転生してエルフの青年になったけど

hina

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転生したけど、前世のことはあんまり覚えていない。

それがいいのか悪いのか、それでもこんなファンタジーな世界に生まれて、慣れるのには時間がかかった。

「でもエルフだからなあ……」

エルフの国の首都、森都まであと少しの森の中。大きな独り言を呟いて、懐中時計で時間を確認した。

僕ハーシェルはエルフとして生まれて八十年。
この間やっと成人して、森都で暮らすべく田舎の村を抜け出した。
両親はオメガである僕をずっと心配していたけど、村には父以外のアルファもいないし、泣く泣く僕を見送ってくれた。

オメガの幸せはアルファ次第。
残念だけど、それは真実に近い。
番選びは慎重に。
周りから何度も注意を受けていた言葉。

僕は首につけたネックガードにそっと触れて、森の中の道を行く。

森都への森は比較的安全で、野生の獣は魔法の気配を嫌って僕には近付いてこない。はず。

はずなのが心もとないけど、両親が持たせてくれた魔法陣は多分効力を発揮していた。

「怖くないったら怖くない」

びくびくしながらでは説得力もないけど、気にしたら動けなくなってしまう。
その方が危ないので、僕はひたすら歩く。
馬を借りられたら良かったけど、僕のお財布にそんな余裕はなかった。
でも森都での家はもう確保済みなので、心配はいらない。

「弓、売れるかな。売れないと困るんだけど」

僕は森都で弓屋さんをひらく予定だ。
エルフといえば、弓。
そんな知識で、幼い頃から弓を作り続けてきた。もう職人と言っても過言ではないほど、うまく作れるようになった。


材料を仕入れる先も決まっているし、僕には明るい未来が待っている……はず。


森都であんな出逢いがあるとは、この時の僕はまだ知らなかった。
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