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第二十話 襲い来る、魔物たちの予兆
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「未熟な賢聖、ルリ・アートマンとはうちのことや!」
そのルリの自信満々な態度を見ても、伊織はまったく気圧されなかった。
むしろ伊織の心は和んだほどである。
無理もない。
ルリは百五十センチほどの身長しかないのだ。
それに奇抜な服装はともかく、見た目や声のトーンは完全に中学生である。
運動系の部活を経験してきた伊織にとって、目の前のルリは〝少し生意気な口を利く後輩〟という軽めの印象しかなかった。
しかし、伊織がもっとも気になったことはルリの容姿ではない。
みじゅくなけんせい、とルリは口にした。
魔法使いと名乗ったのだから、剣士のほうの〝剣聖〟ではないだろう。
だとすると、賢者の賢と書いて〝賢聖〟なのだろうか。
語感からすると賢者よりさらに上の存在のように聞こえる。
「さて自己紹介も済んだことやし、詳しい話を聞かせてもらおうか? まあ、皆まで言わんくても大体分かるわ。そこの拳法女がわざわざ武装して出張ってるんや。相当な訳ありな依頼なんやろ?」
つまりはこれも高いんやろな、とルリは人差し指と親指だけで「〇」の形にした右手を、今度は武蔵ではなく赤猫に向けた。
「言っておくッすが、あんたの入る余地なんてこれっぽっちもないッすよ。もう討伐任務を果たした際の報酬の取り分は決まってるッすからね」
「討伐……っちゅうことは少なくともゴブリンやオーク級の魔物が、五匹もしくはそれ以上の数でこの修道院を襲ってくるんやな。 一体、ここの連中は魔物共に何をしたんや? まさか、魔物相手にあくどい商売をしたわけやないやろうに」
「どちらかと言えば、あんたの古巣の連中が原因ッすよ」
チッ、とルリは表情を歪めて舌打ちする。
「ああ、そうかい。例の恒例行事が原因なんか……まったく、とち狂ったクソボケどもやわ、ホンマに。だから陰で〝魔抜け学院〟なんて馬鹿にされんねん。いい加減に上の奴らも気づけや」
「その魔抜け学院で天才と呼ばれた魔法使いは誰だったッすかね?」
「とげのある言い方すんな。言っとくけど、あんな魔法学院なんぞこっちから見限ったんや。それに、あのまま居っても潰されるのは目に見えてたからな」
今にも地面に唾を吐きそうなほど嫌悪感を出したルリに、魔法学院という自分とは無関係ではないワードを聞いた伊織も聞き流すことはできなかった。
魔法学院とは、間違いなくアルビオン魔法学院のことだろう。
「そんなにアルビオン魔法学院って駄目なところなの? だってこの国で一番大きな魔法学校なんでしょう。確かに一部には落ちこぼれみたいな生徒たちもいるだろうけど、卒業後しても色々な場所で活躍できる優秀な教育方法があってもおかしくないんじゃあ……」
「もちろん、あるで。他の国とは比較にならんほど、一定の実力しかない魔法使いを輩出させる教育体系がちゃんとな」
だからうちは自分から辞めたんや、とルリは本当に地面に唾を吐いた。
「あそこは普通の魔法使いを量産させる場所やからな。だから卒業する生徒は攻守ともに全員が綺麗に平均レベルやさかい、あそこの生徒たちを使いたい者にとっては都合がいいんや。その反面、周囲から抜き出た才能を持った奴らは卒業できないよう潰されるけどな」
「つ、潰される?」
恐ろしい表現を聞いた伊織は、離ればなれになったクラスメイトたちの顔を思い出した。
「比喩やないで。文字通り、ホンマに潰されんねん。無視や暴力なんかのイジメは序の口で、授業中に事故に見せかけて殺されそうになるんも普通や。まあ大抵の勉強しかできひん天才は、無視や暴力を受けた最初の段階に心を病んで自殺するんが大半やけどな……あ~、久々に思い出してムカムカしてきたわ」
