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9、ラオン公爵令嬢

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話は令嬢たちとのティータイムに戻る。

「アストリアの令嬢たちの間では、いま何が流行っているのかしら?
恥ずかしながら、わたくしはこの国に嫁いだばかりで色々と疎いんですの。」

システィーナは、恥ずかしそうな素ぶりを見せつつ、令嬢たちを見渡す。
そして、ゆっくりとラオン公爵令嬢に視線を合わせた。

ラオン公爵令嬢であるラミナは、システィーナに発言を許されたことを察し、話しはじめる。

「そんなご謙遜を!王妃様は、わずか数週間で、もう政務を完璧にこなされているとか。
わたくしが王妃様にお教えできることなどあるか...」

「まぁ、ありがとうございます。ラオン家の令嬢にそう言ってもらえるとは光栄です。ですが...」

アストリアは、マクライン家とラオン家の二大公爵家が王家を支えている。その役割は明確で、マクライン家は軍事力、ラオン家は経済力を担っている。

ラオン家は、代々アストリアの商業を支え、世界各地にラオン家の息がかかった商人による情報網が張り巡らされている。

「ですが、令嬢たちの流行りに疎いのは本当ですよ。ぜひ、教えていただきたいわ。
とくに、わたくしと同い年くらいの皆様のことをもっと知りたいのです。」

ラミナは、システィーナのその発言に嬉しそうに目を輝かせ、自分が持てるありったけの情報を伝える。

システィーナは、その情報をひとつひとつ丁寧に聞き、今回の騒動のヒントを探しはじめた。

「あと、これは一部の令嬢の流行りなのですが…あ、ですが.システィーナ様には関係ないかもしれません。」

システィーナは、ふと予感する。
この話は必ず聞き出さなくていけないと。

「いいえ、知りたいですわ。教えてくださいませ。」

ラミナは、まわりの令嬢たちを見渡す。
令嬢たちも小さく頷いて、ラミナに話をするよう促す。

「じつは、私も噂でしか存じ上げないのですが、未婚の令嬢たちの間で、恋薬と呼ばれるものが流行っていますの。」

「恋薬?具体的にはどのようなものですか?」

「それが、手に入れた令嬢たちしか知らないのです。それに、手に入れたあとは屋敷から出なくなってしまって...」

「なぜそのような怪しげなものを令嬢たちは手に入れようとするのです?」

すると、とある令嬢が興奮したように話し出す。
末席に座っている、子爵令嬢のようだ。

「システィーナ様が嫁がれる前に、とある劇的なラブロマンスがあったのです!
しがない男爵令嬢が、なんと侯爵家の令息と婚約したのですよ。そのきっかけを作ったのが恋薬なのです。」

そこからは、男爵令嬢と侯爵令息の恋物語の話題で持ちきりとなって茶会は終わった。

しかし、システィーナの目は、ひとりだけ暗い表情をしたラミナを密かにとらえていた。
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