまでは食事抜きだ!」

 変わらない父親の態度に、マリアは安心する。クズ相手なら躊躇する必要がないからだ。

「お断りします、お父様」
「なにっ⁉」
「私は大聖女候補として教会に保護されました。あなたの奴隷として生きるのは今日で終わりですわ」

 マリアは合格証明書を提示する。驚きでグランドは目を見開くが、退く様子はない。

「どうせ偽物だろう。お前が大聖女候補になれるものか!」
「では私に暴力を振るってみますか?」
「そ、それは……」
「できませんわよね。教会と敵対すれば、男爵家の権力では太刀打ちできませんもの。でもね、お父様――私からは殴れますのよ」

 積年の恨みを込めて、顔に拳を叩き込む。少女の腕力では大きな傷を与えることはできず、鼻血が流れる程度だ。

 しかし娘から暴力を振るわれた事実は、グランドのプライドを傷つけた。すぐにでも飛び掛かってきそうだが、教会と敵対するリスクを恐れ、歯を食いしばって耐えていた。

「うん、スカッとしましたし、今日限りでイリアス家との関係も終わりですわね」
「ま、待て、縁談はどうする?」
「もちろん、お断りですわ」
「相手は王族なんだぞ! 断れるはずがない!」
「私の知ったことではありませんわ。それに、娘ならサーシャがいるではありませんか」
「だ、駄目だ……サーシャは……」

 醜い王子の元へ、大切な愛娘を嫁がせるのは抵抗があるらしい。同じ娘なのに、大きな違いだと、苦笑を浮かべることしかできない。

「お姉様は大聖女候補として独り立ちされるのですね?」
「虐める玩具がいなくなって悔しいのかしら?」
「ふふ、まさか。私はいつだってお姉様の幸せを願っていましたよ」

 ニヤニヤと浮かべた笑みには含みが込められている。どうせ大聖女に選ばれるはずがない。そう馬鹿にしているかのようだ。

(絶対に見返してみせますわ)

 大聖女候補たちとの競争に勝ち抜き、国内最高の権力者になる。それこそが最大の復讐だと、マリアは屋敷を飛び出した。目尻には小さく涙が浮かんでいたのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

処理中です...