異世界に迷い込んだら神子様と呼ばれてるけど、僕にはもったいないような気がする

3

「綺麗なお庭……」
大きな池に形の整えられた木々、甘い香りを漂わせる花々などが夕日に染まり、幻想的に輝いている。
「この池はこの国を治める上で重要な役割を担っているんですよ」
「と言うと……？」
「国に異変があると光が浮かび上がってくる術が施されているのです。光の色や形や数でその異変が何処で起き、どんな異変なのかが分かるようになっているのです」
「ええっ……？　そんな術がこの世界にはあるの？」
「はい。神術の一種です」
「あの、神術って？」
「選ばれた者のみが使える神の力の一端です」
「はあ……なるほど？」
魔法みたいなものかな。
ピンとは来なかったけど、きっと崇高なものなんだろう。
僕も使えるかな……？　なんて思いつつ、双葉くんについて外に面した廊下を歩いていく。

「湯殿はこちらです。入浴のお手伝いはいかがいたしましょうか？」
「あ、僕一人で大丈夫です。ありがとう」
「私は外に控えておりますので、お困りのことがありましたらお気軽にお声がけくださいね」
「うん。分からないことがあったら聞くね」


双葉くんは口調や纏う雰囲気が柔らかで、そばに居てくれるとほっとする。
だけど脱衣所に一人になって、僕は自分が緊張していたことに気が付いた。

「……ふう。ゆっくり入ろう……」

ぽつりと呟いて、服を脱ぎ始めた。




◇

浴室にあったジェルみたいなもので全身を洗ったら、凄くすっきりした。
植物の分泌液から出来ているとかで、敏感肌にも優しいのだとか。

異世界だし、深く考えるのはやめて自然の恵みを享受した。

ほかほかになった僕は、とある部屋に通された。

「こちらは遊様の居室です。紫陽殿下がお見えになるまでお寛ぎ下さいませ」

その部屋は広くて、ヘリのない畳が敷かれていて、部屋の中央にはテーブルとクッションが置かれていた。ガラスがはまる格子窓の向こうには庭園が見える。

にこっと笑ってくれた双葉くんに僕も小さく笑ってテーブルの前にそっと腰かけた。

「お茶をお持ちしますね！」
「お願いします」

まだ時々敬語が混じってしまうけど、双葉くんは気にしていないようで一礼して部屋を出ていった。