【完結】ナチュラルキラー46 ~異世界転移から始まる、最強の強化少年と最硬の機人による復讐冒険譚~

ともボン

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第八話     決意

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 アッシリアの北側にそびえるバルセロナ城の一角にある兵舎には、近衛騎士団と呼ばれる騎士たちが寝泊りしている。

 圧倒的に人数が多い男性には二人部屋、そして人数が少ない女性には一人部屋があてがわれていた。

 朝日が昇らぬ早い刻限から一人ベッドから起き出したオリビアは、今日の任務のために必要な旅支度を整えていた。

 だが旅仕度といっても仰々しい荷物は不要である。袖の細い緋色の布服を纏い、その上からは胸元を擁護するような軽甲をつける。

 あとは少ない使用物と長剣があれば事足りる。

 旅支度を整えたオリビアは、最後に鏡台の前に座り自分の顔をまじまじと見た。

「セシリア様……必ず貴方の御身は私がお救い致します」

 鏡に映る自分の顔にセシリアの顔を重ねたオリビアは、そう決意を口にすると少しだけ乱れていた髪をさっと手櫛で整えた。

「……よし、行くか」

 軽く頬を叩いて眠気を吹き飛ばしたオリビアは、鏡台の脇に立てていた長剣を手に取り部屋を出た。

 まだ早朝だということもあり、兵舎の廊下は冷たい空気と静寂に支配されていた。

 オリビアは他の人間たちを起こさないように慎重な足取りで廊下を渡っていく。

 女性専用の個室は二階部分に集中していたので、ぎしぎしと頼りない音を出す階段を下りて一階に向かう。

「どうしたい、オリビア。こんな朝っぱらから早朝訓練かい?」

 階段を下りて広いホールに出るなり、オリビアは陽気な声に呼び止められた。

「おはようございます、パメラさん」

 オリビアに声をかけた人物は四角く折り畳んだ布地を頭に被り、ゆったりとした服の上からエプロンに身を包んだ大柄な女性であった。

 パメラという名前の兵舎専属の給仕係りの女性である。

 一本だけ欠けた前歯を隠すでもなくニッコリと笑うパメラに、オリビアは知らずうちに顔をほころばせていた。

「お、いい顔になったね。そうだよ、オリビア。仏頂面ばかりしてると早死にしちまうよ」

 けらけらとパメラは笑っていたが、このパメラも自分の今日の任務を知っている。

 流れ者の傭兵に同行し、女王の救出に向かうという激務に。

 オリビアはパメラに頭を下げた。

 見送りに感謝しただけではない。

 もしかすると、今日で顔を見るのは最後になるかもしれないからだ。

「これから向かいます」

「ああ、絶対にセシリア様と一緒に帰ってきな」

 そう言ったパメラだが、心中は決して穏やかではなかっただろう。

 無理して笑顔を作っているのがオリビアにも手に取るように分かった。

(それも当然だな)

