【完結】宮本武蔵、異世界を斬る! 〜日ノ本の剣聖は異世界に転移しても剣を振るい、女子高生の弟子とともに異世界最強の大剣聖となる~

ともボン

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第十九話    未熟な賢聖、ルリ・アートマン

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「おい、一体どこへ向かっておるのだ?」

 先頭を歩いている赤猫チーマオに呼びかけたのは武蔵だ。

「……もう、この辺ならいいッすかね」

 独り言のようにつぶやくと、赤猫チーマオはぴたりと立ち止まり振り返った。

 後ろからついて歩いていた武蔵と伊織も歩みを止める。

「二人とも災難だったッすね。まあ、あのリーチにからまれたのは事故とでも割り切って気にしないことッすよ」

 武蔵は伊織の腕をつかんでいた手を離し、様子が一変いっぺんした赤猫チーマオを見つめる。

「別に俺は気にしておらん。あのような程度の低い奴など、今までいくらでも相手にしてきたからな」

 それよりも、と武蔵は自分が歩いてきた方向に顔を向けた。

「これ以上、俺らに関わってはお主の体面に差し支えるのではないか?」

 すでに武蔵たち三人は、冒険者たちが集まっていた外来者専用の宿舎からかなり離れた場所にまで来ていた。

 今では自分たちをあざ笑っていた冒険者たちの姿はまったく見えない。

 それほどキメリエス修道院の敷地の広さには驚かされるばかりであった。

 また途中で何人もの修道女たちとすれ違ったものの、特に嫌がられたり避けられたりしなかったのは、事前に黄姫ホアンチーがここのおさと手紙で話をつけたからだという。

 そんな仕事の出来る黄姫ホアンチーの部下であった赤猫チーマオからしてみれば、自分と伊織のような〝等級なしノークラス〟とかいう身分の低い人間の子守をするなど我慢できなかったに違いない。

 などと思った武蔵に反して、赤猫チーマオはあっけらかんとした態度で首をかしげた。

「私の体面? そんなもん最初っからないッすよ。私は師父シーフー(お師匠)にあんたたち二人を頼むと言われたんッす。さっきは他の冒険者たちの手前、ファングの旦那に乗るようなことを言ったッすが、師父シーフー(お師匠)に頼まれた以上は全力であんたたちに協力するだけッす」

(やはり先ほどの態度は俺たちをかばうためであったか)

 今回の魔物の討伐任務において、冒険者たちが自分と伊織を最初からけ者扱いしていることは十二分に感じられた。

 それは鉄斧牛てっぷぎゅうのリーチというやからが、あからさまにからんできたことが何よりの証である。
 
 そして指揮官であるファングも他の冒険者たちと同様に、自分と伊織に対してこころよく思っていないことは手に取るように分かった。

 なぜならファングは騒ぎの発端ほったんであったリーチではなく、リーチという火の粉を払い除けた自分だけをとがめるような言動を取ったからだ。

 ならば、あのまま口論をしたとしてもやはり時の無駄だっただろう。

 そう武蔵は思ったからこそ、赤猫チーマオのわざとらしい誘いに乗って場を離れたのだ。

 むろん、理由はそれだけではない。

 あのまま居座り続けていたら、さすがの自分もいつ堪忍袋かんにんぶくろを切ってしまうか分からなかった。

 さすがに感情に任せてあの場にいた冒険者たちを全員〝斬って〟しまえば、黄姫ホアンチーに何かと迷惑が掛かるのは必至ひっしである。

「……して赤猫チーマオ殿、俺たちはこれからどうすればいい? まさか、本当に俺たちを倉庫か馬小屋に置いておくつもりではなかろうな?」

「そうッす……って言ったところで、あんたが素直に従わないのは分かっているッすよ。ただ、勝手なこともされたら本気で困るッす。あんたたちが馬鹿なことをすれば、最終的な責任はあんたたちを討伐任務に参加させた師父シーフー(お師匠)が取るんッすからね」

