【完結】ナチュラルキラー46 ~異世界転移から始まる、最強の強化少年と最硬の機人による復讐冒険譚~

ともボン

文字の大きさ
29 / 37

第二十九話   決別

しおりを挟む
「同胞だと?」

 四狼の目眉が片方だけ吊り上った。

 あまりにも突拍子もないジンバハルの言葉に、四狼はトリガーを引くタイミングを失ってしまった。

「そうだ。俺たち〈亜生物〉はお前たち〈ナンバーズ〉と同じ、科学者どもの自己顕示欲と研究欲を満たすためだけに造られた実験体。つまりは同胞だ」

 巨大な牛人と化したジンバハルは、口内から肉食獣の唸り声を上げて喋っている。

「〈ナンバーズ〉の貴様ならば知っているだろう。俺たちがいた世界は天から降ってきた神の裁きと、自らが招いた愚考により滅びの道を歩くことになった。それが――」

 ジンバハルの話を無言で聞いていた四狼だったが、心中では腸が煮えくり返る衝動に駆られていた。

 四狼の脳裏に眠っていた記憶がふと鮮明に蘇ってくる。

 西暦二○四四年。

 太陽系第三惑星であった地球は滅びの一途を辿った。

 最初の原因は、突如、地球に襲来した巨大隕石であった。

 観測史上最大規模と断定された巨大隕石が地球に落ちてしまえば、どれほどの被害が出るか予想もつかない。

 核保有軍事大国はただちに巨大隕石を核で破壊するという声明を発表し、現実にそれを実行した。

 しかし、これがすべての悲運の始まりだった。

 数十発の核弾頭は確かに巨大隕石を撃破したが、そのときに飛び散った破片がしぶとくも地球に降り注いできたのである。

 巨大隕石の破片がもたらした損害も甚大だった。

 人々が暮らす大地に巨大なクレーターを幾つも穿ち、大海原に落ちた破片の衝撃波は大津波と化して人々に牙を剥いた。

 だが、これだけならばまだ良かった。

 あろうことか巨大隕石の破片により一番多く被害を受けた中東諸国が、逆恨みなのかそれとも以前から密かに機会を狙っていたのか、大量の核を撃ったアメリカや中国に対して核による報復行為を取ったのである。

 その後、地球は瞬く間に破滅の道を辿ってしまった。

 核により生じた大量の放射性物質は多くの人間の生命を奪い、地軸の乱れにより起こった天変地異は世界中の人間たちを絶望と混沌に陥れた。

 マグニチュード七以上の強震が頻繁に起こり、核や破片の衝撃波で舞い上がった尋常ではない量の土砂が地球全体を覆いつくしたのである。

 四狼は苦々しく呟いた。

「……ハルマゲドン」

 四狼の呟きをその耳で捉えたのか、ジンバハルの哄笑は勢いを増していく。

「そうだ。ヨハネ黙示録に書かれた世界の終末における、善と悪の最終決戦場所ハルマゲドン。まあ、決戦場所は地球全体に及んだがそれも仕方ないことだ。あれだけ増加した人間どもは遅かれ早かれ自滅するのは目に見えていた」

「勝手なことをほざくな! それでもあの大災害を逞しく生き抜いていた人間たちがいたんだ!」

 四狼は身体を震わせて激昂した。

 確かにあの未曾有の大災害ハルマゲドンにより全人口の八割が失われた。

 だがそれでも残り二割の人間たちは大災害を誰よりも早く察知し、世界中の地下に巨大なシェルターを建設していたのである。

 ジンバハルの哄笑がピタリと止まった。

「逞しいか……確かにな。ハルマゲドンを生き残った科学者どもは逞しいという意味では一級品だった。全人口の八割が死に絶えたというのに、すぐに己の欲望を満たす実験を行えるのだからな」

