【完結】宮本武蔵、異世界を斬る! 〜日ノ本の剣聖は異世界に転移しても剣を振るい、女子高生の弟子とともに異世界最強の大剣聖となる~

ともボン

文字の大きさ
58 / 64

第五十八話   異世界の剣聖と日ノ本の剣聖

しおりを挟む
「お主がトーガ・カムイ・ブラフマン?」

 武蔵は怪訝けげんな表情でつぶやいた。

 同時に心の中で「そんな馬鹿な」と高らかに叫ぶ。

 トーガ・カムイ・ブラフマンはこの異世界において、1500年もの大昔にのみ実在していた男なはずだ。

 つまり、当たり前だが今の世まで生きているはずがない。

 だとすると、六間ろっけん(約10メートル)ほど先にいる着流しの男はトーガ・カムイ・ブラフマンを名乗る偽物にせものなのだろうか。

「俺は偽物にせものではない。自分で言うのもなんだが、俺は正真正銘しょうしんしょうめいのトーガ・カムイ・ブラフマンだ」

 ただし、とトーガは抑揚よくよういた口調で二の句をつむぐ。

「今の俺は生きているとも死んでいるとも呼べない不確定な存在だ……もちろん、俺だけではなく今のお前もだがな」

(生きているとも死んでいるとも呼べない存在?)

 武蔵はトーガの言葉を胸中きょうちゅう反芻はんすうする。

「そうだ。今の俺たちは肉体の呪縛じゅばくから解き放たれた、言わば魂体こんたいと呼ばれる思念しねんのみでかたどられた状態だ。しかし、その状態でなければこの蓬莱山ほうらいざんには来ることが出来ないのでな」

 トーガは無表情で空になったさかずきに酒を注いでいく。

 武蔵は改めて周囲を見回した。

 嵐のあとのような静寂せいじゃくの中、肌に心地よい微風そよかぜが桜の花片はなひらと枝木をさわさわと揺らしている。

蓬莱山ほうらいざん? それがこの場所の名前か?」

 こくり、とトーガは首を縦に振る。

「ちなみにこの蓬莱山ほうらいざん現世うつしよ幽世かくりよ(あの世)の狭間はざまにある、三次元空間さんじげんくうかんとは隔絶かくぜつされた虚数空間きょすうくうかんにある世界だ」

 武蔵は眉間みけんに谷のような深いしわを寄せた。

 こやつは何を言っているんだ、と言わんばかりの表情である。

 一方のトーガはそんな武蔵の表情など気にならない様子だった。

「要するにこの場所は、実際に存在しているとも存在していないとも呼べる不干渉ふかんしょう領域りょういきの一つ……まあ、それでも分からなければ単純に亜空間あくうかんとだけ認識すればいい」

 などと説明してトーガは一気に酒を飲み干していく。

 この瞬間、武蔵は深く考えることを止めた。

 おそらく、トーガに対して様々な疑問をぶつけても徒労とろうに終わるだろう。

 トーガは〝起こっている事実〟を口にしているだけなのだ。

 どれだけ頭に浮かんだ疑問を矢継やつばやに投げかけたとしても、トーガはありのままのことを淡々と正確に答えてくれるに違いない。

 けれども、その答えをよく吟味《ぎんみ》して咀嚼そしゃくし、飲み込めるほどの知識と理解が自分にはないことを武蔵は短い会話の中で痛感つうかんした。

 この不可思議な場所にしてもそうだ。

 小難しい異世界の言葉を並べられても何一つ理解できない。

 しかし、その中で武蔵にも分かることがあった。

(この男も黄姫ホアンチー殿と同じく〈聴剄ちょうけい〉とやらを使うのか)

