破魔の魔術師

hina

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「美味しーっ」
薬草鷄のステーキを口に含んで、小さく震えた。


辺りはすっかり暗くなり、店々の灯りが街路を照らしていた。

俺達は賑わっている大衆食堂に入り、料理を注文した。

「お酒は飲まない?」
「この後飛行するからな。素面でいたい」
「酔うほう?」
「いや、結構強いが」

この国では十八歳からお酒が飲める。でも今日は俺もやめておく。
今日のこともあるし、この街に長居したらもしかしたら領主から宴に誘われてしまうかもしれない。
その流れで用心棒に、なんて頼まれてしまうかもしれない。
面倒なことも二日酔いも避けたいし、まだ旅を楽しみたい。
明日の昼には街を出るつもりだから、お酒は飲まないでおく。

明後日には国境を越える予定だ。
国境沿いは何もない平原が続くけど、隣国の街に着いたらちょっとのんびりするつもりでいる。


「このお店にして正解! あー、薬草鶏、他のとこでも食べられたらいいのに」
「この地に自生する薬草で育つから、この肉質と味になるらしいからな。他じゃ繁殖させられないんだろう」
アレクシスは薬草鶏のシチューを上品な所作で口にしている。
美形な上に、育ちもこれ以上ないほどいいのか……敵わないな。

「どうした?」
「あ、その。その薬草を他の地で栽培する方法はないかな」
「さあ……でももう試している人もいるんじゃないか」

思わず見惚れていたら、不審に思ったのか、アレクシスの手が止まる。

「他のところでは話を聞かないとなると、上手くいかなかったのかな。それとも局地的すぎて話題に上がらないのかな」
「どちらもあり得るな」
「旅を終えたら薬草栽培に精を出そうかな」
「いつ旅を終える予定なんだ?」
「難しい質問だけど、まだ先としか」


この西大陸をめぐるつもりだけど、それでも何年かかるだろう。
祖国は徒歩でゆっくりまわったけど、これからはどうしよう。急ぐ旅ではないけれど、たまには馬車を使うのもいいかもしれない。大きな都市には他の都市とを結ぶ転移陣もあるけど、それは故郷に帰る時以外は使うつもりはない。

「旅に満足したら、俺のところに来ないか?」
「え?」
「あ、いや」

アレクシスが視線を逸らす。思わず言ってしまったというような様子に、何と返したらいいのだろう。


「考えておくよ、はは」
「そうか。ありがとう」

どういう意味で、だろう。エルファンミースの宮廷魔術師として迎え入れてくれると言う事だろうか。
それとも……?

いや、それはないかなあ。
それってなんだ。
俺は今何を思った?


この世界では、同性同士でも神に誓いをたて、魔力を注ぐ事で子供が出来るし、もちろん婚姻も可能だ。
同性で恋人同士になるのも普通の事だ。

えっ、口説かれてるわけじゃないよな!?
何となくで、考えておくとか言っちゃったし!
大国の皇太子なら政略結婚とかするんじゃないのか……?
それとも恋愛は自由なんだろうか。


聞きたい……けど、気マズ過ぎる。
今日知り合ったばかりでぶっちゃけて聞ける雰囲気じゃない。


「エルファンミースはどんな国なんだ? 大国だということは知ってるけど」
「確かに国土は広いな。帝都は栄えてるし、基本的には豊かな国だけど、今でも他国を吸収して領土を広めようとしているし、戦が絶えないかな」
「大変そうだな」
「俺の代になったら戦を終わらせて産業を充実させたいと思ってる。領土が広すぎても支配が難しい」
「支配……」

俺とは見てる世界が違う。それなりに忙しいって言ってたけど、どうやらそれなりどころではなさそうだ。
Aランクの冒険者だし、竜人は強いって言うけど、争いの最前線に駆り出されたりするのかな。

「やっぱり平和がいいな」
「ああ」

エルファンミースに入る時は注意しなくちゃいけないな。戦をしていないところから入れたらいいけれど。


「そう言えば、皇太子って命を狙われたりしないのか?」
「あー、皇太子になる前は酷かったが、今では落ち着いたな。まあ今でもたまにあるが」
「物騒」
「ルトヴィアのことは守る。だから来る時は安心して来てくれ」
「遊びに行くとしてもまだ先だよ? 徒歩で旅するから」


エルファンミースは遠い。



「空の旅をする気になったらいつでも言ってくれ」
「それは……どうかな」


食べ進めた薬草鶏の残りを口に運び、その歯応えと味を楽しむ。

実は高所恐怖症なんだとは言えそうになかった。
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