 頭を振ったジンバハルの両鼻からは、興奮した闘牛のような鼻息が漏れた。

「だから今度は俺たちが科学者どもに神の裁きを下してやったんだ。世界中に建設されていた研究所兼シェルターに隔離されていた同胞たちに呼びかけ、一斉にシェルター内に搭載されていた時空転移装置を狂わせてやった。それにより世界中に点在していたシェルターは、計測が狂った状態で異次元空間に放出されてこの世界に迷い込んできた」

 興奮して饒舌になっていたジンバハルだったが、わざわざ聞かされなくても四狼はすべて知っている。

 世界中に散らばっていた研究所兼シェルター内には、遺伝子操作の段階で欠陥が見られた〈亜生物〉を隔離していた施設があった。

 そこは強大な力を有している〈亜生物〉たちを一体ずつ監視できるような厳重な警備体制が敷かれており、それこそ〈亜生物〉たちが互いに示し合わせでもしない限り絶対に脱獄は不可能であった。

 だからこそ、研究所内で生き残っていた科学者たちは夢にも思わなかっただろう。

 世界中の研究所内に隔離されていた〈亜生物〉たちが、通信機の類も使わずに一斉に反乱を起こすことなど。

 シンクロニシティ。

 スイスの心理学者であったカール・グスタフ・ユングにより提唱された概念であり、その意味するところは集合的無意識化による、固体化された生物同士の情報交換が現実的に起こり得る働きとされている。

 四狼はこの反乱が起こったときに、一人の科学者から聞かされた。

 〈亜生物〉たちはまさにこのシンクロニシティと呼ばれる現象を意図的に引き起こし、一斉蜂起という荒業を成し遂げたことに。

 奥歯を噛み締めている四狼に対して、ジンバハルは上機嫌で話を続けていた。

「この世界は素晴らしい。破滅した地球とは違い、汚染されていない豊かな大地が豊富に存在している。だが、もっと素晴らしいことは――」

 ニヤリ、とジンバハルが笑った。

「住んでいる人間の文明が幼稚なことだ。これならば苦労せずに俺たちは生物界の頂点に立てる。当然だ。この世界には俺たちを縛り付ける大敵は何一つ存在しないのだからな」

 話すだけ話したジンバハルは、ショットガンを向けている四狼に手を差し出してきた。

 黒い針のような剛毛に覆われていたが、まだ人間の手の形をしている。

「何のつもりだ?」

 眉一つ動かさずに四狼は問うた。

 ジンバハルは手を差し伸べながら答える。

「先ほども言ったが俺たちは同胞だ。そしてここは無能な人間どもが蔓延っていた地球とは違う。〈亜生物〉や〈ナンバーズ〉なども関係ない。俺たちはこれから協力し合い、この世界を地球の二の舞にしないよう正しい道に導かねばならない。そのための準備も世界中で着々と進んでいる。その中で俺たちはこの国を担当している」

 じりじりとジンバハルは四狼に歩み寄ってくる。

 その顔は表情が巧く読み取れない牛の顔だったが、人間の顔ならば満面の笑みであったかもしれない。

 ジンバハルは本気で四狼を仲間に迎える気であった。

 共に造られた存在として、この世界を自分たちの都合の良い世界に変えていくための仲間に誘っている。

 そして、ジンバハルが十歩ほど歩いたときだった。

 ダァンッ!

 けたたましい銃声がホール内の静寂を破った。

 ショットガンの銃声である。

 四狼はジンバハルの顔面に向けて何の躊躇もなくトリガーを引くと、大口径ライフル弾並みの運動エネルギーを有していたスラグショットは空気を押し潰しながらジンバハルの顔面に飛んでいった。

 ジンバハルは咄嗟に顔を逸らしてスラグショットをかわしたが、頬にはドリルで抉られたような痛ましい傷ができていた。

 数秒後、ジンバハルは損傷した頬に手を当てた。

 頬からはドロリとした赤黒い血が溢れ出しており、体毛の先から水滴のようにぽたぽたと床に落ちていく。

「これが貴様の返事か……」

 傷口を押さえていたジンバハルの手が小刻みに震えだした。

 それは間違っても恐怖から来る震えではなかっただろう。

「もうくだらないお喋りは終ったか? だったらさっさと死んでくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...