 武蔵とトーガは先ほどから会話が成立していないのに、なぜか破綻はたんせずに意志の疎通そつうが出来ていたのだ。

聴剄ちょうけい〉。

 黄姫ホアンチーの説明によると練り上げた自分の〝気〟を大きく広げ、その広げた〝気〟の範囲内にいる生き物の行動や心情を読み取れるという。

 そしてトーガが本物の〈聴剄ちょうけい〉を使っているのならば、すなわちトーガは天理もしくは魔法のどちらかを使えることを意味していた。

「少し違うな。俺は天理か魔法のどちらかを使えるのではない」

 トーガは酒でれていた口元を左手の甲でぬぐった。

「俺は天理と魔法のどちらも使える二天一流にてんいちりゅうだ。それはあの上位耳長族ハイ・エルフの女からも聞いているはずだが」

 上位耳長族ハイ・エルフの女とは黄姫ホアンチーのことに違いない。

 武蔵は改めて思う。

 元を辿たどればこの異世界の詳しい事情を聞いたのは黄姫ホアンチーからである。

 そして、そのときに武蔵は知ったのだ。

 この異世界には魔法以外にも天理という別の異能の力が存在していることを。

 それだけではない。

 かつて凶悪な魔物たちによって滅ぼされかけたこの異世界を、天理と魔法の二つの力で救った一人の英傑えいけつがいたこともこのときに知ったのである。

 トーガ・カムイ・ブラフマン。

 天理と魔法を後世に広め、人々から〈大剣聖〉と呼ばれたという最強者。

 その男がどういうわけか目の前に生きて存在している。

厳密げんみつには生きてはいないのだが……」

 まあいい、とトーガは徳利とっくりさかずきを足元に置いた。

「俺としてはこうしての剣聖である宮本武蔵と会えただけで目的の一部は果たせたのだからな」

 そう言うとトーガは落ち着いた足取りでこちらに向かってくる。

 武蔵の全身に緊張が走った。

 いつでも抜刀ばっとうできるように下丹田げたんでんに意識と力を集中させる。

 やがてトーガは武蔵から二間にけん(約6.6メートル)の位置で止まった。

「だが、俺は情報としての宮本武蔵しか知らん。それゆえ本当にお前がを救うことの出来る〈勇者の卵〉なのかどうか見極めさせてもらう」

 不意にトーガから大気を震わせるほどの闘気がき上がった。

 その闘気の凄まじさによって、トーガの周囲の桜の花片はなひらだけが不自然なほどに舞い上がっていく。

「よく分からんが問答無用もんどうむようということか」

 武蔵も負けじと下丹田げたんでんを中心に強く〝気〟を練り上げる。

 魂体こんたいだろうと何だろうと関係なかった。

 肉体の隅々までに〝気〟を行き渡らせる感覚はいつもと同じだ。

「一つ聞きたい」

 すっと身体が脱力していく実感を味わいながら、武蔵はトーガに対してたずねた。

「お主を倒せばこの異様な場所から抜け出せるのか?」

 こればかりはどうしても聞いておかねばならないことだった。

 今の自分には余計な時を浪費ろうひするひまなどない。

 一刻も早く迷宮ダンジョンに行って〈ソーマ〉を見つけ、生死の境を彷徨さまよっている伊織を助けなくてはならないのだ。

「時間の浪費ろうひについてだけは安心しろ。この場所で経過する年月と、現実世界で流れている時間はつながってはいない。つまりここで何十年と過ごしてから帰ったとしても、お前が元の世界から飛ばされてきた天魔法てんまほうや魔物が存在する世界――アルガイアでは時間が経過していないということになる」

 そして、とトーガは射貫いぬくような鋭い視線で武蔵を見る。

「この俺を倒せたならばむろんのこと、何であろうと俺に一太刀ひとたちでも浴びせることが出来たならすぐにでも元の場所に返してやろう」

 トーガは「ただし」と口調を強めて言葉を続けた。

「裏を返せばこの俺に一太刀ひとたちすら浴びせられないのならば、お前はこの場所から永遠に帰ることはできない……だが、それでも良いのかもな。その程度すら出来ないということは、たとえアルガイアに帰ったところで宮本伊織ともども近いうちに死ぬのが落ちだ」

 近いうちに伊織が死ぬ。

 その言葉を聞いて武蔵の目眉めまゆが大きく動く。

「伊織に何をする気だ!」

 殺意をき出しにした武蔵に対して、トーガは「勘違いするな」と言った。

「俺は何もせぬし何も出来ない……弟子を殺すのはお前だ、宮本武蔵」

 トーガはおもむろに両手のてのひらを上に向けた。

「〈外丹法がいたんほう〉も満足に扱えない今のお前の弱さでは、少しでも格上の相手と遭遇そうぐうすればそこで終わりだ。そしてお前が死ねば頼りのつなを無くした宮本伊織は必然的に死ぬ、と俺は言っている」

「俺が弱い……だと?」

「まさか、強いとでも思っていたのか? 自惚うぬぼれるなよ。アルガイアには今のお前以上の強者などといる。もちろん、お前が向かうべき先の迷宮ダンジョンにもな」

 だからこそ、とトーガは力強い口調で言い放った。

「お前のすべてを出してかって来い。俺に一太刀ひとたちでも浴びせられるようになった頃には、少しは今よりもマシになっているだろう……ただ、その一太刀ひとたちを浴びせられるまでにかかるかはお前次第だがな」

 直後、トーガは「天掌板てんしょうばん顕現けんげん――〈色即是空しきそくぜくう〉」と口にした。

 するとトーガの右手の掌上しょうじょうに一振りの刀が出現する。

 つばのない白鞘しろさやの三尺(約90センチ)を超える長刀ながだちだ。

 続いてトーガは間を置かずに「魔掌板ましょうばん顕現けんげん――〈空即是色くうそくぜしき〉」と言った。

 今度はトーガの左手の掌上しょうじょうに別の刀が出現する。

 同じくつばのない白鞘しろさやの刀だったが、こちらは二尺三寸五分(約70センチ)の大刀であった。

 トーガは右手に長刀ながだち、左手に大刀という異様な二刀流となる。

二天一流にてんいちりゅう、トーガ・カムイ・ブラフマン。さあ、どこからでも掛かって来い」

 面と向かって名乗られた以上は自分も名乗る。

 それが兵法者としての作法であり決意だ。

 ゆえに武蔵も魂をふるい立たせて名乗った。

円明流えんめいりゅう、宮本武蔵――」

 次の瞬間、武蔵は大刀を抜いて八相はっそうに構える。

 そして――。

「いざ参る!」

 異世界の剣聖と日ノ本ひのもとの剣聖。

 その剣聖同士の戦いの火蓋ひぶたが激しく切られた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜

黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。 ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。 彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。 賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。 地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す! 森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。 美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。 さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる! 剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。 窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...