君との距離。

hina

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「やっとここまで来たー」
海辺の丘の白い街。
ソロプレイヤーには遠い道のりだった。

大人気ゲーム、フェアリーテイル・オンライン、FTOは作り込まれたファンタジーな世界を自由に遊べるVRMMOだ。
シナリオストーリーを進めるもよし、気の向くまま世界を探検するもよし、人との交流を楽しむのもよし。
楽しみ方は人それぞれ。

俺、嵯峨樹(さがいつき)は、高ニの男子高生。Ω。発情期はすでに来ている。

身長は百六十六センチで伸び悩んでる。体重も軽い方だと思う。

ゲームは、ツーという名前を使っていて、濃い緑色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしているけど、リアルは黒髪茶眼だ。
ツーは樹、ツリーから名付けた。


「酒場からまわるか」
ゲーム内でも、未成年はお酒を飲めないけど、酒場で情報収集は出来る。攻略サイトを見たりすることもあるけど、この街周辺の情報はまだ知らない。

白壁の街を歩きながら、開いているお店を見て回る。酒場と言っても一軒だけじゃないし、ゲームだからいくらでも食べられるとは言っても、お財布の事情もある。
どこにどんな店があるかをチェックしながら、景色が良さそうな丘の上の方を目指すことにする。
展望台とかあるかな。







「海底神殿には目ぼしいものなかったな」
「ボスもいなかったしな」
「すみません、海底神殿があるんですか?」
丘の上の酒場でカウンターに座った俺の隣に座る二人のプレイヤーの話を耳にして、話しかける。

「ん? ああ、でも何もなかったよ」
「行くのに、潜水スキルと、深海石っていう水の中で息が出来るようになる石が必要ですよ」
「潜水スキルと深海石ですか……。ありがとうございます。気になるから行ってみようと思います」
「そっか。頑張ってね」
「はい」

潜水スキルは冒険者会館に行けば良いかな。深海石は……どこで手に入るだろう。

俺はワクワクしながら、席を立った。














「ちょっとこれは聞いてなかったなー」
浜辺の洞窟の奥で巨大な海蛇に巻きつかれながら、息も絶え絶えに、魔術の呪文を詠唱した。

「氷獄!」

自分の攻撃魔法は自分や仲間には効かないようになっている。

海蛇がザシュザシュと氷に貫かれ、巻き付きが軽くなっていき、息絶えた。

「ふー。深海石ゲット! 危ない危ない」


ソロで突き進んできただけあって、そこそこ強い自信はあるけど、一人だと不測の事態に弱い。
ボス戦なんかは毎回緊張の連続である。


早くここから出て、濡れちゃった靴を天日で乾かそう。浜辺でのんびりも悪くない。









海底神殿は、澄んだ海の底にある白石の神殿だった。
この神殿が作られた昔は、海の底ではなかった設定らしい。
設定って言っちゃダメか。


先客がいたようで、その人は、石柱の回廊の先、丸く切り抜かれた天井があったであろう海面の方をじっと見ていた。
水面の波紋の光がきらきら揺れていて、神秘的だった。

美しいその人は、その景色に負けないほど、神聖で。
長いプラチナブランドの髪が水に揺蕩い、長身の長い手足を優雅に動かしてその場に留まっていた。

その青年にしばらく見惚れていたけれど、彼は俺に気が付いたとたん、困ったように笑ったらしく、気が付いたら彼に腕を掴まれて、海面から顔を出していた。


「あんまり見つめないで」
「あ、すみません」
顔を出したあとも、整った彼の顔を至近距離で凝視していたら、また困ったように微笑まれた。
碧眼が煌めいている。

「ふふ、素直だね」
「えっ、いや、あの」
「僕はアラン。君は?」
「ツー、です」
「ツーか。取り敢えず、海から出ようか」
「そうですね。サメ怖いし」
「サメいるの?」
「どうなんだろう……」
そこまでの情報収集はしてなかったけど、とくに注意されなかったし、危険はない……のかも?

「ね。じゃ、行こっか」

クロールで泳ぎ出したアランさんの後を追って、俺も泳ぎ出した。







「じゃあ、君もソロなんだね」
「はい。魔術師やってます」
「僕は魔法剣士だよ。ここまでくるの大変だったよね」
「そうですね。やっとって感じです」
「わかるわかる。魔術師じゃ、魔法防御特化の敵だと大変じゃない?」
「ボス戦が地獄ですね」
「ああ……」

海岸について、危ないので海中では運営に推奨されていた昼モードにしていたのを、時間通りの夜モードに直し、俺の風魔術で衣服を乾かした俺とアランさんは、街への道をゆっくり歩いていた。
話を聞けば、アランさんもソロプレイヤーらしい。
苦労する点は違っても共感することが多くて、話が弾む。

「困った時は助け合おうよ。いつもはこの時間帯にログインしてる?」
「今日はちょっと夜更かししちゃってます。いつもはもう少し早い時間に遊んでます。でも土曜日ならこの時間帯でも遊べます」
「そうなんだね。ね、フレンドになろうよ」
「あ、はい。喜んで」

お互いにソロな理由は語らなかったけれど、また会う約束をして、その日はログアウトした。

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