能力者は現在に

わまり

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蓋のない骨壷 11 最終回

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僕が助けたい人。
それは1人、母さんだけだ。


倉庫へ入ると、やはり壺があった。
満杯にしてはいけない理由、それは自分が死ぬからだ。しかしその代わりに母は助かる。

僕はやり遂げなくてはならないのだ。

鵜川さんの話で分かったことがある。
僕の母さんの遺体は壺と一緒に見つかった。壺の中は空だったそうだ。
ならば、智樹はあの時1度死んでいたのか…

智樹が交通事故にあったと聞いた時、母はすぐに病気へかけて行った。それが僕が母を見た最期の姿だったのだ。
きっと壺はもう満杯近かったのだろう、母の腕が発見された時無かったのは、自分で骨を入れたからだ。
その後智樹は生き返った。
後遺症もなく、事件前と変わらない状態で。
母の話が本当だったと知った僕は智樹に全てを打ち明けた。そして協力してくれる事を誓った。


壺を抱え、倉庫を出る
ゆっくりと歩き出し、町へ向かう。
足は重かった。これからはどこに警察がいるかわからない。明日警察が鵜川さんの家に来たらすぐに僕がいた事が判明するだろう。鵜川さんは「知らなかった」と言えば助かるはずだ。

一軒家が見えてきた。
インターホンを押すと、老婆が出てきた。
壺の中身を見せると発狂し、首を抑えて死んでいった。慣れた光景だ。足から骨を取り出し、削って壺の中に入れる。
一晩過ごせるだろうか、家を見渡す。
ベッドがあったので、拝借する事にした。
ずっしりとした壺を眺め、骨の量を確認する。大して減ってはいない。波でもっと無くなるかと思っていたのだが。
大きな満月が明るかった。

サイレンの音で目を覚ました。
もう警察が鵜川さんの家に来たのか。
だとしたらもう危ない。
急いで用意して家を出ると、町に大量のパトカーがあるのを見た。
1度家に入り、裏から出る。
山に入って抜ければ逃げられるはずだ。
この家が見つからなければすぐには来れないだろう。

そっと裏口から出る。
山へ行くと、そこにも警察がいたので周り道をした。なんとか抜け、山の頂上へ着くと集落が見えた。
あそこで少しの補給をし、次へ行こう。
そう思った時だった。

「小川さん!こっちです!」
大きな声が後ろでした。
見つかったか。急いで駆け出すと、後ろから2人の足音が迫ってくるのに気が付いた

暗い森をひたすらかける。
入り組んだ森を抜けた頃には追手との差が開いてる事に気が付いた。
そのまま集落へ入り、ある家に入って壺の中を見せた。家の人はもがいた後、意識を失った。

ここで捕まるわけにはいかない。
あと少し、もう少しなのだ。

押し入れに隠れ、壺の蓋代わりの鉛を開いて玄関の前に置く。そして自分は隠れる

数10分後、戸が叩かれ、開かれた。
そして数秒後すぐに入ってきた人が発狂し、倒れた。作戦成功だ。今はまだ警察は来れない。時間がかかるはずだ。

壺を直して駆けていく。
少しの間でもいい。
1人、あと1人の骨で母は生き返る。
僕は捕まってもいい。

夢中で走り、集落の奥まで行った。
神社があったので駆け込む。
誰もいなかった。
舌打ちをして出ると、集落の入り口にパトカーが数台停まっているのが見えた。

待ってくれ、お願いだ。
このまま集落へ戻って殺すか迷ったが、骨を入れる時間も考えてにげることにした。
海の方へ駆け出す。

白い砂浜が月に照らされていた。
逃げきれる。そして母は生き返る。
なんていい気分なんだろうか、こんなにいい気分になった事は初めてだ。

母さんはなんて言うだろうか。
僕を殴るかも知れない。それでもいい。
あの人の生きてる顔が見られるのなら。

僕はどんなことでもする…





乾いた音と共に、僕の右手に激痛がした。
血が出ている。後ろを振り返ると、銃を持った警察官が立っていた。
警察官は銃を構え、
「太田を殺したのはお前だな」
と静かに言った。

そしてもう1度警察官は銃を撃ち、それは僕の右脚に命中した。

悲鳴を上げ、激痛が走り前のめりに倒れる。


ガチャンという音がした。




…そんな、そんなそんな!嘘だ!!僕がやってきた事が全て無駄になる!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!泣き叫び、何度も嘘だと言う。夢だったら覚めてくれ。砂浜に拳を叩きつける。
「母さん!!」
死なないで、行かないで!

白い砂の上に飛び散った赤い骨、そして割れた壺。後ろには警官がいる。

「母さんを助けられたのに!助けられたのに!あと少しで…!僕が…っ!!」


母さんの言葉を思い出す。
「壺は絶対に満杯にしちゃいけないよ。そして、割ってもいけない。」
「壺は命、でもその命は次々上書きされていくの。壺の命が奪われた時も同じ。」


「あなたが次の世代を助けようとするなら、あなたの命で壺を上書きしなくちゃいけないの。」


そっか、僕は死ぬのか。
何も成し遂げられず、人の命ばかり犠牲にして。

でも母さんの元に行けるのなら幸せかな。

赤い骨の上に倒れながら、波の音が遠ざかってゆくのを感じた。
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