【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

文字の大きさ
10 / 48
第二章 元〈防国姫〉のヒーラーライフ

第十話   山中での少女との出会い 

しおりを挟む
「う~ん、今日は凄くいい天気ね。心まで洗われるようだわ」

 私は大きく伸びをすると、頭上に広がる大海原おおうなばらを見上げながらごちる。

 空はどこまでも青く澄み渡り、降り注ぐ太陽の日差しは目を覆うぐらいにまぶしかった。

 今日はそこまで強い風は吹いていない。

 蒼天に浮かぶ無数の白雲は、どこまでも緩やかに穏やかに流れていく。

 現在、私とリヒトは王都から離れた山間の道を歩いていた。

 理由は私の〈放浪医師〉の初仕事のため、医療施設や医師が常駐していない山村の1つに向かうためだ。

 しかし、さすがに王都からかなり離れた場所にあるため、馬車などでは到底向かえない。

 馬になら乗っていけるだろうが、その馬を買うお金がないので、こうして山々の景観を眺めながら目的地へ徒歩で移動していたのだ。

「アメリアお嬢さま」

 私が新鮮な空気を肺一杯に吸い込んでいると、真後ろから声をかけられた。

「上を見て歩くのも大変結構なのですが、ここから先は道も細くなりますし足元がますます悪くなります。なにとぞ、ご注意ください」

「わ、わかっているわよ」

 私は顔だけを振り向かせながら、私の影を踏まないように歩いていた後方のリヒトに言った。

 リヒトは従者兼助手として、〈放浪医師〉の仕事を始めた私に同行している。

「私だって子供じゃないんだから、いきなり転ぶなんてありえ――」

 ない、と言葉を続けようとした直後だった。

 足元がズルッと滑り、私の身体の平衡感覚が一気に崩れた。

 あ、マズい!

 そう思ったのも束の間、瞬時に私の肉体は温かくしっかりとした何かに優しく支えられ、狂った平衡感覚が再び戻った。

「大丈夫ですか、お嬢さま」

 リヒトだった。

 小石か何かを踏んでしまって転びそうだった私を、リヒトは真後ろから抱きとめて転倒を防いでくれたのだ。

「あ……ありがとう」

 私は少し顔を赤らめながらリヒトから離れる。

「どういたしまして。それよりも、お怪我はありませんでしたか?」

「う、うん。平気よ。あなたのお陰で怪我をせずにすんだわ」

 本当だった。

 もしも転倒していたら捻挫ぐらいはしていたかもしれないが、間一髪のところを助けられたお陰で私は無事にすんだ。

 かすり傷程度ならいざしらず、このような人気のない山の中で捻挫でもしたら間違いなく命取りである。

 なぜなら王都から離れれば離れるほど、獰猛な野獣や魔物と遭遇する確率が高いからだ。

 まあ、リヒトが傍にいるから野獣や魔物が出てもそんなに怖くないのだけど。

 などと私がリヒトをチラ見したときだ。

 どこからか人間の悲鳴が聞こえた。

 それも何か危険なに遭遇したときの女性の悲鳴だ。

 だが、山間ということもあって声が反響して場所がわからない。

「あっちです、お嬢さま」

 リヒトはある場所に向かって人差し指を突きつける。

 さすがは王宮騎士団の騎士たちから天才と称されていた騎士だ。

 並の人間よりも感覚が凄まじく鋭い。

「どうします? 誰かはわかりませんが、助けに行きますか?」

 リヒトの問いに私は「当たり前よ」と答えた。

 これから医者として生計を立てようとするものが、困っている人間を助けない道理はない。

「承知しました。ですが、それならば急ぎましょう。声の感じからして、すでにもう身の危険が迫っています」

「そうね。一刻も早く向かいましょう」

 そう答えた直後、リヒトは私に「それでは失礼します」と言った。

 私が頭上に疑問符を浮かべると、リヒトは担いでいた荷物を手に持ち替え、私の身体を半ば強引におんぶする。

「失礼ながら、お嬢さまの足では間に合いませんので」

 次の瞬間、リヒトは私をおぶりながら猛然と駆け出した。

 鬱蒼とうっそうした茂みの中へと飛び込み、早馬のような速度で樹木の間を泳ぐように走っていく。

 女とはいえ1人の人間を背負いつつ、一流の狩人のように疾走していたリヒトは、あっという間に目的の場所へと辿り着いた。

 そこは山中でも開けた場所だった。

 私は息を呑んだ。

 その開けた場所の一角――大木の根本には1人の少女が座り込んでいた。

 年齢は13、4歳ぐらいだろうか。

 見た目や服装からして狩人ではない。

 ボサボサの赤髪に、瘦せ細った身体つき。

 あまり上等ではない衣服と近くに転がっているカゴを見ると、山菜か薬草を採りに森の奥へ足を踏み入れた山村の子供だろう。

 そんな少女は苦悶の表情を浮かばせながら、右足首を両手で押さえている。

 足を挫いているのかもしれない。

 などと私が遠目から少女を観察していたとき、少女の前方にあった深い茂みから巨大な茶色い塊が飛び出してきた。

「ギガント・ボア……か」

 リヒトがぼそりとつぶやく。

 ギガント・ボア。

 その名前は私も知っている。

 ワイルド・ボアといういのししの突然変異種で、全長2メートルほどのワイルド・ボアとは違って、ギガント・ボアの全長は5メートルを超えるという。

 事実、そうだった。

 目の前に現れたギガント・ボアは、王都に入る際の正門すら一撃で打ち砕けるような巨躯きょくをしている。

 それだけではない。

 口元には分厚くて先端が刃物のように鋭い2本の牙が生えていた。

 プギイイイイイイイイイイイイイイイイイイ――――ッ!

