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第三十二話 罪人
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金剛丸と合流した四狼がアッシリアの街に着いたのは、出発したときと同じ朝日が昇る前の早朝であった。
その後、四狼と金剛丸は宿屋へと赴き、半日だけだが休息を取った。
そして夕刻になると宿屋に近衛騎士団が現れ、バルセロナ城に来て欲しいとの言付けを承った。
アッシリア全体が夕闇に支配され、民家にぽつぽつと灯りが点り始めた頃、近衛騎士団に誘導されながら四狼と金剛丸はバルセロナ城に入城した。
通された場所は、二百人近くは収容できるほどの広さがあった玉座の間である。
思わず溜息が漏れそうなほど豪奢な作りであった玉座の間は、床一面に真っ赤な絨毯が敷き詰められ、天井には惜しげもないほど宝石が散りばめられた巨大なシャンデリアが吊るされていた。
それに壁の前には甲冑を着込んだ二十人ほどの近衛騎士団が直立不動で立ち並び、手にはそれぞれ三メートルほどの長槍を携えている。
四狼と金剛丸は玉座の間の中央付近で立ち止まった。
そこから一五メートル前方にはこの国の最高権力者だけが座することを許される玉座があり、今まさにその玉座には豪華絢爛なドレスを纏った女性が優雅な物腰で座っていた。
白銀色の髪が嫌でも目立ち、自分を尊大に見せたいのか絹と羽毛で作られた扇を手にしている。
「お待ちしていました。ご苦労様でしたね」
玉座に座っていたオリエンタは、四狼と金剛丸に労いの言葉をかけた。
だがオリエンタはすぐに目を細めて手にしていた扇で己を扇ぐ。
「しかし、その格好はどうにかならなかったのですか? たとえ傭兵の身なれど女王と謁見しているのですよ」
「お構いなく。用が済めばすぐに退散するさ」
そう答えた四狼の服装は、遺跡に赴く前と同じ格好をしていた。
全体を包むような外套を羽織り、腰の辺りから〈忠吉〉の柄だけが伸びている。
金剛丸も同様である。
相貌が確認できないほど顔には布が巻かれ、身体には何十枚もの生地を繋ぎ合わせた作った超特大サイズの外套が羽織られていた。
しかし、一つだけ妙な物があった。
金剛丸の背中には、長方形の形をした木の箱が担がれているのである。
オリエンタは四狼の返事を聞くなり鼻で笑った。
「まあ、いいでしょう。それよりも仕事の成果を受け取りましょうか」
オリエンタがそう言うと、傍に立っていた小間使いと思われる女性が軽快な足取りで四狼に近づいてきた。
四狼は外套の中から黄金色に輝く円盤を取り出し、近づいてきた小間使いの女性に手渡した。
小間使いの女性は急いでオリエンタの元へ駆け戻る。
「おお、これが王家の証……何と美しい」
オリエンタは王家の証を眺めながら恍惚の笑みを浮かべた。
そして表や裏に返し、指先でそっと表面をなぞっていく。
「これで仕事は完了したな。では約束の報酬を貰おうか」
四狼がそう言って、オリエンタに手を出したときだった。
「いえ、まだ終ってはいませんよ」
下卑た笑みを作ったオリエンタが手にしていた扇を横に振ると同時に、玉座の間にいた近衛騎士団はもちろん、入り口からは長剣や長槍を手にした他の近衛騎士団たちが怒涛の如く突入してきた。
四狼と金剛丸が逃げ出せないように一気に円形に囲う。
「……説明してもらおうか?」
顔だけをオリエンタに向けた四狼に、オリエンタは微塵も表情を崩さず答えた。
「そうですね。己の罪状も知らずに刑に服するのは不本意でしょう。カルマ」
オリエンタが座っている玉座の近くには、近衛騎士団ではなく高級そうな服装に身を包んだ身分の高そうな人間たちが控えていた。
その中でも一際若そうだった金髪の男がオリエンタに名前を言われるや否や、手にしていた洋皮紙を広げて内容を読み上げた。
「かの傭兵二人は盗賊団『ベヘモス』を討伐せし折、同行者であったオリビア・カルトレル及び、シュミナール遺跡内において先代女王陛下セシリア・リズムナリ・バルセロナを殺害。よって被告人二人に死刑を宣告する」
罪状を一言一句違わずに聞いた四狼は、それでも動揺することなく訊き返した。
「おかしな話だ。今回の仕事を依頼してきたのは他ならぬアンタだったはずだ」
四狼の鋭い視線を受けたオリエンタは、頭を振って知らぬ存ぜぬで通した。
「貴方の言っている意味がよく分かりません。確かに私は侍女を通して貴方たちに仕事を依頼しましたが、それは盗賊団から王家の証と姉上を救出することだけでした。それなのにまさかこのような惨い結果になるとは……」
オリエンタは両目を閉じて顔をうつむかせた。
すると、すかさずカルマと呼ばれた金髪の青年が話を繋いだ。
「証人がいるのですよ。貴方たちの犯行を目撃したという証人がね」
カルマが「連れてきてください」と小間使いの女性に促すと、急いで小間使いの女性は入り口のほうへ走っていった。それからすぐに証人が玉座の間に現れた。
