【完結】ナチュラルキラー46 ~異世界転移から始まる、最強の強化少年と最硬の機人による復讐冒険譚~

ともボン

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第四話     その名は四狼

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 アッシリアの出入り口である鉄扉を潜り、大通りを西に抜けると一軒の宿屋があった。

 中心街から離れている場所に点在しているため物静かで料金も安い。

 しかし立地条件が悪いため、お世辞にも泊まり心地が良い宿屋とは言いにくかった。

「まあ、そのほうが落ち着いていいけどな」

 宿屋の二階に宿を取った少年の視界には、全開にした窓を通して夕日により真っ赤に染まっていくアッシリアの街並みが一望できた。

 煉瓦や木材で建てられた民家や遥か彼方には山々が連なって見え、新鮮で爽やかな空気が部屋中に入ってくる。

 そんな外の様子を眺めながら少年が伸びをした途端、部屋のドアが軽くノックされた。

「どうぞ」

 と少年が入室を許可するなり、茶色の髪を三つ編みにしたエプロン姿の少女が丁寧にお辞儀をしながら入ってきた。

 確か名前はオリガ。

 年齢は十四歳で、受付をしたときに話しかけられたのでよく覚えている。

「どうですか? この部屋からの眺めは?」

「思ったよりも快適で気に入った。ここに泊まることにして正解だったよ」

 少年がそう返すと、オリガは天使のような笑みを浮かべながら運んできたポッドとカップをテーブルに置いた。

 そのままテキパキとした所作でカップに紅茶を注いでいく。

「冷めないうちに召し上がってください」

「ありがとう」

 テーブルに向かった少年は、オリガが入れてくれた紅茶を一口啜った。

 渋みと甘みが広がる紅茶は長旅の疲れをほどよく癒してくれる。

 紅茶を美味しそうに飲んでいた少年に、オリガはモジモジとしながら口を開いた。

「え、え~と、お客さんの名前は……」

「ん? 俺の名前? 四狼しろう、四狼だよ」

 四狼は紅茶を半分ほど飲み干し、オリガに名前を告げた。

 オリガは「そうでした」と舌を出しながら自分の頭を軽く叩いた。

「ごめんなさい。久々のお客さんに加えて珍しい顔立ちと名前だったものだから」

 オリガが申し訳なさそうに言うと、四狼はほがらかな笑みを見せた。

「じゃあ言葉はどうだい? 聞き取りにくくはないか?」

「いいえ、綺麗なシナトル語ですよ。あ、でも少しだけ訛りを感じるかな」

「そうか……フランス語よりもラテン語に近いのかな」

「え? 何です?」

 ぶつぶと呟いていた四狼を見て、オリガは思わず小首を傾げて訊き返した。

 それに気づいた四狼は、慌てて「それよりも」と話題を変えた。

「久々のお客って?」

 カップに入っていた紅茶をすべて飲み干した四狼は、お盆を抱きしめるように持っていたオリガに尋ねた。

「お客さん……まさか何も知らなくてこの国に来たんですか?」

 呆然とするオリガに対して四狼は普通に首肯すると、オリガは呆れたと言わんばかりに嘆息した。

 そして何故か誰もいない部屋を見渡したオリガは、

「今、この国は大きな問題を抱えているんです」

 と四狼にそっと囁いた。

 それを見て四狼はピンときた。

 どうやらオリガは、久しぶりのお客と何か話をしたくてしょうがなかったのだろう。

 もう用がないはずなのに部屋に留まっているのがその証である。

 四狼は仕方なくオリガの暇潰しに乗ることにした。

 上手くいけば、何か自分にとって有益な情報が得られるかもしれない。

 オリガはそんな四狼の考えを無視して話を続けていく。

「半年前、このバルセロナ公国の国王様と王妃様が相次いでお亡くなりになられました。それにより二人の姫様が王位継承権を争う結果になったんです。先代の国王様にはお世継ぎがいませんでしたから……」

 ありがちな話だな。空になったカップに二杯目の紅茶を注ぎながら四狼はそう思った。

 国のすべてを取り仕切る王がいなくなれば、家臣たちどころか民も狼狽して国自体が機能しなくなる。

 それを回避するためにはすぐにでも新たな王を決めなければならない。

 しかしそれに辺り正式な世継ぎがいないとなると、王位継承権を持った者同士がそれこそ血生臭い争いを繰り広げることになるだろう。

(まあ、俺にはあんまり関係ないけどな)

 軽く聞き流そうとした四狼だったが、オリガの話にはまだ続きがあった。

「でもそれはすぐに解決したんです。王の座には第一王妃のお子であらせられたセシリア様が即位なされました。セシリア様は大変に見目麗しく民の人望も厚い方でしたから、即位されたときはみんな当然だろうと喜んだものです」