「うむ、それは俺もきもめいじておる。むろん、俺たちの目付け役がお主だということもだ。ゆえに俺は指示をあおいでいるのだ。どうすれば俺たちは今回のいくさに堂々と参加できる?」

 赤猫チーマオは「それはおいおい話し合うとしてッす……」と言いながら顔をある方へと向けた。
 
 武蔵と伊織もつられて赤猫チーマオの視線の先を見た。

「とりあえず、ここで二人を泊めてくれるか聞くのが先ッすかね」

 赤猫チーマオの視線の先には、二階建ての石造式の建物があった。

「ここは何ですか? さっきの建物よりも頑丈そうなイメージがありますね」

 声に出したのは伊織である。

「ここは菜園場で採れた薬草なんかを調合したりする薬工房ッす。そんで最初に私らが集まっていたのは、一般の外来者用の宿舎ッすね。もっと奥には修道院に高い寄付をした貴族なんかが泊まる貴賓きひん用の宿舎もあるッすけど、私ら冒険者なんかには縁がない場所ッすよ」

「修道院に貴族が泊まったりするんですか?」

 さらに質問した伊織に、赤猫チーマオは大きくうなずいて見せる。

「片田舎にある修道院はどうか知らないッすが、アルビオンぐらい大きな街の修道院には貴族や領主が泊まれる宿舎があるのは当たり前ッす。金持ちほど信仰にはうるさいッすからね。ただ、日頃から修道院の宿舎を使うのは巡礼者と商人ッすよ」

 特に宿泊するのは遠えんぽうからの巡礼者ッすね、と赤猫チーマオは言葉を続ける。

「中でも帆立ほたての貝なんかで作ったお参りの印を持っていれば、ここだけじゃなくて他の修道院にも泊まれるッすからね。年中通して巡礼者が来るッすよ」

「待て、男の坊主でも尼寺に泊まれるのか?」

「男の場合はさすがに修道長の許可がいるッすね。まあ、クレスト教の巡礼者は他の宗派よりも品位が高いッすから、そう滅多なことは起きないッす。どちらかと言えば、商人を泊める場合のほうが厄介だったりすることが――」

