【完結】宮本武蔵、異世界を斬る! 〜日ノ本の剣聖は異世界に転移しても剣を振るい、女子高生の弟子とともに異世界最強の大剣聖となる~

ともボン

文字の大きさ
4 / 64

第四話     天下無双VS異世界の騎士

しおりを挟む
(あれ? 何で私はこんなところで寝ているんだろう?)

 伊織は左頬に冷たい感触を味わいながら何度もまばたきをする。

 どうやら自分はうつ伏せの状態で寝ているらしい。

 意識を覚醒かくせいさせていくほどに、埃臭ほこりくさい匂いが鼻腔びこうの奥を刺激してくる。

 だからこそ、ますます分からなかった。

 どうして自分が硬い床に寝転がっているのか、いまいち理由が思い出せない。

 それに身体のあちこちが打撲だぼくをしたときのような痛みを感じる。

 十七年の人生の中で一度も遭ったことはないが、交通事故にうとこういう状態になるのかもしれないと伊織は思った。

 そのとき、どこからか凛然りんぜんとした声が聞こえてくる。

 まだ若そうな少女の声だ。

「死体の山? 異世界の〈もの〉は現状も把握はあくできないのですね。あなたを取り囲んでいる衛兵たちの姿が見えないのですか? 魔法も使わず、この状況を抜け出すことが出来るわけないでしょう」

 伊織は半ば意識が朦朧もうろうとしている中、それでも何とか上半身を起こそうとした。

「出来ると言ったら?」

 続いてしんの強そうな男の声が聞こえてくる。

 その男の声で伊織の意識は完全に覚醒かくせいした。

 拡声器かくせいきや気付け薬など比較ひかくにならない、脳内に直接響いてくるほどの〝力〟が込められた声だったからだ。

 伊織は両手を使って上半身を起こした。

 身体中の筋肉が悲鳴ひめいを上げ、両腿りょうももも軽く痙攣けいれんしていた。

 それでも自らを鼓舞こぶして何とか立ち上がる。

 そして身体ごと振り向いたとき、視界の中に二人の人物の姿が飛び込んできた。

 一人は十六か十七歳ぐらいの金髪の少女。

 もう一人は日本の時代劇から抜け出してきたかのような、二十代後半から三十代前半と思しき浪人姿の男であった。

 しかも浪人姿の男は右手に本物と見られる大刀を抜き放っており、全身に金属鎧を着ていた屈強くっきょうな男たちに取り囲まれていたのだ。

「やれるというのならば、見せてもらいましょうか。もしもあなたが魔法も使わずたった一人で衛兵たちを倒せたならば、城の地下ではなくこの国での自由な生活を保障しましょう。異世界の〈もの〉さん」

「分からぬ娘だな。俺は〈もの〉などという名前ではない」

 伊織は状況を理解しようと思考を回転させた。

 一方の浪人姿の男は右手に持っていた大刀を左手に持ち直し、すぐさま空いた右手で小刀を抜き放つ。

 それだけではない。

 浪人姿の男は現代剣道では見られないような、クワガタムシのあごを思い浮かばせる独特な二刀流の構えを取ったのだ。

 これだけでも現代人の伊織からすれば驚愕きょうがくである。

 だが本当に心の底から驚いたのは、浪人姿の男が放った言葉のほうであった。

「俺の名は宮本武蔵――天下無双だ!」

 この瞬間、伊織の全身に雷が落ちたような衝撃が走った。

 身体のいたるところに感じていた痛みが一つ残らず吹き飛び、爪先から頭の天辺てっぺんにまで恐怖から来るものとは別な震えが沸き起こってくる。

(嘘……だって……そんな……宮本……武蔵なわけ……)

 もはや伊織の脳内はパニックになっていた。

 異世界に転移されたと知ったとき以上の衝撃である。

 宮本武蔵。

 正式な名は新免しんめん武蔵守むさしのかみ藤原ノ玄信ふじわらのげんしん

 日本史上において最強無敗の剣士とうたわれ、数々のテレビドラマや映画の主人公として世間に知られている兵法者であった。

 それ以外にも武蔵は、剣術と思想を集大成させた兵法書も執筆している。

 有名な五輪書ごりんのしょだ。

 もちろん、伊織も五輪書ごりんのしょ愛読あいどくしていた。

 そして幼少の頃から好きで始めた剣道や居合道を稽古するかたわら、武蔵が活躍する漫画や小説が好きだった伊織はいつしかこう思うようになった。

 宮本武蔵のような剣士になりたい、と。

 祖父の影響で時代劇が好きだったことも武蔵を好きになる要因の一つだった。

 だが、それ以上に自分の名前が偶然にも宮本武蔵が養子にした〝宮本伊織〟と同姓同名だったことも大きかった。

 もしかすると自分は前世で本物の〝宮本伊織〟だったのではないか。

 などと妄想もうそうするほどに、伊織は人知れず武蔵に運命を感じていたのである。

 けれども、どんなにあこがれを抱こうと宮本武蔵は故人こじん

 四百年以上も前に死んでいる人間に対して、一方的なアプローチなど出来るはずもなかった。

(ほ……本物なの?)

