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第四十四話 作戦会議
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「しっかし、さすがは龍信やな。普通の人間やったらどれだけ強くても、今頃は絶対に妓楼の連中に捕まって殺されとったで」
と、薬箱になっていた行李を降ろしながら春花が言った。
ほんの少し前に来た俺たちとは違って、春花は今来たばかりである。
「うちも中農の花街で薬なんかを売っとったけど、妓楼を守っている用心棒どもはそこら辺の破落戸とは格が違うからな。ましてや、王都の花街の中でも頂点と言われる妓楼の用心棒なんて、下手すれば禁軍の兵士とも互角に闘り合える奴らもいるんとちゃうか?」
禁軍とは国の軍隊のことであり、武勇に優れた人間たちの集まりだ。
それこそ将軍級ともなれば、〈宝貝〉を使う仙道士たちとも互角に組手をするほどの猛者もいるという。
「ああ、それぐらいの奴はいたな」
俺は春花に同意すると、とりあえず隣にいたアリシアに「誰にも髪は見られてないか?」と尋ねる。
「うん、大丈夫よ」
頭部を覆い隠すほど深々と頭巾を被っていたアリシアは、頭巾を取るなり安堵の息を吐いた。
「剣も誰にも見られてないよな?」
「それも大丈夫だと思う。こうやってしっかりと包んでいたから」
そう言うとアリシアは、長剣を包んでいた布を取った。
逃げる途中に、衣服の生地を売っていた露店から強引に持ってきた布だ。
持ってきたのは2枚。
1枚は長剣を包む用に、そしてもう1枚はアリシアの金毛を隠す頭巾用だった。
盗んできたわけではない。
去り際に店主へ銀貨を放り投げたので、ひとまず盗みにはならないだろう。
まあ、それはさておき。
俺はとりあえず一安心すると、改めてさっき来たばかりの部屋の中を見回す。
「それにしても、こんな場所が東安のいたる場所にあるなんてな」
現在、俺たちは紅花茶館の地下室にいる。
地下室と言っても一通りの生活が出来るような環境は整っていた。
段取りをしてくれた景炎さんによると、この地下室は〈南華十四行〉の人間が使う避難場所の1つらしい。
では、なぜそんな場所に俺たちがいるのか。
話は四半刻(約30分)前にさかのぼる。
俺たちは翡翠館を飛び出て彩花の外へと出ると、頭巾でアリシアの正体を隠したまま紅花茶館へと向かった。
この東安にいる間は、何か揉め事や困ったことがあったらこの店の店主に相談するよう景炎さんに言われていたからだ。
そうすれば店主から景炎さんに連絡され、俺たちに必要なモノが金次第で色々と手に入るようになっていたのである。
なので俺たちは紅花茶館の店主に事情を話すと、この地下室に通されて大人しくしているように指示を受けた。
やがて紅花茶館の人間が宿屋から春花を連れて来てくれて、こうして俺たちはひとまず翡翠館からの追手をやり過ごすことになったのだ。
おそらく、今頃は宿屋にも追手が回っていることだろう。
なぜなら、翡翠館の用心棒たちにアリシアの正体がバレているからだ。
いくら他の街よりも異国人がいるとはいえ、アリシアのような金毛を持つ異国人の少女は王都・東安とはいえ珍しい。
調べようと思えば、金毛を持つ異国人の少女が泊っている宿屋など簡単に見つけられる。
それはこの紅花茶館も同じだった。
何十人もの客が俺たちと景炎さんが話しているのを目撃しているのだ。
けれども、この店の店主は翡翠館の追手たちにこの店は関係ないと言って追い払ってくれたという。
店主曰く水連さんからの紹介の人物ならば、たとえ天地が裂けても絶対に売るような真似はしないと。
本当に水連さんには感謝しかない。
「……ほんでこれからどうするんや?」
水連さんに感謝の念を抱いていると、俺から事情を聞いた春花が訊いてくる。