 大気を震わせるほどの鳴き声が周囲に響き渡った。

 ギガント・ボアは明らかに少女を獲物としている。

「お嬢さま、あの子を頼みます」

 リヒトは私を下ろすと、足元に転がっていた大きめの石を拾い上げた。

 そしてその石をギガント・ボアに向かって勢いよく投げつける。

 かなりの威力があったのだろう。

 顔面に石をぶつけられたギガント・ボアは、少女からリヒトへと顔を向けた。

 両目は怒りと興奮のために血走り、地面を足で何度も引っ掻くような「前掻き」を始める。

 それでもリヒトはまったく怯まずにギガント・ボアと視線を交錯させると、拳の骨を盛大に鳴らしながらギガント・ボアに近づいていく。

 それだけで私は、リヒトの行動の意味を察した。

 自分が囮となっている間に、少女の治療をしてあげてくださいと行動で告げているのだ。

 ええ、わかったわ。

 私は早足で少女の元へ移動した。

「大丈夫?」

 少女の元に到着した私が尋ねると、少女は「あなたは?」と声を震わせながら訊き返してくる。

「私はアメリア。そういうあなたは何てお名前?」

「め、メリダ……です」

「メリダ。いいお名前ね」

 私はメリダの右足首にそっと触れた。

 するとメリダは「い、痛い」と涙目で訴えかけてくる。

 軽く触診しただけですぐにわかった。

 やはりメリダの右足首は捻挫ねんざしていた。

 普通の方法で治療すれば、数週間ほどで完治するだろう。

 ただし、私にかかれば数週間も必要ない。

「ちょっと我慢してね。今すぐ治してあげるから」

「そ、そんなの無理です! 完全に足を挫いてしまったんですよ!」

 それよりも、とメリダは顔を蒼白にさせながら叫ぶ。

「あなたたちは早く逃げてください! あれはこの森のヌシとも呼ぶべきギガント・ボアです! ここにいては殺されてしまいます! あの男の人も1人で闘えば確実に死んでしまう!」

「ああ、それは絶対にないから安心して。とにかく、まずはあなたの怪我を治しちゃいましょう」

 私は言葉を失っていたメリダの患部に再び触れると、両手の掌から魔力を流し込んで「痛いの痛いの飛んでいけ」と唱える。

 直後、メリダは大きく目を見開いた。

 当然だろう。

 全治数週間の捻挫が、見る見るうちに治っていったからだ。

 やがて10秒も経たないうちにメリダの捻挫は完治した。

「もうこれで大丈夫よ」

 私がそう告げたと同時に、後方から「ドゴオオオオンッ!」という凄まじい衝撃音が聞こえた。

「どうやら、あっちのほうも終わったようね」

 振り返ると、地面に横たわるギガント・ボアの姿が確認できた。

 間違いなく絶命しているだろう。

 ギガント・ボアの額は、破城槌はじょうついで殴られたように大きく陥没していたからだ。

 そんなギガント・ボアの近くには、右手の開閉を繰り返している余裕の表情のリヒトがいた。

「あ、あなたたちは一体……」

 小刻みに全身を震わせたメリダに対して、私は微笑みながら答えた。

「ただの〈放浪医師〉とその助手よ」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢、レイラ・フォン・アーデルハイド。 ――しかし彼女は、泣かない。怒らない。復讐もしない。 なぜなら、前世でブラック企業に心身を削られた元OLにとって、 婚約破棄とは「面倒な縁が切れただけ」の出来事だったから。 「復讐? 見返し? そんな暇があったら紅茶を飲みますわ」 貴族の婚姻は家同士の取引。 壊れたなら、それまで。 彼女が選んだのは、何もしない自由だった。 領地運営も、政治も、評価争いも―― 無理に手を出さず、必要なときだけ責任を取る。 働かない。頑張らない。目立たない。 ……はずだったのに。 なぜか領地は安定し、 周囲は勝手に動き、 気づけば「模範的な公爵令嬢」として評価が独り歩きしていく。 後悔する元婚約者、 空回りする王太子、 復讐を期待していた周囲―― けれど当の本人は、今日も優雅にティータイム。 無関心こそ最大のざまぁ。 働かないからこそ、幸せになった。 これは、 「何もしない」を貫いた令嬢が、 気づけばすべてを手に入れていた物語。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、 誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。 「地味で役に立たない」と嘲笑され、 平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。 家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。 しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。 静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、 自らの手で破滅へと導いていく。 復讐の果てに選んだのは、 誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。 自分で選び取る、穏やかな幸せ。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が 王太子を終わらせたあと、 本当の人生を歩き出す物語。 -

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

処理中です...