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第二章 ~この世はすべて因果応報で成り立っている~
道場訓 十三 勇者の誤った行動 ⑤
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ちょっと待て、俺たちのリーダーが誰だって?
最初、俺はアゼルが何を言っているのか分からなかった。
だが、アリーゼの「どうしてケンシンが私たちのリーダーなのよ!」という叫び声を聞いて、ようやく俺は事の重要性に気づくことができた。
アリーゼの言う通りだ。
何でケンシンが俺たちのリーダーとして認識されているんだよ。
「おい、オッサン! ふざけたこと言うんじゃねえぞ!」
俺はアゼルの胸ぐらを空いていた左手で掴んだ。
「あんな無能のサポーター風情が俺たちのパーティーのリーダーだと? そんなわけねえだろうが! この【神竜ノ翼】のリーダーは俺――キース・マクマホンに決まってんだろ!」
などと俺が口にした直後、後方から「その通りだ」という声が聞こえてきた。
「俺たちのリーダーはそこのキースのみ。断じてケンシンなどではない。おかしなことを言うのはやめてもらおうか」
俺はハッとなって振り返る。
そこには大刀を納刀した状態のカチョウが立っていた。
しかし、どう見ても普通の状態ではない。
オークの攻撃でアバラが何本か折れたのだろう。
カチョウの額からは脂汗がにじみ出ていて、荒い呼吸をしながら左の脇腹を両手で押さえている。
「お前らのほうこそ、おかしなことを言っているな」
アゼルは「はあ」と溜息を吐いた。
「あの闘神のような強さを持つ空手家のケンシンが無能だと? それこそ馬鹿なことを言うなよ。あいつは正真正銘、本物の実力者だ。空手家としてもサポーターとしても……そして冒険者としてもな」
アゼルは俺たちを交互に見まわしながら話を続ける。
「その証拠にお前ら【神竜ノ翼】は半年前まではCランクだったのに、今では国に認められるSランクの勇者パーティーになった。それはケンシンがお前たちのパーティーに入ったからじゃないのか?」
「そ、そんなわけねえだろ! 馬鹿も休み休み言いやがれ!」
俺は腹の底から怒鳴り声を上げたものの、アゼルはまったく表情を変えることなくどこ吹く風であった。
それどころか、俺を薄汚い虫けらみたいな目で見下ろしてくる。
「じゃあ、ご高名な勇者さまに尋ねるがな。ケンシンがお前らのパーティーに入ってから色々と周りで不思議なことが起こるようにならなかったか? たとえば周囲の人間――特に裏社会の人間たちの態度が急に変わったとか、クエストの達成数は変わらないのに金銭面で豊かになったとか、ダンジョンの中で遭遇した魔物が急に弱くなったように思えた、とかな」
「…………」
そう言われてみると、馴染みであった娼館の連中の態度が明らかに弱腰になったかもしれない。
待てよ、他にもまだあったな。
ケンシンが入るまではクエストを達成して得た報酬よりも出て行く金のほうが多かったときもあったが、ケンシンが入ってからは俺たちの懐に入る金が多くなったような気がする。
それにダンジョンで遭遇した魔物が弱くなったように思えたか、だと?
確かにケンシンがパーティーに入ってから遭遇した魔物どもは、どいつもこいつも俺たちを見て怯えた小鹿のように身体を震わせていたっけ。
だが、それがケンシンと何の関係がある?
まさか、魔物どもはケンシンにビビッていたとでも言いたいのか。
勇者である俺よりも、あんな闘えもしない空手家風情に?
そんなことあるわけねえ。
すべては偶然に決まってる。
俺たちがCランクからSランクになれたのだって、このパーティーのリーダーである俺の実力がたまたまケンシンが入ったときに開花しただけだ。
あんな無能で魔抜けなサポーターをパーティーに入れなくても、どのみち俺は国から認められた勇者になれていただろうからな。
そう思ったとき、アゼルは「その様子だと図星か?」と訊いてくる。
「図星? 全然、何にも図星じゃねえよ……ってか、どのみちあいつはクビにしたから俺たちとはもう何の関係もないんだからよ」
俺の言葉にアゼルたちは見るかに驚愕した。
「今、何て言った? あいつを――ケンシンをクビにしただと?」
「ああ、そうさ。勇者パーティーになった俺たちに無能なサポーターなんて必要ねえからな」
「ケンシンくんがパーティーに必要ないですって?」
続いて驚きの声を上げたのはファムだ。
「呆れた。あの子がどれだけあんたたちのために身を粉にして働いていたのか知らないの?」
はあ? この女は頭が沸いてんのか?
「あいつは何の働きもしてねえよ。それどころか、ダンジョンに潜る前日には必ず行方不明になっていたんだからな。それにいちいち俺たちに指図するような真似ばかりしていたから、ちょうどクビにするキッカケができて良かったと喜んでいたところだ」
マジでか、とアゼルは大きく目を丸くした。
「ずっと一緒にパーティーを組んできたのに、お前らはケンシンが前もってダンジョンの魔物どもを無力化させていたことも気づいていなかったのか? それを他の冒険者たちに見られたときは、自分の金を冒険者たちに渡して口止めしていたことも知らなかったと?」
ダンジョンの魔物どもを無力化させていた?