 多いっすかね、と赤猫チーマオが言おうとしたときである。

「ちょい待てや! 何で一月前ひとつきまえよりも買い取り値が下がってんねん!」

 武蔵の耳に懐かしい〝上方言葉かみがたことば〟が聞こえてきた。

 どうやら眼前の建物の中にいる人物が発しているようだ。

「もう、ええわ! うちが直接、上の人間と話をつけたる!」

 突如、建物の扉が勢いよく開かれて一人の少女が現れた。

 年の頃は十四、五歳ぐらいだろうか。

 雪のように白い髪をうなじの辺りで一つにまとめ、小さな顔の中には切れ長の目眉めまゆと、ほどよく伸びた鼻梁びりょうが収まっている。

 きめ細やかな肌の色は、健康そうな桃色だ。

 そして強気そうな大きくて深緑色の瞳は、自分でもえさを確保できる強い子猫を思わせるほどであり、アリーゼとはまた別の種類の美貌びぼうの持ち主であった。

 着ている服も変わっており、どちらかと言えば武蔵が着ている着物に近い。

 しかし、その着物の上から南蛮国の外套がいとう羽織はおっていたのが印象的である。

 また小柄な少女は目が悪いわけでも足が悪そうなわけでもないのに、刀を収めるさやに似た金属製とおぼしき一本の杖を持っていた。

「うわ……ロリだ。お師匠様、ロリですよ」

 驚きと喜びが混じった表情を浮かべ、謎の言葉を口に出したのは伊織である。

、とは何だ?」

 武蔵が伊織にいたのと、小柄な少女が「誰がロリやねん!」と叫んだのはほぼ同時だった。

「微妙に人の名前を間違えんなや。うちはやない、や。ルリ・アートマンっちゅう立派な名前がある……って、誰やお前ら?」

 眉根を寄せながら尋ねてきたルリに、赤猫チーマオは「また、あんたッすか」と両肩を落としながらため息をつく。

「お? 誰かと思ったら冒険者ギルドの〝クソでか拳法女〟やないか? 何や、ついに冒険者ギルドの受付係をクビになって修道女に転職か? やめとけやめとけ、おどれみたいな大食漢たいしょっかんにここの食事なんて全然足らへんで。腹すかした挙句あげくに倉庫の食い物を盗み食いして追い出されるのがオチや」

 一息で言い切ったルリの口上に武蔵が関心したとき、一方の馬鹿にされた赤猫チーマオ威嚇いかくのつもりだったのか指の骨を大きく鳴らす。

「相変わらず口だけは達者な〝チビかす魔法使い〟ッすね。そっちのほうこそ冒険者から商人に転職ッスすか? まあ、それもアリッすよね。口は悪い、態度はでかい、金にも汚いと三拍子揃った冒険者なんて誰もパーティーに誘わないッすから……ああ、もう一つ〝魔法学院を退学になった〟が抜けてたッすわ。これは失礼したッす」

「……ぶち殺すぞ、このアマ
 
「その台詞せりふ、そっくりそのまま返すッすよ」

 ルリと赤猫チーマオが火花を散らすほど互いににらみ合っている中、自然な動きで二人の間に割って入ったのは武蔵であった。

赤猫チーマオ殿、この童女どうじょ(幼い女の子供)はお主の知り合いか?」

 まったく持って不愉快ふゆかいッすが、と赤猫チーマオは鼻を鳴らした。

「おい、そこの二本差しのオッサン。その童女どうじょってどういう意味や? まさか、うちのことを可愛くてはかなげげで純真そうで見目麗みめうるわしくて守ってやりたくなるほどの子供……って言ったんやないやろうな?」

「いや、そこまでは言うてはおらん」

「おいおい、ノリの悪いオッサンやな。そこは〝誰もそんなことは言うてへんわ〟って盛大にツッコむところやろがい。もう少し勉強せえよ」

 何のだ、と武蔵が首をかしげたとき、ルリは唐突とうとつに「何ぞ、におうな」と鼻をひくひくさせ始めた。

「匂う、匂うで。うちの好きな匂いがするわ」

 武蔵はという言葉に反応し、着物の胸の部分を引っ張って匂いをいだ。

「確かに宿場町で湯浴みをしたのは数日前だったからにおうな。しかし、物好きな奴もいるものよ。お主はこういう汗臭い匂いが好きな者なのか?」

「ちゃうわ、ボケ! いくらうちでもオッサンの汗の匂いに興奮なんぞするかい! うちが好きな匂い言うんわな――」

 ルリは右手を武蔵に突きつけると、人差し指と親指の先端をつけて「〇」の形を作った。

「金や。あんたらからは、うちの好きながぷんぷんするで」

 そう言うとルリは、嬉しそうに口のはしを吊り上げて笑った。

「変わった奴だ。だかだか知らんが、ここは間もなく戦場いくさばとなるかもしれん。さっさと家に帰ったほうがよい」

「ほう、この修道院が魔物にでも襲われるっちゅうんか? だったら、このまま大人しく帰るわけにはいかんな」

 その妙な自信を持っているルリに、武蔵は強い興味を抱いた。

「お主は一体、何者なのだ?」

「はあ? 記憶力の悪いオッサンやな。さっきうちが名乗ったことをもう忘れたんか……まあ、ええわ。それなら改めて名乗ったろ。うちは冒険者Bクラスにして、泣く子も黙る将来の大魔法使い――」

 ルリは自信満々に、一本だけ突き立てた親指を自分に向ける。

未熟みじゅく賢聖けんせい、ルリ・アートマンとはうちのことや!」
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