破魔の魔術師

hina

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「どうやら」
「本当のようだな」

信じられないよな、魔獣の大発生なんて。でも現実だ。魔素が集まり出して魔獣の形を造り上げる瞬間も俺の魔術で消え去る瞬間もこの目に焼き付いている。

「私もその場におりましたから」
「殿下」

それよりも何よりも。何で教えてくれなかったんだと詰め寄りたい。

先程聞いた名は、アレクシス・ハルシサ・ラペル・エルファンミース。アレクシスはエルファンミース帝国の皇太子殿下だった。
西大陸一番の大国だ。竜人だと言われた時点で気が付くべきだった。エルファンミースの皇族は竜人族として知られている。
だけど、この国から遠く離れた帝国の皇太子がこんな場所にいるなんて誰が想像出来ただろうか。
俺はわからなかったよ。

今日は精神力も試されてる一日だ。色々あり過ぎて満身創痍だ。


でも冒険者ギルドの魔獣退治自動筆記判定具が倒した大量の魔獣を書き上げていく中、大国の皇太子の証言もあり、俺の報告は信憑性を増し、受け入れられたようだ。

「ルトヴィア殿、この度は誠に有り難うございました。貴殿の活躍がなければこの街はどうなっていた事でしょうか」
「あ、いえ。私は当然のことをしたまでですので」
「破魔の魔術師というのは伊達じゃねーんだな。ただでさえ少ない聖魔術師がその場にいてくれたのは幸運だった」
オレアタルア冒険者ギルドのギルドマスターと呼び出されて駆けつけた役場の担当者の男性は揃って街の無事を喜んでいる。

ちなみに魔術の光は見えなかったそうだ。無念。




「……少しだが、報酬に色をつけさせてもらった。受け取ってくれ」
「あ、ああ。有難うございます。聖魔術では素材の回収が出来ないのが難点ですね」
「今回のようなことはそうそう無い……あったら困るけどな。人の命には代えられないさ、ありがとう。もし回収が可能だったら金額が凄い事になっていただろうな」
「一日では回収しきれなかったかもしれないな」
「アレクも手伝ってくれた?」
「分け前があるのなら」
「現金」
程なくして、俺の元に袋に入った金貨が届けられる。俺とギルドマスターの会話にアレクシスが入ってきて、和やかなムードに包まれる。

「驚いた、殿下は気さくな方なんですね」
「気さくとはちょっと違うような……」
役場の人の言葉に俺が返すと、アレクシスは不機嫌そうに顔を顰める。

「アレクシス殿下は冒険者としてはAランクなんだよな」
「そうか。俺と同ランクなんだ。どちらが先にSになれるかな」
「二人ともまだ若いんだ。焦る事ないさ。でもルトヴィアは今回の件でSランクとして認められるかもしれない」

もしそうなれば、聖魔術師としては恐らく最年少記録更新だろう。流石だな、俺は。
自分で自分を褒める。……別に寂しくなんてないやい。自己肯定感を高める大切な作業だ。


「まだわからないけどな。期待しないでおいてくれ。話は以上だ。疲れているだろうところ、悪かったな」
「良い宿を紹介してくれたらチャラです。高級店でいいですよ」
「お、おう?」
「そういうやつだな、君は」
アレクシスが笑う。


そうして無事今夜泊まる宿の目処が立った俺はアレクシスとともにオレアタルアの冒険者ギルドを後にした。




「ふぁー……」
大きな欠伸を一つして、街路に立つ。
「ルトヴィア、魔力を交わらせてくれ」
「あ? ああ、いいけど」
魔力を交わらせることは、連絡先の交換を意味する。魔術で伝達鳥を飛ばすのだ。
滅多にいないが、魔力のない人以外は使える一般的な連絡手段だ。
伝達鳥は普段見えない人の魔力が可視化出来る手段として親しまれてる。
俺の伝達鳥は大きな白鳥だ。俺は魔力量も質も高いので立体映像も送れたりする。
鳥が光の粒子に変化して映像をかたどるのだ。
簡単なメッセージをやり取りしたい時には派手すぎると不評だけど、単純な魔術だし制御するのは面倒なので、大きな白鳥で我慢して貰ってる。小さな鳥にするのには複雑な魔術を用するのだ。大きいからって音量まで大きいわけではないので十分だろう。
伝達鳥には魔力の個性が表れる。

ギルドに行く前にマジックポーションで少し回復したから交わらせるくらいの魔力はある。

手と手をかざし合って魔力を交わらせる。
魔力の紐が腕から全身に絡んで浸透していき、身体が仄かな光に包まれて、光が消えていく。

「終了っと」
「有難う。すまないが、この後夕食だけ共にしたら俺は帰らなければならない。また会えそうな時は連絡する。何かあったら遠慮なく連絡してくれ。駆けつけられるかはわからないが、手は尽くす。何もなくても連絡してくれて構わないし」
「無理しなくていいよ?」
「無理はしてないし、するつもりもない」
「そう?」

沈黙が訪れる。夕食を食べるために店を探さなければならない。さっき聞いておけば良かったなあと思いながら、まあいいかと、無言で歩き出したアレクシスの後を追った。
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