【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

文字の大きさ
11 / 104
第二章 ~この世はすべて因果応報で成り立っている~

道場訓 十一    勇者の誤った行動 ③

しおりを挟む
 約一時間後――。

「おい、まだ目的地の安全地帯セーフ・ポイントに着かないのか? いくら何でもおかしいだろ」

 俺は足を止めると、地図を見ながら先頭を歩いていたカチョウに呼びかけた。

 カチョウも歩くのを止め、俺たちのほうに顔を向ける。

 だが、その表情は周囲と同じぐらい暗かった。

「すまん……もしかすると、道に迷ってしまったのかもしれん」

「な、何だと?」

 思いがけないカチョウの言葉に、俺の怒りは一瞬で最高潮に達した。

「ふざけんな! どうして地図を見ながら進んでいたのに迷うんだよ!」

 俺はカチョウに向かって怒声を浴びせる。

「もうここは20階層だ! だったらすぐに安全地帯セーフ・ポイントの一つや二つ簡単に見つけられるだろうが!」 

「いや、それはそうなんだがこう暗くては地図も上手いこと読めないし、この地図に書かれている道と周囲の状況を照らし合わせることも難しいんだ。お主もそう思わんか?」

「ぐっ……」

 そう言われては俺も口を閉ざすしかなかった。

 やっぱり今の俺たちの弱点ネックは、周囲を見渡す明るさが足りないことか。
 
 たった今まで俺たちは注意深く周辺の気配を探りながら、アリーゼが必死に絞り出した小さな魔力マナを使った光源魔法を頼りに突き進んでいた。

 しかし、今のアリーゼの光源魔法の明るさは弱すぎる。

 普段ならば半径30メートルは明るく照らしていたものが、今はせいぜい3~5メートルを照らすのに精いっぱいだったのだ。

 正直なところ、この範囲の明るさではまともに戦闘もできない。

 それこそAランクの魔物の群れに襲われでもしたら全滅はけられないだろう。

 くそっ、こんなときに松明たいまつかランタンがあれば違うのに。

 などと俺が心中で舌打ちすると、カチョウは「せめてもう少し明かりが強ければ違うのだが……」とアリーゼをちら見する。

 するとアリーゼは「はあ~?」と頓狂とんきょうな声を上げた。

「ちょっと待ってよ。あんたがまともに道案内できないのを私のせいにするの? これまでだって私の魔力マナが少なくなって、光源魔法を広げられないことなんて何回もあったじゃない。それでもケンシンはそのたびに注意深く周りを見ながら的確に道案内してくれていたわ」

 ぴくり、とカチョウの片眉かたまゆが動いた。

「つまりお主は拙者せっしゃが注意力散漫で、明るさがなければ地図もまともに読めないケンシン以下の愚図ぐずだと言いたいのか?」

「そう聞こえたということは自分自身でもそう思っているってことよね? だったら自分の能力の低さを他人のせいにしてないでもっと頑張れば?」

 不毛な言い争いを始めたカチョウとアリーゼ。

 そんな二人に対して、俺は「ごちゃごちゃとうるせえんだよ!」と腹の底から怒鳴り声を上げた。

「俺から言わせればどっちもどっちだ! お前ら二人とももう少し冷静に――」

 なりやがれ、と俺が続きの言葉を発しようとしたときだ。

「――――ッ!」

 俺たちは前方から何かが近づいてくる気配を感じた。

「……アリーゼ、明かりをもっと前に移動させろ」

 俺の指示にアリーゼはすぐさましたがった。

 アリーゼは俺たちを中心に照らしていた光源魔法を前方に飛ばす。

 数秒後、光源魔法の明かりによって近づいてきた敵の正体が判明した。

 オークか!

 身長2メートルを超える巨体に、豚に似た顔をした亜人系に属する魔物。

 間違いない。

 Bランクの魔物のオークだ。

「どんな敵かと思えばオークか……どうする、キース? ここは大事を取って逃げるか?」

 逃げる? たかがBランク程度のオーク相手に逃げるかだと?