するとルリは小さい身体を動かして伊織の前へと来た。
それだけではない。
ルリは含みのありそうな満面の笑顔を浮かべ、掌を上にした右手を力強く突き出してきたのである。
「な、何?」
伊織は思わず身構えてしまった。
自分の胸の高さほどの身長であった目の前のルリからは、まるで二メートルの巨人を思い浮かべるほどの迫力が感じられたからだ。
「何やないわ。こっちはワレのせいで嫌な気分にさせられたんや。ホンマやったら金貨五枚ぐらい要求するんやが、見たところ貧乏そうな顔をしとるし今日のところは銀貨一枚で勘弁したる」
「ふ、ふざけないで。私が何を言ったって言うのよ」
「はっきりと〝アルビオン魔法学院〟の名前を出したやないか。その名前を聞いてうちは不快になったんやで……ほれ、分かったらさっさと出すもん出せや」
それとも、とルリは持っていた杖の先端で伊織の右胸を突き始める。
「持ち合わせがないっちゅうなら、その無駄な脂肪の塊を使って稼いで来いや。討伐任務ならここに男の冒険者共もおるんやろ? その冒険者相手に稼いできてもええし、何やったら色街の店を何件か紹介したるか?」
さすがの温厚な伊織も我慢の限界だった。
「あのね、いい加減にしないと私も本気で――」
怒るわよ、と伊織がおもむろに杖を掴もうとしたときだ。
「伊織、その鞘に触れるな!」
と、武蔵が警告したときにはすでに遅かった。
「え?」
伊織が調子はずれな声を上げたときには、すでに杖を掴んでしまったあとだったのである。
直後、伊織の視界に映っていた天と地があっという間に反転した。
続いて息が詰まるほどの凄まじい衝撃が背中に走る。
(な、何が起こったの?)
時間にして数秒後。
ようやく伊織は今の自分の身に起こっていることを理解できた。
なぜか自分は仰向けになって地面に倒れていたのだ。
そして伊織は下からルリの顔を見上げる形になっていたのだが、伊織はルリの顔ではなく自分の喉元に突きつけられていた刃物に目が釘付けになった。
「おいおい、あんなあからさまな挑発に乗るなや。ど素人にも程があるで」
などと言ったルリの手には、一本の剣が握られていたのである。
伊織の脳裏に盲目の侠客――座頭市の姿が鮮明に浮かんだ。
ルリが持っていた杖は本当の杖ではなかった。
それは仕込み刀や仕込み杖とも呼ばれる、隠し武器の一つだったのである。
「武装どころか素手やったさかい、てっきりそこのデカ女と同じ拳法使いかとも思ったけど……闘いのたの字も知らん素人とはな。ホンマに何やねん、ワレらは」
ルリは落胆したように息を吐くと、慣れた手つきで剣を杖ならぬ鞘に納めた。
その動きは護身用に仕込み杖を持っている、というようなものではない。
完全に〝実戦で使い慣れ〟していた動きである。
「おい、デカ女。まさか、こんな奴が魔物の討伐に参加せえへんよな? はっきり言って、しょぼいを通り越して呆れるで」
「……本人らは参加するつもりッす」
赤猫の言い淀んだ返答に、ルリはのど仏が見えるほど豪快に笑った。
「冗談きついで。この地面に寝転がっている小娘の姿を見てみい。多少は鍛えとるみたいやけど、絶対的に実戦の経験が足りてへんねん。だから、こんな手遊びレベルの投げも防げへんのや」
それに比べて、とルリは顔だけを武蔵に向けた。
「オッサンはまるでちゃうな。うちの仕込みも投げも見抜いとったみたいやし……ホンマに何者や?」
「俺は――」
「待て待て。言わんでも分かる」
ルリは武蔵の名乗りを中断させると、武蔵の全身を舐め回すように目を配った。
「あれやろ。オッサンはうちと同じ冒険者やな。しかも身体つきや雰囲気からして等級はBクラス……いいや、Aクラスの剣士とみた。どうや、当たりやろ?」