 そこまで言ったオリガの口調は高く、いかにそのセシリアという王女が民衆に慕われていたのかがよくわかった。

 だが、それからのオリガの口調は明らかに低くなっていった。

「でも、今ではそのセシリア様はいません。攫われたんです、あいつらに……」

 綺麗な朱唇を噛み締めながらオリガはそう呟いた。

「あいつら?」

 四狼は誰のことかわからずただ口に出しただけだったが、オリガはつい喋り過ぎたとばかりに「今の話は忘れてください」と付け加えた。

 オリガは丁寧にお辞儀をすると、部屋から退室するためにドアへと向かった。

 それを四狼はすかさず呼び止める。

「何か?」

「いや、この国が大変だということはよくわかった。その点に関しては余所者の俺は何とも言えない。ただ、一つだけ聞かせて欲しい。この国の領内には、不思議な遺跡があると聞いてやってきたんだがそれは本当かな?」

「遺跡?」

 呼び止められたオリガは、人差し指を顎の先端に置いて視線を空に彷徨わせた。そしてしばらくすると、顔を四狼に向きなおした。

「もしかしてシュミナール遺跡のことですか? 確かにその遺跡は色々と不思議な噂が絶えないけど、多分、行くのは無理だと思いますよ」

「何故だ?」

「だってあの遺跡は代々王家が聖域としている場所で一般人の立ち入りは禁止されているんです。それに詳しい場所もこの街に長年住んでる私たちもよく知りません」

 オリガの言葉を聞くなり、四狼は頭を激しく掻き毟った。

 それは知らなかった。

 てっきり公国の首都であるアッシリアに来れば簡単に分かると思っていたがとんでもない誤算だった。

 王家が聖域として崇めているというのはどうでもいいが、詳しい場所がわからなければどうしようもない。

「しばらくは情報収集かな」

 ぽつりと小声で漏らした四狼にオリガは小首を傾げた。

 しかしすぐにオリガは背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。

「では私はこれで失礼致します。それと何か御用がありましたら遠慮なくお申し付け下さい。すぐに駆けつけてきますので」

「それは頼もしい。まるで俺の相棒並だな」

 四狼がくすりと顔をほころばすと、オリガは相棒という言葉で何かを思い出したように目を大きく見開いた。

「そう言えばお連れさんは本当に外でよろしいのですか? まだ本格的な冬ではないとはいえ夜ともなると寒いですよ」

「ああ別に気を遣ってもらわなくてもいいよ。俺の相棒はそういうことには強いから。それにあの身体じゃ玄関にも部屋にも入らないだろ?」

「……確かに」

 オリガは四狼が連れていた相棒の姿を脳裏に思い浮かべて納得した。

「だろ? だから相棒のことは気遣い無用だ。この宿屋の横手にひっそりと置かせてくれるだけでいい。そのほうが相棒も人目を気にせずに寛げる。あ、もちろんちゃんと代金は二人分払うよ」

 言うなり四狼は、懐から銅貨を一枚取り出してオリガに手渡した。

 驚くオリガに「チップだよ」と言うと、見る見るオリガの顔が笑みに変わっていく。

「ありがとうございます! これからも当宿屋をご贔屓に!」

 思わぬ臨時収入に満面の笑みを浮かべたオリガは、さらに深々と頭を下げて部屋から出ていった。

 耳を澄ませば、廊下をスキップする足音が聞こえそうだった。

「可愛いもんだ」

 無邪気なオリガを見送った四狼は、再び窓の外に視線を移した。

 暮れなずむアッシリアの景色は一枚の絵画のように美しい情景を作り出していたが、それを見ていた四狼の心境は思いのほか沈痛だった。

(――何か嫌な予感がするな)

 開放されていた窓を四狼はきっちりと閉めた。

 風に崩されてくしゃくしゃになっていた髪を手櫛でさっと整えると、窓の横に置かれていたベッドに近づく。

 清潔感が溢れたベッドには一本の剣が置かれていた。

 その剣を四狼は手に取り、すらりと刀身を抜いた。

 青黒い神秘的な輝きを放つ片刃の刀身に浮かぶ刃文は乱れ刃。

 それに刃長七十センチという打刀の部類に入るこの剣は、身幅は広めで片手打ちに適すように茎が短く造られていた。

 特殊な意匠を凝らした刀剣――日本刀と呼ばれる剣であった。

 夕陽に反射して刀身自体が赤く輝いて見える刀を、四狼は両手でしっかりと握って正眼に構えた。

 瞬間、ピンと部屋全体が独特の空気に包まれる。

 四狼の全身から放たれた不可思議な力が、部屋全体を包み込むほどに放射されているからかもしれない。

 そのまま四狼は身体を微動だにしなかった。

 刀を振り回すのでもなく、自身が動き回るのでもなく、ただ、その場から構えを崩さずに動かない。

 やがて日が落ち、窓の外から見える風景が宵闇に包まれ始めた頃、ようやく四狼は長い呼気を吐いて構えを崩した。

 ベッドに置いていた黒鞘を取って静かに刀を納刀する。

「よし、〈忠吉ただよし〉の機嫌もいいみたいだな」

 自身の愛刀にそう呟くと、外套の隙間から腰のベルトに差して固定した。

 そのまま四狼は、何かを決意したような面持ちで部屋を後にした。
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