「馬鹿言うなよ、カチョウ。相手はたかがウスノロのオーク一匹だ。さっさとぶっ殺して安全地帯セーフ・ポイントを探すぞ」

 俺は《神剣・デュランダル》を抜き放ち、全身に魔力マナを充実させた。

 体外で超常現象を発生させる魔法使いのアリーゼとは違い、俺とカチョウは練り上げた魔力マナで肉体と武器を強化して闘う魔剣士だ。

「うむ、ならばいつものように拙者せっしゃが先陣を切ろう」

 カチョウは左腰に帯びていたさやから大刀を抜くと、両手で持って顔の横に立てるような構えを取った。

 八相はっそうと呼ばれる、ヤマト国に伝わる剣術の構えの一つだ。

 同時にカチョウも魔力マナを充実させて戦闘能力を高める。

 そして――。

「チェエエエエエエエエエイ――――ッ!」

 猿叫えんきょうという独特な気合を発したカチョウは、八相はっそうの構えを崩さずオークに向かって突進していく。

 続いて俺もカチョウの後を追うように疾駆しっくした。

 まずはカチョウが敵に斬りかかり、仕留め損なった際には俺がを刺す。

 単体の敵に絶大な効力を発揮する、俺とカチョウの連係技――〈双連撃そうれんげき〉だ。

 事実、俺とカチョウはこれまで何度も単体の敵をこの技で仕留めてきた。

 しかも俺たちの目の前に現れたのは、いつも俺たちを見て震えていたオークだ。

 人間と外見や中身が似ている分だけ、勇者パーティーのリーダーである俺の実力に気づき恐れをなしていたのだろう。

 へっ、こんなビビリの豚野郎一匹くらいカチョウだけでも余裕だな。

 俺はカチョウの背中を見つめながら思った。

 同時に俺の脳裏には、オークがカチョウにやられる光景が鮮明に浮かんでくる。

 一刀のもとに斬り伏せられ、悲鳴を上げながら倒される光景が――。

「ぐああああああああああ――――ッ!」

 そうそう、こんな風に叫びながら無様ぶざまにやられて……っておい!

 俺は駆けていた足を止め、食い入るように前方を見つめた。

 信じられなかった。

 全身と武器を魔力マナで覆った状態のカチョウが、オークが放った棍棒の一撃を受けてあっさりと吹き飛ばされてしまったのだ。

 そんなカチョウは数メートルも吹き飛び、ごろごろと転がりながらやがて壁に激突して静止する。

「て、てめえ……何やってんだ、カチョウ! 油断するのも大概たいがいにしやがれ! たかがオークの攻撃にやられてるんじゃねえよ!」

 俺が苦悶くもんの声を上げているカチョウに言い放つと、後方にいたアリーゼが「キース、前見て前!」と焦りの色を含んだ声をかけてくる。

 俺はハッと気づき、慌ててカチョウからオークへと視線を向けた。

「ブキイイイイイイイイイイイイイイ――――ッ!」

 空気を震わせるほどの声を上げ、オークが俺に向かって猛進もうしんしてくる。

 そこにはいつも楽勝で勝てていたウスノロのオークなどいなかった。

 オークは全身の筋肉を隆起りゅうきさせながら、凄まじいほどの殺意をまとって間合いを詰めてくる。

「ひいっ」

 強烈な殺意にてられた俺の口から小さな悲鳴が漏れる。

 何だ、こいつは? 本当に俺たちがこれまで倒してきたオークなのか?

 そう思ってしまうほど、棍棒をかかげながら突進してくるオークは異常だった。

 まるで勇者である俺をあり程度にしか見ていない絶望の権化ごんげだ。

 あっという間に間合いを詰めてきたオークは、俺の頭上目掛けて棍棒を振り下ろしてくる。

「くっ!」

 俺は咄嗟とっさに後方に跳んでオークの攻撃を回避する。

 しかし、オークの攻撃は終わらなかった。

「ブギイイイイッ!」

 オークは棍棒を両手で持つと、そのまま大きく踏み込みながら突きを繰り出してくる。

 俺はその突きも身をひねってかわそうとしたが、ここは足場が不安定なダンジョンの中だということを一瞬だが忘れていた。

 う、嘘だろ!

 不安定な足場に態勢を大きく崩した俺は、オークの棍棒での突きをまともに食らったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

処理中です...