【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

文字の大きさ
26 / 104
第四章 ~空手家という名の闘神、大草原に舞い降りる~

道場訓 二十六   現れた二つの巨悪

しおりを挟む
「おい、何だあれは!」

 一人の冒険者がある一点をゆびさしながら声を上げた。

 エミリア・クランリーこと私も冒険者がし示したほうへ意識を向ける。

 え……あれって?

 私はケンシン師匠が闘っている場所からはるか前方――アリアナ大森林の上空からこちらに飛行してくる不気味な影を見つめた。

 その不気味な影は最初こそ小さな黒い点だったが、時間が経つごとに見る見るうちに大きくなっていく。

 凄まじい速度でこちらに向かっているのだ。

 それはケンシン師匠の上空をあっという間に通過し、私たち冒険者の一団へと近づいてくる。

 やがて視力が良かった冒険者の一人が声高に叫んだ。

「ギ……ギガント・エイプだ!」

 私たちの間に恐怖と緊張が駆け抜ける。

 輪郭りんかくがはっきりと見えてきたので、私も視界にとらえることができた。

 遠目からでも分かる。

 額についている巨大な一本角と、白と黒の斑模様まだらもようの肉体。

 間違いない。

 ここに来るまでに聞かされた、ギガント・エイプの身体的特徴とくちょうと同じだ。

 しかし、冒険者の一団が息をんだのはギガント・エイプを見たからではない。

 いや、確かにギガント・エイプも十分に恐怖を感じる原因の一つだった。

 だが、ギガント・エイプがこちらに向かっているにも全員が驚愕きょうがくしたのだ。

「う、嘘だ……こんなことがあるはずがない」

 私の隣にいたキキョウさんが全身を震わせながらつぶやく。

「なぜ、レッド・ドラゴンの背中にギガント・エイプが乗っているのだ!」

 レッド・ドラゴン。

 本来はAランク以上のダンジョンの最下層にしか現れない竜種りゅうしゅの王。

 討伐とうばつランクは当然ながらSランクだった。

 そのレッド・ドラゴンの背中にギガント・エイプが乗っており、文字通り空気を切り裂きながら私たち冒険者の一団へと向かって来ているのだ。

 このとき、冒険者たちの頭にあった〝敵前逃亡は死罪〟という言葉は粉々こなごなに砕け散った。

 同時に冒険者たちの恐怖の叫びが大草原に響き渡る。

 私は叫び声こそ上げなかったが、心の中でこう思った。

 本当の惨劇さんげきの幕が上がったのかもしれない、と。



 一方、その頃――。

「邪魔だ、お前ら!」

 俺は目の前に立ちはだかる魔物どもに向かって声をあらげた。

 この場にいる魔物どもが人語を理解できないことは分かっている。

 それでも俺は口に出さなければ気がすまなかったのだ。

 まさか、アリアナ大森林からギガント・エイプがレッド・ドラゴンに乗って現れるとはまったくの予想外だった。

 しかもこの2体のターゲットが俺ではなく、エミリアのいる冒険者の一団に向かったというのが最悪だ。

 ギガント・エイプ1体でさえ、200人の冒険者たちが総がかりでいどんでも未曾有みぞうの被害が出る。

 それなのにレッド・ドラゴンまで出て来てしまっては一巻いっかんの終わりだ。

 間違いなく、エミリアをふくめた冒険者たちは皆殺しになるだろう。

 などと思った直後だった。

「ヴォオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!」

 大気を震わせる咆哮ほうこうとともに、エンシェント・キマイラどもが突進してきた。

 本当は一刻も早くエミリアの元へ向かいたかったが、まるでここにいる魔物どもは時間稼ぎをするように総がかりで襲いかかってくる。

 その中でより強く凶悪な存在はエンシェント・キマイラだ。

 顔は獅子しし、胴体はドラゴン、尾はへびで背中に山羊やぎの顔がついている魔物――エンシェント・キマイラ。

 そんなエンシェント・キマイラの弱点は山羊やぎの顔だ。

 特にキメラの上位種じょういしゅであるエンシェント・キマイラを倒すとなると、他の部分をどれだけ攻撃しても無駄に終わる。

 エンシェント・キマイラの厄介やっかいなところは異常な再生能力だった。

 弱点以外の場所をどれだけ攻撃して破損はそんさせたとしても、すぐに持ち前の異常な再生能力で元通りになってしまう。

 なのでエンシェント・キマイラを確実に倒すには、再生能力でも追いつかない威力の攻撃で、弱点である山羊やぎの顔を斬り落とすか粉々こなごなにしなくてはならない。
 
 そして俺はどちらの戦法も選択した。

 まず俺は1体のエンシェント・キマイラの攻撃をけながら胴体に飛び乗ると、山羊やぎの顔――正確には胴体とつながっている首の部分に手刀しゅとうを走らせる。

 ザンッ!

 俺は練り上げた気力アニマまとわせた手刀しゅとう――〈無影むえい手刀打しゅとううち〉で山羊やぎの顔を胴体から切り離す。

 やがて弱点の部位を切り離されたエンシェント・キマイラは絶命した。

 すると他のエンシェント・キマイラどもは、どんな鉄剣よりも切れ味のあった俺の〈無影むえい手刀打しゅとううち〉を警戒けいかいしたのだろう。

 四足歩行よんそくほこうから二足歩行にそくほこうとなり、背中の山羊やぎの顔を守るような態勢たいせいとなった。

 あまい!

 俺は二足歩行となったエンシェント・キマイラどもの巨大な爪や牙による、引っき攻撃やみつき攻撃をかわしながら山羊やぎの顔に技を叩き込んでいく。

 直接ではない。

 エンシェント・キマイラの腹部に右拳を押し当て、背中の山羊やぎの顔へと衝撃が通るような特殊な打拳だけんを放つ。

 零距離ぜろきょりからピンポイントの場所を破壊する打拳だけん――〈当破あては正拳突せいけんづき〉だ。

 バガンッ!

 耳朶じだを打つ爆音とともに、山羊やぎの顔が爆裂四散ばくはつしさんする。

 その後、俺は立て続けに〈当破あては正拳突せいけんづき〉を残りのエンシェント・キマイラにも打ち込み、すべてのエンシェント・キマイラを仕留めた。

 もちろん、まだ他の魔物どもが残っている。

 そして、こいつらをすべて倒さなければエミリアの元へ向かうのは難しかった。

 だが、あまり時間をかけすぎては手遅れになる。

 俺は四方を囲んでくる魔物どもを見回した。

 普通の人間ならばこのような事態におちいると、パニック状態になって通常の力の半分も出せなくなるに違いない。

 けれども俺は違う。

 ――戦魔大戦せんまたいせんを経験したせいで、どんな悪夢のような非常事態になっても心がき乱されることはなくなった。

 代わりに感じるようになったのは、このようなときは目に映るを片っ端から壊したくなるという欲求だ。

 それは自分が1匹の獰猛どうもうな獣になる感覚に似ていたかもしれない。

 どちらにせよ、ちまちま闘っていてもらちが明かないのは事実だ。

 だったら、やることは一つしかない。

 コオオオオオオオオオオオオ――――…………

 俺は息吹いぶきを発しながら、下丹田げたんでんでさらなる気力アニマを練る。

 そして――。

 俺はすべてを蹂躙じゅうりんする1匹の拳獣けんじゅうになった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...