「2人の目的の奴が翡翠館にいたのはええが、あんな騒ぎを起こした以上はもう翡翠館には入れんやろ。それどころか花街中に手配書が配られて、表立ってすら歩けんと思うで。下手すれば2人には懸賞金が掛けられるかもしれんな」
「それって私たちが賞金首になったってこと?」
「まだ分からんけど、話を聞く限りそうなってもおかしくないな。せやけど、仮にそうなったとしても2人はこれからどないするん?」
決まってるじゃない、と力強く答えたのはアリシアだ。
「もう1度、翡翠館に行く。あそこに魔王がいるんだから」
「だから、どうやって翡翠館に入るんや? 何度も言うようやけど、今は翡翠館に入るどころか花街を歩くだけでも難しくなってるんやで?」
「それは……」
アリシアは困ったように俺を見た。
さて、どうするかな。
と、俺が両腕を組んだときだ。
出入り口の扉が開き、部屋の中に景炎さんが入ってきた。
「よう、何か大変なことになってるぜ」
「そんなにですか?」
俺が尋ねると、景炎さんは「凄いもんだ」と言う。
「翡翠館の妓主が、金と人を使って血眼でお前さんと異国人の嬢ちゃんを探してるぞ。こうなったら大手を振ってここら辺を歩くのも危険だ。俺が手引きしてやるから東安を離れたほうがいい」
景炎さんの気持ちは有難かったが、俺はともかくアリシアは納得しないだろう。
現にアリシアは景炎さんに、「嫌です」ときっぱりと告げた。
「ようやく目的の相手を見つけたのに、逃げ出すなんてしたくありません」
それは俺も同意見だった。
なのでここは、やはり景炎さんに頼むしかない。
「景炎さん、翡翠館に入れる何か策はありませんか? いえ……入るだけなら近くに行けば何とでも出来るので、問題は監視の目がある花街を抜けて翡翠館まで行く方法です」
しばらく考えた景炎さんは「あるにはある」と答えた。
「翡翠館に商品を売り込みに来た行商人を装うんだ。そうだな……馬車に荷台をつけて適当な商品を詰め込むか。その荷物の影に隠れていれば、少なくとも監視の目をやり過ごして翡翠館までは辿り着けるはずだ」
良い提案だった。
まさか街中を監視している人間たちも、いちいち大通を行き交う行商人の荷台など改めないはずだ。
ましてやそんな手の込んだことをしてまで、俺たちが再び翡翠館に戻ろうとしているとは夢にも思っていないだろう。
「だが、念には念を入れたいのなら明後日まで待つべきだな。そうすればもっと監視の目は緩くなるはずだ」
「明後日に何かあるんですか?」
「ああ、何でも西京の街のある富豪が紅玉を身請けするらしいんだ。そのため大規模な宴が開かれる。紅玉は黒い噂があったものの、彩花を代表する妓女の1人だ。それこそ彩花全体がお祭り騒ぎになるだろうよ」
「なるほど、その騒ぎに便乗すればもっと監視の目は緩くなりますね」
このとき俺は西京の街のある富豪に妙な引っ掛かりを感じたが、今はそれよりも翡翠館に潜入することが先決だと気持ちを切り替えた。
「だが、言うは易し行うは難しってな。詳しい段取りなんかはこれから話し合うとして、今言ったことを実現させるためには先立つモノが色々と必要だぜ」
「分かっています」
俺は懐から取り出した1枚の紙を景炎さんに渡した。
「これは……証文手形か」
「はい、それで何とか必要なモノを揃えてくれませんか?」
証文手形といっても、水連さんから貰った〈南華十四行〉の証文手形ではない。
〈南華十四行〉の証文手形は商家行で換金したため、景炎さんに渡したのは商家行の証文手形だった。
紅玉という妓女に会うためにどれだけの金が必要か分からなかったので、持ち運べる金額だけ持って行って残りは商家行に預けてあるのだ。
その預けた金と交換できる、商家行の証文手形である。
「ふむ……いいだろう。この金額なら色々と用意できるぜ。馬車でも荷台でも何でもな」
俺は大きく頷くと、アリシアを見た。
アリシアは曇りのない目で俺を見つめ返してくる。