 セシリアは顔には出さず胸中で苦笑した。

 隣国であるアスナルドに向かう途中のセシリアの馬車を襲い、近衛騎士団の中でも選りすぐりであった騎士たちを悉く葬り去った盗賊団の元へたった数人で向かおうというのだ。

 他人から見れば無謀を通り越して呆れるだろう。

 絶対にセシリアの救出は不可能だと。

 しかしそれでもオリビアには些かの迷いも後悔もない。

「では行って参ります」

 精一杯の笑顔でパメラに挨拶したオリビアは、軽快な足取りで兵舎から出て行く。

 そしてその背中を見つめていたパメラは、自分の娘を戦場に送る母親のように痛ましい表情でオリビアを見送っていた。



 今日は朝から濃厚な霧がアッシリア全体を覆っていた。

 街路を歩いている人間は皆無であり、この街だけではなく世界には自分一人しか存在していないのではないかと錯覚するほどの静けさであった。

 そんなことを思いながらオリビアは、一切歩調を乱さずに目的の場所に足を運んでいく。

 そこに件の連中が来ているはずである。

 もし逃げていなければの話だが。

 ほどしばらくして、オリビアはアッシリアの東口方面にある広場に辿り着いた。

 広場の中央には裸身を露にした女性の彫像が目立ち、鮮やかな色彩を放つ花壇がそこら中に植えられている。

 昼の時間帯ともなれば元気な子供たちが走り回り、陽気に談話を楽しむ人々の姿が見られる憩いの場所であった。

「お前……逃げなかったのか?」

 広場の中央に着くなり、オリビアは開口一番そう呟いた。

「んあ? ああ、アンタか」

 オリビアの存在に気づいた四狼は、両手を真上に伸ばして大きく欠伸をした。

 その態度からは緊張感の欠片も感じられない。

「随分と余裕だな。それともまさか相手を過小評価しているのか? だとしたら大間違いだ。嘗めていたら本当に死ぬぞ」

 それは決して脅しではなかった。

 紛れもない事実である。

 ただの盗賊団だと侮っているとあっさりと殺されてしまうだろう。

 だが四狼はオリビアの言葉を軽く聞き流した。

 眠気眼を擦りながら何度も欠伸をする。

「あまり朝っぱらから大声を出さないでくれ。ただでさえ昨日はおたくらの仲間が宿まで張り付いてきて朝まで見張られたんだ。お陰で気になってあまり眠れなかった」

「それは難儀だったな。何だったら今からでも遅くない、永久に眠らされる前に逃げ出してもいいんだぞ。私は一向に気にしない」

「冗談、そんな気はないさ」

 四狼は外套の隙間から覗き見えていた剣の柄を握ると、少しだけ刀身を抜いて再び納めて見せた。
「そう言えばお前の連れはどうした?」

 オリビアは首を動かして周囲を見渡した。

 口調がやや大人びている少年は目の前にいるが、その少年の連れと思われた巨人の姿がなかった。

 あれだけの巨躯であれば単純な腕力だけでも相当に期待できたが、姿が見えないということは逃げたのだろうか。

「まさか、俺がここにいるのに逃げるわけないだろ。なあ、金剛丸」

 オリビアの心中を表情から読み取った四狼は、おもむろに顎をしゃくって見せた。

 その仕草を見たオリビアは振り向いた。

 四狼の目線が自分の真後ろを見つめていたからだ。

 振り返るなりオリビアは瞠目した。

 腰に携えた長剣を一気に抜いて構える。

 いつの間にかオリビアの後方には、堂々とした巨躯を誇る巨人が佇んでいた。

 全身に膨大な量の外套を繋ぎ合わせたような服で身を包み、頭には目元がはっきりと見えないほどの布が何十枚も巻きつけられている。

 気づかなかった。

 一体いつ現れたのだろう。

 オリビアは長剣の切っ先を巨人に向けながらごくりと唾を飲み込んだ。

 咄嗟に長剣を抜いてしまったオリビアを見て、四狼は「おいおい」と声をかけた。

「金剛丸は盗賊じゃないぞ、俺の大事な相棒だ。相手を間違えないでくれ」

 そんなことはわかっていたが、気配を感じさせずに真後ろに巨人が現れたら誰だろうと動揺するだろう。

 昨日のうちに姿を見ていなかったら斬りつけていたかもしれない。

 オリビアは構えを解くと、金剛丸に「すまん」と一言詫びてから長剣を鞘に仕舞った。

「そうそう、女性は素直が一番だ」

 うんうんと頷く四狼にオリビアは刺すような視線を向けた。

「非礼を詫びるのに男女の区別は関係ない。それに私は礼節を重んじ、規律を遵守する近衛騎士団の団員でもある。それ故に自分に非があるのならば詫びるのは当然だ」

 背筋をピンと伸ばし、軽甲を拳で叩くオリビアの姿は騎士団の模範とも言うべき堂々とした態度であった。

 そんなオリビアに四狼は神妙な面持ちで尋ねてきた。

「一つ訊きたいことがあるんだが、アンタは今までその規律を破ったことはあるのか? またそれで誰かに恨まれたりしたことは?」

 オリビアは何のことかとばかりに首をかしげた。
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