自信ありげに指摘したルリは、腰に携帯していた革製の水筒を手に取っておもむろに蓋を開けた。
その様子を伊織は倒れている状態で見つめている。
おそらく水筒の中身は水に違いない。
「まったく、いつものことながらうちの目利きは大したもんやで」
そう言うとルリは、水筒の口を自分の口につけて中身をぐいっと飲む。
「的外れだな。俺は冒険者ではない。単なる〝のおくらす〟という荷物持ちだ」
「ぶううううううううう――――ッ!」
ルリは盛大に水を噴き出すと、何度も咳き込んだ末に武蔵を睨みつけた。
「冗談抜かすのも大概にせえや、オッサン。どこからどう見てもワレは素人ちゃうやろうが。それに荷物持ち言うんなら、何でご大層に二本差ししとんねん」
「二本差しは武士ならば当たり前だ」
「ぶ、ぶし? ぶしって何や?」
「武士は武士だ。それ以上でもそれ以下でもないが……しいて言うなら、俺は天下無双だ」
「あかん……オッサンと話してると頭が痛くなってくるわ」
ルリは武蔵からそっぽを向くと、地面に倒れている伊織に顔を向けた。
「ワレも早く立って荷物をまとめろや。ここの修道院が魔物共に襲われるっちゅうんなら、さっさと逃げ出さんとえらい目に遭うで。お嬢ちゃん」
はっと我に返った伊織は、飛び上がるような勢いで立ち上がった。
地面に倒されてからある程度の時間が経っていたので、先ほどまで感じていた背中の痛みも少しは和らいでいる。
「さっきから黙って聞いていれば、人のことを年下みたいに〝小娘〟や〝お嬢ちゃん〟って……それが年上に向かって言う言葉なの。あなたはせいぜい十五歳ぐらいでしょう?」
このとき、ルリの片方の眉がぴくりと動いた。
「……ちなみにワレの年はナンボや?」
ナンボ? 年齢が何歳なのか訊いているのだろうか。
「じゅ、十七だけど」
「うちはこれでも十八や」
「え?」
あまりの驚きに目を丸くさせた伊織に対して、ルリは「この見た目で十八やと悪いんか!」と今にも食って掛かってきそうなほどの迫力で地団駄を踏んだ。
異変が訪れたのはその直後である。
「きゃあああああ」
と、悲鳴を上げながら数人の修道女がこちらに走ってきたのだ。
その修道女たちの慌てふためきようは尋常ではなかった。
まるで何かから必死で逃げてきたような感じである。
「落ち着くッす。一体、何があったんッすか?」
なだめるように尋ねた赤猫に、修道女たちは口を揃えて叫ぶように言った。
「魔物の大群がこの修道院に向かっています!」
そのルリの自信満々な態度を見ても、伊織はまったく気圧されなかった。
むしろ伊織の心は和んだほどである。
無理もない。
ルリは百五十センチほどの身長しかないのだ。
それに奇抜な服装はともかく、見た目や声のトーンは完全に中学生である。
運動系の部活を経験してきた伊織にとって、目の前のルリは〝少し生意気な口を利く後輩〟という軽めの印象しかなかった。
しかし、伊織がもっとも気になったことはルリの容姿ではない。
みじゅくなけんせい、とルリは口にした。
魔法使いと名乗ったのだから、剣士のほうの〝剣聖〟ではないだろう。
だとすると、賢者の賢と書いて〝賢聖〟なのだろうか。
語感からすると賢者よりさらに上の存在のように聞こえる。
「さて自己紹介も済んだことやし、詳しい話を聞かせてもらおうか? まあ、皆まで言わんくても大体分かるわ。そこの拳法女がわざわざ武装して出張ってるんや。相当な訳ありな依頼なんやろ?」
つまりはこれも高いんやろな、とルリは人差し指と親指だけで「〇」の形にした右手を、今度は武蔵ではなく赤猫に向けた。
「言っておくッすが、あんたの入る余地なんてこれっぽっちもないッすよ。もう討伐任務を果たした際の報酬の取り分は決まってるッすからね」
「討伐……っちゅうことは少なくともゴブリンやオーク級の魔物が、五匹もしくはそれ以上の数でこの修道院を襲ってくるんやな。 一体、ここの連中は魔物共に何をしたんや? まさか、魔物相手にあくどい商売をしたわけやないやろうに」
