【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

文字の大きさ
14 / 104
第二章 ~この世はすべて因果応報で成り立っている~

道場訓 十四    勇者の誤った行動 ⑥

しおりを挟む
 こ、これは相手をしびれさせる状態異常の魔法か。

 俺が内心で舌打ちすると、真上から「いい加減にするのはあんたのほうよ」という声が降ってきた。

「助けてもらっておいて上から目線なのもムカつくけど、それ以上にたかがオーク一匹にあたふたしていた奴が、私たち【火之迦具土ひのかぐつち】のリーダーであるアゼル・グリッドマンの胸ぐらをいつまでつかんでんのよ」

 怒りを含んだ声を発した主はファムだった。

「大丈夫、キース!」

「おのれ、よくも拙者せっしゃらのリーダーを!」

 アリーゼとカチョウが憤慨ふんがいしたのもつか、すぐさまファムは「〈痙攣パラライズ〉!」と二人に対しても状態異常の魔法を放つ。

「きゃあ!」

「ぐぬっ!」

 アリーゼとカチョウはあっさりと俺の二の舞になり、その場に倒れてビクビクと全身を痙攣けいれんさせ始めた。

「く……くそ……て、てめえら……何しやがる」

 身体全体はしびれて動けなかったが、顔にまではしびれの効果はなかったようだ。

 そのため、何とか声だけは普通に発することができた。

「何をするだぁ? それはこっちの台詞だ」

 アゼルは両膝を折り曲げると、俺をにらみつけてくる。

「上位冒険者の定例会議なんかも全部ケンシンに押しつけていたばかりか、お前らをサポートするため色々と影ながら動いていたケンシンをクビにするとはな。そのクズっぷりだと、俺たちが誰なのか以上にケンシンがだったことも知らないんだろう?」

「せ、戦魔大戦せんまたいせん……え、英雄?」

 俺の脳裏に戦魔大戦せんまたいせんに関する記憶が浮かんでくる。

 戦魔大戦せんまたいせん

 半年前、とあるカルト魔法結社が隣国で行った魔法実験による大災害のことだ。

 違法な魔法実験により一国を滅ぼしかねないほどの凶悪な魔物を生み出し、それこそリザイアル王国も含めた周辺諸国の魔法兵団や騎士団、他にも冒険者たちが多く駆り出されて鎮圧ちんあつしたことは知っている。

 だが、それとケンシンに何の関係がある?

「やっぱり、あの噂は本当だったんだ。一時はSランクとSSダブルエスランクの冒険者たちの間でもケンシンくんの話で持ちきりだったからね」

「ああ、俺たちSSダブルエスの冒険者の間では他のパーティーに関することに口出しするのはマナー違反だから表立って言わなかったがな。ただ、正直なところ考えようによってはケンシンがクビになったのはラッキーだったかもしれない。こいつらのパーティーにいた以上は堂々と引き抜けなかったが、ケンシンがフリーになったというのなら話は別だ。それこそクビになったという噂を聞きつけた有名どころの上位ランカーがケンシンを獲得しようと動き出すだろう」

 な、何だこいつら……一体、何の話をしてやがる。

 と、俺がアゼルとファムの話を聞いて混乱したときだった。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!

 どこからか身の毛がよだつほどの魔物の遠吠えが聞こえてきた。

 それも1体や2体どころじゃない。

 確実に10体、もしくはそれ以上の魔物の声が響いてくる。

「以外と見つかるのが早かったね」

 落ち着いた声でファムがアゼルに話しかけた。

「まあ、これだけの光源魔法を使っているんだ。見つからないと思うほうがどうかしている」

「それもそうか……で、どうする? 闘う?」

「いや、ここは引くぞ。今日の俺たちはあくまでも訓練で来ているんだからな」

「そうね。あらかじめすぐそこの安全地帯セーフ・ポイントに地上までの転移魔法も作っておいたから、今日はここまでにして仲間の元に帰りましょうか」

 そんなやり取りをしたアゼルとファムは、落ち着いた様子で立ち去ろうとする。

「待て待て待て待て待てええええええ――――ッ! てめえら、逃げる前に俺らにかけている魔法も解いていけよ!」

 アゼルは両足を止めると、顔だけを振り向かせた。

「寝ぼけたこと言うなよ、クズ。そんな魔法ぐらい自力で解くんだな。言っておくが、ケンシンなら〈痙攣パラライズ〉の魔法なんて気合で掻き消せるぞ」

 それだけ言うと、二人は洞窟の奥へと消えていった。

「いやあああああああ――――ッ! キース、あんた勇者なんでしょう! だったらこの状況を何とかしてよ! このままだと、私たちみんな魔物に殺されちゃうじゃない!」

「アリーゼの言う通りだ! キース、お主はリーダーで勇者なんだろ! だったら早くこの状況を何とかするべきだ……うわあああああああ――――ッ! 来たあああああああああああ――――ッ!」

