異世界転移してスローライフを目指してます。だけど、魔法陣ばかり作成中です。

hina

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「よし、出来たと」
バキバキになった肩を回しながら、羽根ペンを置く。
魔法紙に魔法インクで書かれた魔法陣は淡く発光している。
もう少し落ち着かせたら完成。商品になる。


私は葛城瑠奈(かつらぎるな)。一年前までは日本の女子高生だった。

今は迷い込んだ異世界ナルトルタの田舎街で、拾ってくれた二十ニ歳の魔術師ディアン・ファルテと生活している。

海の見える高台の田舎街での生活はのんびり……と言いたいところだけど、ディアンは私に魔法陣作成ばかり頼んでくる。
どうやら魔力が豊富で、狂いがなく、精密に書かれる私の魔法陣は質が高く、需要があるらしい。


難しくて何に使うの? という魔法から生活魔法まで幅広く依頼される魔法陣を作成するのは楽しかった。

だけど、目も疲れるし、肩も凝るし、腰も痛い。
頼まれた魔法陣を全て完成させるには時間がいくらあっても足りない。
丁寧に書き込むから、時間がかかるのだ。


「お茶淹れてこよう」


席を立って、キッチンへ向かう。
家主のディアンは昼間は魔法塔と呼ばれる国の機関で仕事をしていて、家にはいない。

この世界、限られた魔力の消費をおさえるために、魔法陣が使われるが、魔力が多い人は魔法陣を介さず魔法を使ったりもする。
ディアンがそれで、様々な魔法が使える彼は大魔術師らしい。
人嫌いで、素っ気ないけど、プラチナブランドの長い髪を一つにまとめ、切長の碧眼を煌めかせる彼は紛れもないイケメンだった。

「魔法……は便利だよね。科学はないけど」


電池の残りが気になるし、電波の入らないスマホはもうすっかり触らなくなっている。
生活の動力も魔法だし、移動も魔法、連絡手段も魔法。出来ないことももちろんあるけど、大抵のことは魔法で済んでしまう。

覚えるまでは大変だったけど、覚えてからは魔法がないと居られないほどだ。
魔力が多くて助かった。魔法陣は作るけど、自分で使うことはあまりなかった。
ここで暮らす分には、難しい魔法は使わない。


この世界でもあったやかんでお湯を沸かしながら、私はお昼ごはん何を食べようかなと思案した。


次々と詰まっている魔法陣作成がなければ、この生活も悪くないんだけどな。
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