「どちらかと言えば、あんたの古巣の連中が原因ッすよ」
チッ、とルリは表情を歪めて舌打ちする。
「ああ、そうかい。例の恒例行事が原因なんか……まったく、とち狂ったクソボケどもやわ、ホンマに。だから陰で〝魔抜け学院〟なんて馬鹿にされんねん。いい加減に上の奴らも気づけや」
「その魔抜け学院で天才と呼ばれた魔法使いは誰だったッすかね?」
「とげのある言い方すんな。言っとくけど、あんな魔法学院なんぞこっちから見限ったんや。それに、あのまま居っても潰されるのは目に見えてたからな」
今にも地面に唾を吐きそうなほど嫌悪感を出したルリに、魔法学院という自分とは無関係ではないワードを聞いた伊織も聞き流すことはできなかった。
魔法学院とは、間違いなくアルビオン魔法学院のことだろう。
「そんなにアルビオン魔法学院って駄目なところなの? だってこの国で一番大きな魔法学校なんでしょう。確かに一部には落ちこぼれみたいな生徒たちもいるだろうけど、卒業後しても色々な場所で活躍できる優秀な教育方法があってもおかしくないんじゃあ……」
「もちろん、あるで。他の国とは比較にならんほど、一定の実力しかない魔法使いを輩出させる教育体系がちゃんとな」
だからうちは自分から辞めたんや、とルリは本当に地面に唾を吐いた。
「あそこは普通の魔法使いを量産させる場所やからな。だから卒業する生徒は攻守ともに全員が綺麗に平均レベルやさかい、あそこの生徒たちを使いたい者にとっては都合がいいんや。その反面、周囲から抜き出た才能を持った奴らは卒業できないよう潰されるけどな」
「つ、潰される?」
恐ろしい表現を聞いた伊織は、離ればなれになったクラスメイトたちの顔を思い出した。
「比喩やないで。文字通り、ホンマに潰されんねん。無視や暴力なんかのイジメは序の口で、授業中に事故に見せかけて殺されそうになるんも普通や。まあ大抵の勉強しかできひん天才は、無視や暴力を受けた最初の段階に心を病んで自殺するんが大半やけどな……あ~、久々に思い出してムカムカしてきたわ」
するとルリは小さい身体を動かして伊織の前へと来た。
それだけではない。
ルリは含みのありそうな満面の笑顔を浮かべ、掌を上にした右手を力強く突き出してきたのである。
「な、何?」
伊織は思わず身構えてしまった。
自分の胸の高さほどの身長であった目の前のルリからは、まるで二メートルの巨人を思い浮かべるほどの迫力が感じられたからだ。
「何やないわ。こっちはワレのせいで嫌な気分にさせられたんや。ホンマやったら金貨五枚ぐらい要求するんやが、見たところ貧乏そうな顔をしとるし今日のところは銀貨一枚で勘弁したる」
「ふ、ふざけないで。私が何を言ったって言うのよ」
「はっきりと〝アルビオン魔法学院〟の名前を出したやないか。その名前を聞いてうちは不快になったんやで……ほれ、分かったらさっさと出すもん出せや」
それとも、とルリは持っていた杖の先端で伊織の右胸を突き始める。
「持ち合わせがないっちゅうなら、その無駄な脂肪の塊を使って稼いで来いや。討伐任務ならここに男の冒険者共もおるんやろ? その冒険者相手に稼いできてもええし、何やったら色街の店を何件か紹介したるか?」
さすがの温厚な伊織も我慢の限界だった。
「あのね、いい加減にしないと私も本気で――」
怒るわよ、と伊織がおもむろに杖を掴もうとしたときだ。
「伊織、その鞘に触れるな!」
と、武蔵が警告したときにはすでに遅かった。
「え?」
伊織が調子はずれな声を上げたときには、すでに杖を掴んでしまったあとだったのである。
直後、伊織の視界に映っていた天と地があっという間に反転した。
続いて息が詰まるほどの凄まじい衝撃が背中に走る。
(な、何が起こったの?)