 アゼルとファムが消えた反対側の奥から、10体以上の魔物の姿が現れた。

 ゴブリン、オーク、トロール、ゴーレム、キメラなどの魔物どもだ。

「アリーゼ、状態異常回復の魔法だ! 魔力マナなんて完全に尽きてもいい! だから早く俺たちの状態異常を解いてくれ!」

「でも、今の私の魔力マナ残量だと一人も回復できないかもしれないよ!」

「そんなものやってみなければ分からんだろ! いいから拙者せっしゃたちの誰でもいいから回復させろ! このままでは全滅だ!」

 くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそおおおおおおおおおお――――ッ!

 こんなところで全滅してたまるか!

 俺はいずれ全世界に名をとどろかせる本物の勇者になるんだ!

 だからこんなところで死んでたまるか!

 などと俺が心の底から生き延びたいと強く願ったときだ。

 右手に持っていた《神剣・デュランダル》が強い光を放ち始めた。

「うおっ!」

 直後、俺は信じられないとばかりに自分の身体を確認する。

「し……しびれが取れた!」

 今ほどまで全身をむしばんでいた強烈なしびれがまったく消えたのだ。

 俺は機敏きびんな動きで立ち上がると、右手に持っていた《神剣・デュランダル》を見つめた。

 そう言えば国王から《神剣・デュランダル》を渡されたあと、大臣だいじんがこの《神剣・デュランダル》が持つ特殊な効果について色々と話していた気がする。

 神剣を手に入れた嬉しさで詳しく聞いていなかったが、強い意志の力に反応して持ち主のみの状態異常などを回復することもできると言っていたような……。

「まあ、この際どうだっていい。こうしてしびれの効果が無くなったのは確かなんだからな」

 だったらあとはやることは一つだ。

 俺はアゼルとファムが消えたほうに向かって走り出そうとする。

「ちょっと待ってよ、キース! あんた一人だけでどこに行く気なのよ!」

「まさか、自分一人だけで逃げるつもりか!」

 ぎくり、と俺は慌てて立ち止まった。

「に、逃げるんじゃねえよ……え~と……あ、そうだ! た、助けを呼びに行くだけだ。きっとあの二人が向かった先に安全地帯セーフ・ポイントがあるに違いない」

 俺はとっさに思いついた言葉をまくし立てる。

「それにあいつらは安全地帯セーフ・ポイントに地上への転移魔法を作っていると言ってやがった。だったら、その転移魔法で地上に助けを呼びに行くことができるだろうが」

 すると俺の言葉にアリーゼとカチョウは顔を蒼白にさせた。

「嘘でしょう! そんなひまがあるくらいなら、あんたが私たち二人を背負ってでも安全地帯セーフ・ポイントに連れて行ってよ! そのほうが確実に全員とも助かるでしょうが!」

「アリーゼの言う通りだ! それぐらい勇者ならばするべきだろうに!」

 うるせえな……お前らの命より勇者の俺のほうが何百倍も価値があるんだ。

 その勇者がこんな中級ダンジョンで死ぬなんて国が許さねえんだよ。

 そうさ、もしもアリーゼとカチョウがここで死んでもそれは仕方がない。

 この勇者であるキース・マクマホンのためのとうと犠牲ぎせいになるんならな。

 などという結論にいたった俺は、

「馬鹿野郎ども! 俺一人でお前ら二人を連れて安全地帯セーフ・ポイントまで行けるわけねえだろ! 常識で考えろ!」

 と、二人に対してこの部分だけ本音を言った。

「それに見捨てるわけじゃない。助けを呼びに行くだけだ。いいか、俺が帰ってくるまで持ちこたえろよ」

 そう言うと俺は、今度こそ安全地帯セーフ・ポイントに向かって駆け出す。

 後方から「裏切者!」という声が聞こえてきたが、今の俺にはまったくこれっぽっちも響かない。

 そして――。

 俺は自分の命を最優先にして、この場から逃げ去ったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...