このオッサンは何を寝ぼけたことを言ってんだ。
あの戦士もどきの雑魚空手家のケンシンにそんな力があるわけねえだろ。
「おい、オッサン」
俺は胸ぐらを掴んでいた左手に力を込める。
「ベラベラといい加減なことを抜かしてやがると――」
ぶっ殺すぞ、と言い放とうとした直後だった。
「〈痙攣〉!」
バチッと俺の全身に強烈な痺れが走る。
「あがッ!」
そして俺は痺れに耐え切れず膝から崩れ落ちた。
最初、俺はアゼルが何を言っているのか分からなかった。
だが、アリーゼの「どうしてケンシンが私たちのリーダーなのよ!」という叫び声を聞いて、ようやく俺は事の重要性に気づくことができた。
アリーゼの言う通りだ。
何でケンシンが俺たちのリーダーとして認識されているんだよ。
「おい、オッサン! ふざけたこと言うんじゃねえぞ!」
俺はアゼルの胸ぐらを空いていた左手で掴んだ。
「あんな無能のサポーター風情が俺たちのパーティーのリーダーだと? そんなわけねえだろうが! この【神竜ノ翼】のリーダーは俺――キース・マクマホンに決まってんだろ!」
などと俺が口にした直後、後方から「その通りだ」という声が聞こえてきた。
「俺たちのリーダーはそこのキースのみ。断じてケンシンなどではない。おかしなことを言うのはやめてもらおうか」
俺はハッとなって振り返る。
そこには大刀を納刀した状態のカチョウが立っていた。
しかし、どう見ても普通の状態ではない。
オークの攻撃でアバラが何本か折れたのだろう。
カチョウの額からは脂汗がにじみ出ていて、荒い呼吸をしながら左の脇腹を両手で押さえている。
「お前らのほうこそ、おかしなことを言っているな」
アゼルは「はあ」と溜息を吐いた。
「あの闘神のような強さを持つ空手家のケンシンが無能だと? それこそ馬鹿なことを言うなよ。あいつは正真正銘、本物の実力者だ。空手家としてもサポーターとしても……そして冒険者としてもな」
アゼルは俺たちを交互に見まわしながら話を続ける。
「その証拠にお前ら【神竜ノ翼】は半年前まではCランクだったのに、今では国に認められるSランクの勇者パーティーになった。それはケンシンがお前たちのパーティーに入ったからじゃないのか?」
「そ、そんなわけねえだろ! 馬鹿も休み休み言いやがれ!」
俺は腹の底から怒鳴り声を上げたものの、アゼルはまったく表情を変えることなくどこ吹く風であった。
それどころか、俺を薄汚い虫けらみたいな目で見下ろしてくる。
「じゃあ、ご高名な勇者さまに尋ねるがな。ケンシンがお前らのパーティーに入ってから色々と周りで不思議なことが起こるようにならなかったか? たとえば周囲の人間――特に裏社会の人間たちの態度が急に変わったとか、クエストの達成数は変わらないのに金銭面で豊かになったとか、ダンジョンの中で遭遇した魔物が急に弱くなったように思えた、とかな」
「…………」
そう言われてみると、馴染みであった娼館の連中の態度が明らかに弱腰になったかもしれない。
待てよ、他にもまだあったな。
ケンシンが入るまではクエストを達成して得た報酬よりも出て行く金のほうが多かったときもあったが、ケンシンが入ってからは俺たちの懐に入る金が多くなったような気がする。
それにダンジョンで遭遇した魔物が弱くなったように思えたか、だと?
確かにケンシンがパーティーに入ってから遭遇した魔物どもは、どいつもこいつも俺たちを見て怯えた小鹿のように身体を震わせていたっけ。
だが、それがケンシンと何の関係がある?
まさか、魔物どもはケンシンにビビッていたとでも言いたいのか。
勇者である俺よりも、あんな闘えもしない空手家風情に?
そんなことあるわけねえ。
すべては偶然に決まってる。
俺たちがCランクからSランクになれたのだって、このパーティーのリーダーである俺の実力がたまたまケンシンが入ったときに開花しただけだ。
あんな無能で魔抜けなサポーターをパーティーに入れなくても、どのみち俺は国から認められた勇者になれていただろうからな。
そう思ったとき、アゼルは「その様子だと図星か?」と訊いてくる。
「図星? 全然、何にも図星じゃねえよ……ってか、どのみちあいつはクビにしたから俺たちとはもう何の関係もないんだからよ」
俺の言葉にアゼルたちは見るかに驚愕した。
「今、何て言った? あいつを――ケンシンをクビにしただと?」
「ああ、そうさ。勇者パーティーになった俺たちに無能なサポーターなんて必要ねえからな」
「ケンシンくんがパーティーに必要ないですって?」
続いて驚きの声を上げたのはファムだ。
「呆れた。あの子がどれだけあんたたちのために身を粉にして働いていたのか知らないの?」
はあ? この女は頭が沸いてんのか?
「あいつは何の働きもしてねえよ。それどころか、ダンジョンに潜る前日には必ず行方不明になっていたんだからな。それにいちいち俺たちに指図するような真似ばかりしていたから、ちょうどクビにするキッカケができて良かったと喜んでいたところだ」
マジでか、とアゼルは大きく目を丸くした。
「ずっと一緒にパーティーを組んできたのに、お前らはケンシンが前もってダンジョンの魔物どもを無力化させていたことも気づいていなかったのか? それを他の冒険者たちに見られたときは、自分の金を冒険者たちに渡して口止めしていたことも知らなかったと?」
ダンジョンの魔物どもを無力化させていた?
このオッサンは何を寝ぼけたことを言ってんだ。
あの戦士もどきの雑魚空手家のケンシンにそんな力があるわけねえだろ。
「おい、オッサン」
俺は胸ぐらを掴んでいた左手に力を込める。
「ベラベラといい加減なことを抜かしてやがると――」
ぶっ殺すぞ、と言い放とうとした直後だった。
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