時間にして数秒後。
ようやく伊織は今の自分の身に起こっていることを理解できた。
なぜか自分は仰向けになって地面に倒れていたのだ。
そして伊織は下からルリの顔を見上げる形になっていたのだが、伊織はルリの顔ではなく自分の喉元に突きつけられていた刃物に目が釘付けになった。
「おいおい、あんなあからさまな挑発に乗るなや。ど素人にも程があるで」
などと言ったルリの手には、一本の剣が握られていたのである。
伊織の脳裏に盲目の侠客――座頭市の姿が鮮明に浮かんだ。
ルリが持っていた杖は本当の杖ではなかった。
それは仕込み刀や仕込み杖とも呼ばれる、隠し武器の一つだったのである。
「武装どころか素手やったさかい、てっきりそこのデカ女と同じ拳法使いかとも思ったけど……闘いのたの字も知らん素人とはな。ホンマに何やねん、ワレらは」
ルリは落胆したように息を吐くと、慣れた手つきで剣を杖ならぬ鞘に納めた。
その動きは護身用に仕込み杖を持っている、というようなものではない。
完全に〝実戦で使い慣れ〟していた動きである。
「おい、デカ女。まさか、こんな奴が魔物の討伐に参加せえへんよな? はっきり言って、しょぼいを通り越して呆れるで」
「……本人らは参加するつもりッす」
赤猫の言い淀んだ返答に、ルリはのど仏が見えるほど豪快に笑った。
「冗談きついで。この地面に寝転がっている小娘の姿を見てみい。多少は鍛えとるみたいやけど、絶対的に実戦の経験が足りてへんねん。だから、こんな手遊びレベルの投げも防げへんのや」
それに比べて、とルリは顔だけを武蔵に向けた。
「オッサンはまるでちゃうな。うちの仕込みも投げも見抜いとったみたいやし……ホンマに何者や?」
「俺は――」
「待て待て。言わんでも分かる」
ルリは武蔵の名乗りを中断させると、武蔵の全身を舐め回すように目を配った。
「あれやろ。オッサンはうちと同じ冒険者やな。しかも身体つきや雰囲気からして等級はBクラス……いいや、Aクラスの剣士とみた。どうや、当たりやろ?」
自信ありげに指摘したルリは、腰に携帯していた革製の水筒を手に取っておもむろに蓋を開けた。
その様子を伊織は倒れている状態で見つめている。
おそらく水筒の中身は水に違いない。
「まったく、いつものことながらうちの目利きは大したもんやで」
そう言うとルリは、水筒の口を自分の口につけて中身をぐいっと飲む。
「的外れだな。俺は冒険者ではない。単なる〝のおくらす〟という荷物持ちだ」
「ぶううううううううう――――ッ!」
ルリは盛大に水を噴き出すと、何度も咳き込んだ末に武蔵を睨みつけた。
「冗談抜かすのも大概にせえや、オッサン。どこからどう見てもワレは素人ちゃうやろうが。それに荷物持ち言うんなら、何でご大層に二本差ししとんねん」
「二本差しは武士ならば当たり前だ」
「ぶ、ぶし? ぶしって何や?」
「武士は武士だ。それ以上でもそれ以下でもないが……しいて言うなら、俺は天下無双だ」
「あかん……オッサンと話してると頭が痛くなってくるわ」
ルリは武蔵からそっぽを向くと、地面に倒れている伊織に顔を向けた。
「ワレも早く立って荷物をまとめろや。ここの修道院が魔物共に襲われるっちゅうんなら、さっさと逃げ出さんとえらい目に遭うで。お嬢ちゃん」
はっと我に返った伊織は、飛び上がるような勢いで立ち上がった。
地面に倒されてからある程度の時間が経っていたので、先ほどまで感じていた背中の痛みも少しは和らいでいる。
「さっきから黙って聞いていれば、人のことを年下みたいに〝小娘〟や〝お嬢ちゃん〟って……それが年上に向かって言う言葉なの。あなたはせいぜい十五歳ぐらいでしょう?」
このとき、ルリの片方の眉がぴくりと動いた。
「……ちなみにワレの年はナンボや?」
ナンボ? 年齢が何歳なのか訊いているのだろうか。
「じゅ、十七だけど」
「うちはこれでも十八や」
「え?」
あまりの驚きに目を丸くさせた伊織に対して、ルリは「この見た目で十八やと悪いんか!」と今にも食って掛かってきそうなほどの迫力で地団駄を踏んだ。
異変が訪れたのはその直後である。
「きゃあああああ」
と、悲鳴を上げながら数人の修道女がこちらに走ってきたのだ。
その修道女たちの慌てふためきようは尋常ではなかった。
まるで何かから必死で逃げてきたような感じである。
「落ち着くッす。一体、何があったんッすか?」
なだめるように尋ねた赤猫に、修道女たちは口を揃えて叫ぶように言った。
「魔物の大群がこの修道院に向かっています!」
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