 伊織は二刀流の浪人姿の男を見て、ごくりと生唾なまつばを飲み込んだ。

 180センチはある身長に、余計な贅肉ぜいにくなど欠片もない鍛えられた肉体。

 放浪の旅が長かったことを示している赤銅色しゃくどういろの肌。

 書物の中に存在していた宮本武蔵の外見と同じである。

 もちろん、宮本武蔵の真の代名詞だいめいしは他にあった。

 言わずもがな、大刀と小刀を使った二刀流である。

 伊織は食い入るように浪人姿の男を見つめた。

 確かに浪人姿の男は、伝説の宮本武蔵と同じ二刀流の構えを取っている。

 大刀と小刀の切っ先を胸の前で交差させるような構えは、二刀流における中段の構えに他ならなかった。

 などと伊織が浪人姿の男を本物の宮本武蔵なのかどうか判断に困っていると、空気を震わせるほどの緊張感に包まれていた室内に金髪の少女――アリーゼの高笑いが響いた。

「テンカムソウ? 魔法の詠唱でもない、そんなよく分からない言葉を口にしたところで現状は変わりませんよ……何をしているのです、衛兵たち。剣を抜いたところで相手は一人。さっさと捕まえなさい!」

 アリーゼの激が飛ぶや否や、一人の騎士が浪人姿の男の前に向かっていく。

 騎士と浪人姿の男は、互いに五メートルほど離れた位置で対峙たいじした。

貴公きこうに恨みはないが、姫様の命ならばいたかたなし。命までは取らぬが、余計な抵抗をすれば胴体に風穴が開くのは必至ひっしと知れ」

 伝法でんぽう口調くっちょうの騎士は二メートルはある長槍を中段に構えた。

 浪人姿の男に向けて切っ先を突き付ける。

「我が名はアルビオン王国騎士団団長、アルバート・ロメイロ。上意により、貴公を捕縛する!」

 果し合いの前口上のように名乗ったアルバートに対して、浪人姿の男は両眉りょうまゆを強く寄せて険しい表情を浮かべた。

「一対一の尋常じんじょうな果し合いならばともかく、多勢に取り囲んでいるやからが一いっぱしに名など名乗るな!」

 浪人姿の男の凄まじい怒声を皮切りに、一触即発いっしょくしょくはつの空気が広々とした室内に充満じゅうまんしていく。

 それは山中で猛獣に遭遇そうぐうしてしまったときの緊張感にも似ていた。

 自分の生命をおびやかされるほどの場面に耐性がない常人ならば、あっという間に卒倒そっとうする空気の張りつめ方である。

 このとき、伊織は何とかこの空気感にえられていた。

 剣道においては全国大会など大勢の前での試合経験があった以外にも、居合道の師匠であり猟師でもあった叔父と一緒に狩りをした経験があったからだ。

 けれども伊織と一緒に転移してきたクラスメイトの女子たちは、この猛獣のおりの中に閉じ込められてしまったような絶望感と緊張感に耐えられなかったのだろう。

 何人かの女子たちは白目をいて卒倒そっとうしてしまった。

 無理もない、と伊織は血がにじむほど両手の拳を強く握り締める。

(こんな空気に平然と耐えられるわけないじゃない)

 伊織は額から流れてくる冷たい汗を拭うことも出来ず、意識を失わないように目の前の二人の動向を注視することしか出来なかった。

「安心せい」

 伊織が固唾かたずを呑んでいると、浪人姿の男と対峙たいじしている騎士が抑揚よくようのない声で言った。

「ここにいる部下たちには一切、手は出させぬ。我らも王国の守り手としての自負じふ矜持きょうじがある。たった一人を相手に多勢で襲いかかるような真似などはせん」

 フルフェイスの兜のせいで顔の形までは分からなかったが、漏れ聞こえてくる声の印象から騎士の年齢は五十代か六十代なのかもしれない。

 しかし、二メートル近くの長槍を構えている肉体からは年老いたなどという感じは微塵みじんもなかった。

 おそらく、鎧の下は筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとした鋼の肉体なのだろう。

「俺が大人しく捕まると思うか?」

 浪人姿の男の問いに、アルバートは「無理だろうな」と語気を強めて言い返す。

「一目見て理解した。貴公は魔物よりも厄介な〝剣鬼けんき〟だ。それも誰であろうと、自分の意をつらぬけるだけの剣の技量を持ったな……それゆえに試さずにはおれん」

 そうか、と浪人姿の男は口の端を鋭角に吊り上げた。

「お主は俺との〝死合い〟が望みなのだな……ならば話は別だ。お主が一人の武人として挑むと言うのならば、この武蔵……受けぬ道理はない!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...