魔王と会う機会が作れるのなら何でもするとばかりに。
「よし、じゃあ話し合おうか」
その後、俺たちは翡翠館へと潜入する作戦を話し合った。
そして――。
と、薬箱になっていた行李を降ろしながら春花が言った。
ほんの少し前に来た俺たちとは違って、春花は今来たばかりである。
「うちも中農の花街で薬なんかを売っとったけど、妓楼を守っている用心棒どもはそこら辺の破落戸とは格が違うからな。ましてや、王都の花街の中でも頂点と言われる妓楼の用心棒なんて、下手すれば禁軍の兵士とも互角に闘り合える奴らもいるんとちゃうか?」
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それこそ将軍級ともなれば、〈宝貝〉を使う仙道士たちとも互角に組手をするほどの猛者もいるという。
「ああ、それぐらいの奴はいたな」
俺は春花に同意すると、とりあえず隣にいたアリシアに「誰にも髪は見られてないか?」と尋ねる。
「うん、大丈夫よ」
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「剣も誰にも見られてないよな?」
「それも大丈夫だと思う。こうやってしっかりと包んでいたから」
そう言うとアリシアは、長剣を包んでいた布を取った。
逃げる途中に、衣服の生地を売っていた露店から強引に持ってきた布だ。
持ってきたのは2枚。
1枚は長剣を包む用に、そしてもう1枚はアリシアの金毛を隠す頭巾用だった。
盗んできたわけではない。
去り際に店主へ銀貨を放り投げたので、ひとまず盗みにはならないだろう。
まあ、それはさておき。
俺はとりあえず一安心すると、改めてさっき来たばかりの部屋の中を見回す。
「それにしても、こんな場所が東安のいたる場所にあるなんてな」
現在、俺たちは紅花茶館の地下室にいる。
地下室と言っても一通りの生活が出来るような環境は整っていた。
段取りをしてくれた景炎さんによると、この地下室は〈南華十四行〉の人間が使う避難場所の1つらしい。
では、なぜそんな場所に俺たちがいるのか。
話は四半刻(約30分)前にさかのぼる。
俺たちは翡翠館を飛び出て彩花の外へと出ると、頭巾でアリシアの正体を隠したまま紅花茶館へと向かった。
この東安にいる間は、何か揉め事や困ったことがあったらこの店の店主に相談するよう景炎さんに言われていたからだ。
そうすれば店主から景炎さんに連絡され、俺たちに必要なモノが金次第で色々と手に入るようになっていたのである。
なので俺たちは紅花茶館の店主に事情を話すと、この地下室に通されて大人しくしているように指示を受けた。
やがて紅花茶館の人間が宿屋から春花を連れて来てくれて、こうして俺たちはひとまず翡翠館からの追手をやり過ごすことになったのだ。
おそらく、今頃は宿屋にも追手が回っていることだろう。
なぜなら、翡翠館の用心棒たちにアリシアの正体がバレているからだ。
いくら他の街よりも異国人がいるとはいえ、アリシアのような金毛を持つ異国人の少女は王都・東安とはいえ珍しい。
調べようと思えば、金毛を持つ異国人の少女が泊っている宿屋など簡単に見つけられる。
それはこの紅花茶館も同じだった。
何十人もの客が俺たちと景炎さんが話しているのを目撃しているのだ。
けれども、この店の店主は翡翠館の追手たちにこの店は関係ないと言って追い払ってくれたという。
店主曰く水連さんからの紹介の人物ならば、たとえ天地が裂けても絶対に売るような真似はしないと。
本当に水連さんには感謝しかない。
「……ほんでこれからどうするんや?」
水連さんに感謝の念を抱いていると、俺から事情を聞いた春花が訊いてくる。
「2人の目的の奴が翡翠館にいたのはええが、あんな騒ぎを起こした以上はもう翡翠館には入れんやろ。それどころか花街中に手配書が配られて、表立ってすら歩けんと思うで。下手すれば2人には懸賞金が掛けられるかもしれんな」