「こ、こいつらです! 間違いありません!」
玉座の間に現れた人物は、途中で行方不明になったパーカスであった。
その後、四狼と金剛丸は宿屋へと赴き、半日だけだが休息を取った。
そして夕刻になると宿屋に近衛騎士団が現れ、バルセロナ城に来て欲しいとの言付けを承った。
アッシリア全体が夕闇に支配され、民家にぽつぽつと灯りが点り始めた頃、近衛騎士団に誘導されながら四狼と金剛丸はバルセロナ城に入城した。
通された場所は、二百人近くは収容できるほどの広さがあった玉座の間である。
思わず溜息が漏れそうなほど豪奢な作りであった玉座の間は、床一面に真っ赤な絨毯が敷き詰められ、天井には惜しげもないほど宝石が散りばめられた巨大なシャンデリアが吊るされていた。
それに壁の前には甲冑を着込んだ二十人ほどの近衛騎士団が直立不動で立ち並び、手にはそれぞれ三メートルほどの長槍を携えている。
四狼と金剛丸は玉座の間の中央付近で立ち止まった。
そこから一五メートル前方にはこの国の最高権力者だけが座することを許される玉座があり、今まさにその玉座には豪華絢爛なドレスを纏った女性が優雅な物腰で座っていた。
白銀色の髪が嫌でも目立ち、自分を尊大に見せたいのか絹と羽毛で作られた扇を手にしている。
「お待ちしていました。ご苦労様でしたね」
玉座に座っていたオリエンタは、四狼と金剛丸に労いの言葉をかけた。
だがオリエンタはすぐに目を細めて手にしていた扇で己を扇ぐ。
「しかし、その格好はどうにかならなかったのですか? たとえ傭兵の身なれど女王と謁見しているのですよ」
「お構いなく。用が済めばすぐに退散するさ」
そう答えた四狼の服装は、遺跡に赴く前と同じ格好をしていた。
全体を包むような外套を羽織り、腰の辺りから〈忠吉〉の柄だけが伸びている。
金剛丸も同様である。
相貌が確認できないほど顔には布が巻かれ、身体には何十枚もの生地を繋ぎ合わせた作った超特大サイズの外套が羽織られていた。
しかし、一つだけ妙な物があった。
金剛丸の背中には、長方形の形をした木の箱が担がれているのである。
オリエンタは四狼の返事を聞くなり鼻で笑った。
「まあ、いいでしょう。それよりも仕事の成果を受け取りましょうか」
オリエンタがそう言うと、傍に立っていた小間使いと思われる女性が軽快な足取りで四狼に近づいてきた。
四狼は外套の中から黄金色に輝く円盤を取り出し、近づいてきた小間使いの女性に手渡した。
小間使いの女性は急いでオリエンタの元へ駆け戻る。
「おお、これが王家の証……何と美しい」
オリエンタは王家の証を眺めながら恍惚の笑みを浮かべた。
そして表や裏に返し、指先でそっと表面をなぞっていく。
「これで仕事は完了したな。では約束の報酬を貰おうか」
四狼がそう言って、オリエンタに手を出したときだった。
「いえ、まだ終ってはいませんよ」
下卑た笑みを作ったオリエンタが手にしていた扇を横に振ると同時に、玉座の間にいた近衛騎士団はもちろん、入り口からは長剣や長槍を手にした他の近衛騎士団たちが怒涛の如く突入してきた。
四狼と金剛丸が逃げ出せないように一気に円形に囲う。
「……説明してもらおうか?」
顔だけをオリエンタに向けた四狼に、オリエンタは微塵も表情を崩さず答えた。
「そうですね。己の罪状も知らずに刑に服するのは不本意でしょう。カルマ」
オリエンタが座っている玉座の近くには、近衛騎士団ではなく高級そうな服装に身を包んだ身分の高そうな人間たちが控えていた。
その中でも一際若そうだった金髪の男がオリエンタに名前を言われるや否や、手にしていた洋皮紙を広げて内容を読み上げた。
「かの傭兵二人は盗賊団『ベヘモス』を討伐せし折、同行者であったオリビア・カルトレル及び、シュミナール遺跡内において先代女王陛下セシリア・リズムナリ・バルセロナを殺害。よって被告人二人に死刑を宣告する」
罪状を一言一句違わずに聞いた四狼は、それでも動揺することなく訊き返した。
「おかしな話だ。今回の仕事を依頼してきたのは他ならぬアンタだったはずだ」
四狼の鋭い視線を受けたオリエンタは、頭を振って知らぬ存ぜぬで通した。
「貴方の言っている意味がよく分かりません。確かに私は侍女を通して貴方たちに仕事を依頼しましたが、それは盗賊団から王家の証と姉上を救出することだけでした。それなのにまさかこのような惨い結果になるとは……」
オリエンタは両目を閉じて顔をうつむかせた。
すると、すかさずカルマと呼ばれた金髪の青年が話を繋いだ。
「証人がいるのですよ。貴方たちの犯行を目撃したという証人がね」
カルマが「連れてきてください」と小間使いの女性に促すと、急いで小間使いの女性は入り口のほうへ走っていった。それからすぐに証人が玉座の間に現れた。
「こ、こいつらです! 間違いありません!」
玉座の間に現れた人物は、途中で行方不明になったパーカスであった。
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