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第七話 みなぎる闘志
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「ま、魔人だって!」
悲痛な叫び声を上げたのはアストラルさまだった。
それも当然だろう。
私はアストラルさまの蒼白な顔を見ると、すぐさま顔を戻して魔人と化したミーシャを睨みつけた。
魔人。
はるか海の向こうにある大陸は魔界と呼ばれており、その魔界に住んでいるという魔族という種族の中で強力な魔法が使える生物のことを魔人という。
しかし、確か例外があったはずだ。
私は学院内の授業で習ったことを思い出した。
魔人という存在は実際に魔界に住んでいるらしいが、強力な召喚魔法の類で魂だけをこの人間界に呼び寄せられることもあるらしい。
やはり実家の書庫でミーシャが見つけたという魔導書には魔人の魂が封印されていたのだ。
その魔人にミーシャは魅入られた。
いや、同調したというべきか。
腐りきったミーシャの魂が魔人の魂と同調し、こうして肉体すらもおぞましい化け物に変化させたに違いない。
何たる醜悪!
何たる狂気なの!
私は歯噛みした。
ミーシャはここにいる者たちを皆殺しにすると言ったが、きっとそれだけでは終わらない。
私たちを皆殺しにしたとしても、そのままミーシャは屋敷を出て王都の大通りに向かうだろう。
何のために?
決まっている。
大通りにいる無辜の民たちを惨殺するためだ。
それほどの狂気が私の肌にビンビン伝わってくる。
「セラス・フィンドラル!」
私があらためてミーシャを倒す決意を固めたとき、血相を変えたアストラルさまが私の隣へとやってきた。
「き、君は今すぐ逃げるんだ! あ、あ、あの化け物は俺が倒す!」
アストラルさまの声は上ずっていた。
私はちらりとアストラルさまが両手で握っている長剣の切っ先を見る。
微妙に震えていた。
本当はアストラルさまは怖いのだ。
けれど、アストラルさまは必死に恐怖を堪えて立ち向かおうとしている。
しかもアストラルさまは、自分が闘うから君は逃げろとまで言ってくれた。
こんなときに何だが、私は身分が上のアストラルさまにときめいてしまった。
第1王子という高貴な身分でありながらも、たかが男爵家の令嬢である私の命を身を挺して守ろうとしてくださっている。
その心遣いだけで十分だった。
私が命を張って闘う理由として――。
「ありがとうございます、アストラルさま」
私は小さくアストラルさまに頭を下げた。
「ですが、ここは私が引き受けます。アストラルさまはこのまま兵士たちの元までお下がりください」
「ば、馬鹿なことを言うな。相手は凶悪な魔人なんだぞ。闘うのは男である俺の役目だ」
「いいえ、闘うのは私の役目です」
私はアストラルさまにはっきりと言った。
「それに第1王子であらせられるあなたさまにもしものことがあったら、このヘルシング王国の将来はどうなるのですか? あなたさまは次期国王になられるお方です。どうか、この場は私にお任せください」
「しかし、君は女性で俺は男だ。女性を闘わせて男の俺が引き下がるなどは……」
「大丈夫です」
私は力強い言葉でアストラルさまの声をさえぎった。
「今の私は女性の前に空手令嬢なのです。魔人と化したあの者たちは私の空手で倒します……いえ、私の空手でなければ倒せません。なので、アストラルさまはお早くお引き下がりください」
「セラス……」
逡巡すること数秒、アストラルさまは「絶対に死ぬなよ」と優しく言って後方へと下がっていく。
――絶対に死ぬなよ
その言葉だけで私の闘志にメラメラと火がつき、全身に巡っていた〈気〉の力がさらに倍増する。
〈気〉の力は気持ちの力。
アストラルさまの温かい励ましをもらった今の私は、たとえ伝説の魔王とやらでも徒手で倒せる。
「オホホホホホ、さあお姉さま! ちゃっちゃと殺してあげますね!」
「セラス! お前は婚約破棄どころか殺して死体遺棄をしてやるわ!」
魔人(ミーシャ+シグルド)が声を合わせて襲いかかってくる。
ミーシャ……シグルド……ほざくのはあの世でしなさい!