「それって私たちが賞金首になったってこと?」
「まだ分からんけど、話を聞く限りそうなってもおかしくないな。せやけど、仮にそうなったとしても2人はこれからどないするん?」
決まってるじゃない、と力強く答えたのはアリシアだ。
「もう1度、翡翠館に行く。あそこに魔王がいるんだから」
「だから、どうやって翡翠館に入るんや? 何度も言うようやけど、今は翡翠館に入るどころか花街を歩くだけでも難しくなってるんやで?」
「それは……」
アリシアは困ったように俺を見た。
さて、どうするかな。
と、俺が両腕を組んだときだ。
出入り口の扉が開き、部屋の中に景炎さんが入ってきた。
「よう、何か大変なことになってるぜ」
「そんなにですか?」
俺が尋ねると、景炎さんは「凄いもんだ」と言う。
「翡翠館の妓主が、金と人を使って血眼でお前さんと異国人の嬢ちゃんを探してるぞ。こうなったら大手を振ってここら辺を歩くのも危険だ。俺が手引きしてやるから東安を離れたほうがいい」
景炎さんの気持ちは有難かったが、俺はともかくアリシアは納得しないだろう。
現にアリシアは景炎さんに、「嫌です」ときっぱりと告げた。
「ようやく目的の相手を見つけたのに、逃げ出すなんてしたくありません」
それは俺も同意見だった。
なのでここは、やはり景炎さんに頼むしかない。
「景炎さん、翡翠館に入れる何か策はありませんか? いえ……入るだけなら近くに行けば何とでも出来るので、問題は監視の目がある花街を抜けて翡翠館まで行く方法です」
しばらく考えた景炎さんは「あるにはある」と答えた。
「翡翠館に商品を売り込みに来た行商人を装うんだ。そうだな……馬車に荷台をつけて適当な商品を詰め込むか。その荷物の影に隠れていれば、少なくとも監視の目をやり過ごして翡翠館までは辿り着けるはずだ」
良い提案だった。
まさか街中を監視している人間たちも、いちいち大通を行き交う行商人の荷台など改めないはずだ。
ましてやそんな手の込んだことをしてまで、俺たちが再び翡翠館に戻ろうとしているとは夢にも思っていないだろう。
「だが、念には念を入れたいのなら明後日まで待つべきだな。そうすればもっと監視の目は緩くなるはずだ」
「明後日に何かあるんですか?」
「ああ、何でも西京の街のある富豪が紅玉を身請けするらしいんだ。そのため大規模な宴が開かれる。紅玉は黒い噂があったものの、彩花を代表する妓女の1人だ。それこそ彩花全体がお祭り騒ぎになるだろうよ」
「なるほど、その騒ぎに便乗すればもっと監視の目は緩くなりますね」
このとき俺は西京の街のある富豪に妙な引っ掛かりを感じたが、今はそれよりも翡翠館に潜入することが先決だと気持ちを切り替えた。
「だが、言うは易し行うは難しってな。詳しい段取りなんかはこれから話し合うとして、今言ったことを実現させるためには先立つモノが色々と必要だぜ」
「分かっています」
俺は懐から取り出した1枚の紙を景炎さんに渡した。
「これは……証文手形か」
「はい、それで何とか必要なモノを揃えてくれませんか?」
証文手形といっても、水連さんから貰った〈南華十四行〉の証文手形ではない。
〈南華十四行〉の証文手形は商家行で換金したため、景炎さんに渡したのは商家行の証文手形だった。
紅玉という妓女に会うためにどれだけの金が必要か分からなかったので、持ち運べる金額だけ持って行って残りは商家行に預けてあるのだ。
その預けた金と交換できる、商家行の証文手形である。
「ふむ……いいだろう。この金額なら色々と用意できるぜ。馬車でも荷台でも何でもな」
俺は大きく頷くと、アリシアを見た。
アリシアは曇りのない目で俺を見つめ返してくる。
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