君が好き。

hina

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「いらっしゃいませ。ファイス様」
「カイルと呼んでくれ、愛しい人」
「僕は仕事中です」
「では閉店後に付き合ってくれ」
「お断り致します」
「私は諦めないからな」
「困ります、お客様」

席についたまま、僕の手を取ってそっと口付ける美丈夫から手を引き抜いて、僕は作った顔でにっこりと笑った。


僕はレイリア。平民だから名字はない。
今年二十二歳になる薄茶の髪と瞳の平凡な男だ。
街のレストランでウェイターをしている。

先程の困ったお客様は、カイル・バザ・ファイス。プラチナブロンドに透き通った碧眼の二十八歳。
みんなの憧れ、王国騎士団の団長で、侯爵令息だ。

そんな彼に思いを告げられ続けていて、僕は参っていた。

この世界には男しかいない。男同士でも魔法で子供を授かれる。

前世の記憶がある僕はその事実を知った時愕然としたけど、今はもうそういうものなんだと割り切っている。

けど、まだやっぱり少し抵抗がある。


それにカイルとなんて考えられない。
何もかもが釣り合わない。
侯爵夫人になる自分も想像出来ない。

だから、熱烈なアプローチに困り果てていたのだ。





そもそも、僕達の出会いはそんなにロマンティックなものじゃなかった。

きっかけは、小さな子供がお菓子売りのワゴンでお金を払おうとした時、わきから出てきた男がそのお金を奪ったことだった。

僕はちょうどその男が逃げてきた先にいて、男に足をかけた。
その男を追ってきた騎士がカイルだった。

僕は名前を聞かれて、協力への感謝と、あまり無理はしないようにとの注意を受けて、カイルとの関係もその場で終わりだと思っていた。


けれど、その二日後からカイルが僕が働く店に連日通うようになり、僕達のロマンスは王都中の人が知るところになった。

「美しい人、お名前は……」

と聞かれた時に危機感を持つべきだったのかと、何度も考えたけど、現状は変えられない。
それが現実だ。




お店にカイル目当てのお客さんが増えたので、お店の人達は喜んでいるけど、僕に厳しい目を向ける人もいるので、僕はちょっと憂鬱だった。

「レイリア、大丈夫? 顔色悪いけど」
「大丈夫。ありがと」

同じウェイターで友人のロビンがすれ違いざまに声をかけてくれる。
僕は笑って、次のお皿を手に持った。

嫌だけど、逃げるわけにもいかないのでカイルに料理を運ぶ。
僕がいる時は僕がカイルの担当になる。
カイルはお店にとって大事なお客様なのだ……。
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