能力者は現在に

わまり

文字の大きさ
6 / 56

喋らない双子 3(終)

しおりを挟む
病室で寝ていた理乃が目を覚ました。
「理乃?」

「凛、ごめんね…」

「大丈夫なの?」

「うん。今は楽」
そう言い微笑んだ。

「良かった…」

「凛」
「言わなきゃいけない事があるの」

「なに?」

「私、もう長く生きられないの……」
そう言う理乃の目は悲しみに満ちていた

「嘘…」
口を手で覆い、目を見開く。
「なんで!?なんで今まで言ってくれなかったの?」

「凛に心配かかるじゃない…」

「そんな…」
「嫌だよ、理乃が居なくなるなんて…!」

「ごめんね理乃…ごめんね…」
抱きつく凛の頭を撫でながら理乃は涙を流す。

「理乃…お願いがあるの…」
涙声で凛が言った
「私…理乃とちゃんと話したい。声で、今みたいに…!」

「…っ!」理乃は目を見開き、そして理解した
「そっか、そうだったんだね。ごめんね、気付いてあげられなくて…」
「わかった。じゃあこの力はナシね?」

「うん…っ!」
そう笑顔で答えた。


余命は長くて1年間。
理乃はほとんど病院で暮らしていたが、凛は毎日学校が終わるとずっと理乃の元へ行き、その日の事を話していた。

そして5ヶ月が過ぎた。
病院から許可を得て、2人で家へ帰った。

「久しぶりの匂い…!」
「ちゃんと毎日家事できてる?」

「できてるよ、料理は苦手だけどね…」
頬を掻きながら答えた。

「そっか、凛も十分大人なんだね…」
「私がいなくても、生きていけるよね」

「そんな事…言わないでよ…」

「あ…、ごめんね…」

「じゃ、じゃあご飯作ってくね!」
「理乃はベッドで寝てて!」


しばらくすると、凛が部屋に入ってきた。
「ほら、できたよー、食べて!」

「うん」そう言い一口頬張った
「クスっ…ほんとだ、見た目は良くても味はイマイチだね」

「頑張って上手くなるよ!」

「そうだね、また上手くなった時にご馳走してもらおうかな」

「もちろん、その時は高級店顔負けの料理をプレゼントするからね!」

「楽しみにしとく」
理乃はクスクスと笑った。

「何かこれ、前凛が風邪引いちゃった時みたいだね」
「今は反対だけど…」

「覚えててくれたの?」

「うん。あの時から喋らなくなっちゃったんだっけ。」
「繋がっているからだと思ってたけど、本当は離れてたんだよね」

「うん。ちょっと寂しかった。」

「ごめんね、これからはいっぱい喋ろ?」

「うん!!」
「じゃあ私、お皿洗ってくるね!」
そう言い凛はドアを閉めた。

「ほんとに立派になった…私がいなくてももう大丈夫だね…」
少しづつ力が抜けていくのを感じた。
「最後に…少しだけ…」



凛は鼻歌を歌いながら皿を洗っていた。
「理乃、ほんと変わらないんだから」
小さな声が聞こえた。頭の中でだ。
その感覚は前から慣れていた、テレパシーの感覚だった。

(私達、ずっと一緒だからね)

そう聞こえた。
「理乃…?これは使わない約束じゃ…」
「まさか…」
皿を放り出し、部屋に駆けていく。

「理乃?なにかあった?」
返事はない。
「理乃?寝ちゃったの?」
揺さぶってみるが体はだらんとしていた。
「嘘でしょ…!?」

心の中で何度も呼ぶ。
(理乃!理乃!?聴こえる!?)
(理乃!理乃!!)

(ありがとね…)
理乃の声が微かに聞こえた。

「理乃…!」
凛はうずくまり、何度も何度も呼び続けた。
しかし、理乃からは何も帰ってこなかった。




4人は、凛の自宅へ向かっていた。
そこには救急車が止まっており、何があったのかは野次馬の会話で察知した。

杏はあの後何度か凛に会っていたが、ほとんど拒否されていた。
「理乃ちゃんが…?」

タンカの上には理乃が横たわり、横には凛の姿があった。凛は泣きじゃくっていて、話せる状況では無かった。

「テレパシー能力…」
由紀がそう呟いた。

「なんだって?」
直人が聞き返す。

「この2人、どちらもテレパシーの能力を持ってる…」

凛が少し反応したようだが、その後また泣きじゃくり始めた。

「なんで分かるんだ?」

「記憶が…理乃さんの記憶の一部が、私の頭の中にあるの…」

そう聞いた凛は顔を上げ、由紀に言った。
「本当に…!?」

「ええ。でもすごいよ、これ…。」
微笑みながら由紀が言った

「え…?」
目を真っ赤にさせながら凛は由紀を見つめた

「貴方の記憶ばっかりよ、凛ちゃん」
「私の能力では、その人の大事な記憶が入ってくるから。よほど大切に思われてたのね」

「理乃っ……!!」
そう言い、うずくまった。
凛の心には未だに理乃の声が残っていた。
(私達、ずっと一緒だからね)




「喋らない双子」終
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...