悲痛な叫び声を上げたのはアストラルさまだった。
それも当然だろう。
私はアストラルさまの蒼白な顔を見ると、すぐさま顔を戻して魔人と化したミーシャを睨みつけた。
魔人。
はるか海の向こうにある大陸は魔界と呼ばれており、その魔界に住んでいるという魔族という種族の中で強力な魔法が使える生物のことを魔人という。
しかし、確か例外があったはずだ。
私は学院内の授業で習ったことを思い出した。
魔人という存在は実際に魔界に住んでいるらしいが、強力な召喚魔法の類で魂だけをこの人間界に呼び寄せられることもあるらしい。
やはり実家の書庫でミーシャが見つけたという魔導書には魔人の魂が封印されていたのだ。
その魔人にミーシャは魅入られた。
いや、同調したというべきか。
腐りきったミーシャの魂が魔人の魂と同調し、こうして肉体すらもおぞましい化け物に変化させたに違いない。
何たる醜悪!
何たる狂気なの!
私は歯噛みした。
ミーシャはここにいる者たちを皆殺しにすると言ったが、きっとそれだけでは終わらない。
私たちを皆殺しにしたとしても、そのままミーシャは屋敷を出て王都の大通りに向かうだろう。
何のために?
決まっている。
大通りにいる無辜の民たちを惨殺するためだ。
それほどの狂気が私の肌にビンビン伝わってくる。
「セラス・フィンドラル!」
私があらためてミーシャを倒す決意を固めたとき、血相を変えたアストラルさまが私の隣へとやってきた。
「き、君は今すぐ逃げるんだ! あ、あ、あの化け物は俺が倒す!」
アストラルさまの声は上ずっていた。
私はちらりとアストラルさまが両手で握っている長剣の切っ先を見る。
微妙に震えていた。
本当はアストラルさまは怖いのだ。
けれど、アストラルさまは必死に恐怖を堪えて立ち向かおうとしている。
しかもアストラルさまは、自分が闘うから君は逃げろとまで言ってくれた。
こんなときに何だが、私は身分が上のアストラルさまにときめいてしまった。
第1王子という高貴な身分でありながらも、たかが男爵家の令嬢である私の命を身を挺して守ろうとしてくださっている。
その心遣いだけで十分だった。
私が命を張って闘う理由として――。
「ありがとうございます、アストラルさま」
私は小さくアストラルさまに頭を下げた。
「ですが、ここは私が引き受けます。アストラルさまはこのまま兵士たちの元までお下がりください」
「ば、馬鹿なことを言うな。相手は凶悪な魔人なんだぞ。闘うのは男である俺の役目だ」
「いいえ、闘うのは私の役目です」
私はアストラルさまにはっきりと言った。
「それに第1王子であらせられるあなたさまにもしものことがあったら、このヘルシング王国の将来はどうなるのですか? あなたさまは次期国王になられるお方です。どうか、この場は私にお任せください」
「しかし、君は女性で俺は男だ。女性を闘わせて男の俺が引き下がるなどは……」
「大丈夫です」
私は力強い言葉でアストラルさまの声をさえぎった。
「今の私は女性の前に空手令嬢なのです。魔人と化したあの者たちは私の空手で倒します……いえ、私の空手でなければ倒せません。なので、アストラルさまはお早くお引き下がりください」
「セラス……」
逡巡すること数秒、アストラルさまは「絶対に死ぬなよ」と優しく言って後方へと下がっていく。
――絶対に死ぬなよ
その言葉だけで私の闘志にメラメラと火がつき、全身に巡っていた〈気〉の力がさらに倍増する。
〈気〉の力は気持ちの力。
アストラルさまの温かい励ましをもらった今の私は、たとえ伝説の魔王とやらでも徒手で倒せる。
「オホホホホホ、さあお姉さま! ちゃっちゃと殺してあげますね!」
「セラス! お前は婚約破棄どころか殺して死体遺棄をしてやるわ!」
魔人(ミーシャ+シグルド)が声を合わせて襲いかかってくる。
ミーシャ……シグルド……ほざくのはあの世でしなさい!
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