【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

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幕間  ~物事には光があれば闇があり、表があれば裏がある~

道場訓 二十九   衝撃の聖女、リゼッタ・ハミルトン

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 リザイアル王国・国王の間。

 私は召使いたちによる着替えを終えると、等身大とうしんだい姿見すがたみで身なりを確認した。

 うむ、どこも変なところはないな。

 などと一人で思っても気が気でならず、私は周りにいる召使いたちに何度も髪型や服装におかしな点がないかチェックさせた。

 普段ならば国賓こくひん相手とはいえ、これほど身なりをチェックすることはない。

 しかし、これから会う相手は世界中に信徒しんとを持つクレスト教会の聖女なのだ。

 しかも今回訪問ほうもんしてくる聖女は、数多あまたいる聖女たちの中でも抜群ばつぐんの実力をそなえているという。

 クレスト教会の序列じょれつ・第一位の聖女――リゼッタ・ハミルトン。

 一体、どのような人物なのだろうか。

 もちろん、事前に聖女のプロフィールは手に入れている。

 なので年齢や背格好などは情報として知ってはいるものの、やはり実際の姿を見なくては信じられない。

 衝撃の聖女。

 それはリゼッタ・ハミルトンの異名だった。

 なぜ、そのように呼ばれているのかは分からない。

 だが実際に一度でも彼女に会ったことのある者は、出会うと文字通りの〝衝撃〟を味わったと口をそろえるという。

 私は年甲斐としがいもなく胸を高鳴たかならせた。

 落ち着け、落ち着くのだ。

 もうしばらくすれば彼女に――本物の〝衝撃の聖女〟に会えるのだから。

 ――コンコン。

 これから会う聖女のことを考えていたとき、外から誰かが扉をノックしてきた。

 私が入室を許可きょかすると、大臣だいじんが部屋に入ってくる。

「聖女殿どのは参られたのか?」

「はい、すでに応接室へお通ししております」

「分かった。すぐに行こう」

 私は胸の高鳴たかなりを必死におさえながら、大臣だいじんと護衛の騎士たちと一緒に応接室へと向かった。

「そう言えば魔の巣穴すあなの件はどうなった?」

 応接室へ向かう途中、私は前を見ながら大臣だいじんに問いかける。

「はっ、アリアナ大森林に出現した魔の巣穴すあなはすべて駆除くじょしたようです」

「騎士団のみでか?」

「いえ、それが冒険者たちによって駆除くじょされたと……そして、我が王国騎士団の先兵隊はほとんどが全滅して多数の死傷者が出ました。いかがされますか?」

犠牲ぎせいになった騎士団の遺族には、それなりの弔慰金ちょういきんを払ってやれ。それで、冒険者にも被害は出たのか?」

「騎士団ほどではありませんが出たようです。こちらも弔慰金ちょういきんを出しますか?」

「いや、冒険者には報奨金ほうしょうきんのみでいい。あまり金を出し過ぎて付け上がっても困るからな。それに冒険者と言えば、もうすでに困ったことが起こったではないか」

 大臣だいじんは表情を暗くして「確かに」と答える。

 私も同様に暗澹あんたんたる思いにられてしまう。

 まさか、正式に認定した勇者がこんなに早く失態しったいおかすとは思わなかった。

 本来ならば神剣の没収ぼっしゅうのみならず、勇者の称号しょうごう剥奪はくだつするところなのだが、さすがに今は時期が悪すぎる。

 なので勇者たちには適当な機会チャンスを与えて復活してもらうことにした。

 勇者に認定してから日が浅すぎて世間の注目が集まっていることと、クレスト教の聖女が訪問ほうもんしてくる日が重なってしまってはどうしようもない。

 この件は勇者本人だけではなく、あの者を勇者に認定した私の問題にもなっているのだ。

「いいか、もしも聖女殿どのがそのことについて触れて来ても適当に誤魔化ごまかすのだ。こんなことを他国の――それも世界中の国に影響のあるクレスト教の聖女殿どのに知られるわけにはいかんからな」

御意ぎょいにございます」

 やがて応接室へと辿り着き、私はまんして部屋の中に入る。

 おお、この方が……。

 国王である私を見て、椅子に座っていた少女が立ち上がる。

 身長は160センチほどだろうか。

 そしてクレスト教会特有のドレスのような純白の聖服せいふくを着ているので、この少女が噂の〝衝撃の聖女〟だということは理解できる。

 しかし、肝心の顔があまりよく見えない。

 頭頂部に小さな帽子をかぶっており、その帽子からは顔全体をおおい隠すような半透明な布が垂れ下がっていたのだ。

「大変申し訳ございません、陛下へいか。このままでは失礼ですね」

 私の考えたことをさっしたのか、聖女は優雅ゆうがな仕草で被り物を取って素顔をさらす。

 ふむ……これが衝撃の聖女か。

 私はまじまじとリゼッタ殿どのの顔を拝見はいけんした。

 やや切れ長の目に、色香いろかただよう桃色の唇。

 抜けるような白い肌にはシミなど一つもない。

 そして金よりも価値があると思わせてしまう銀髪は腰の辺りまであり、きちんと丁寧ていねいに切りそろえられている。

 美人と言うよりは佳人かじんと言ったほうがしっくりと来る印象だ。

 確かに美しい……だが、どこが衝撃なのだ?

 正直なところ、私は顔をらせるほどの絶世の美女を期待していた。

 そのあまりの美貌びぼう魅力みりょくを、物理的な作用を相手に与える〝衝撃〟と言い変えているのだと思ったのだ。

 けれども、どうにも期待外れ感はぬぐえない。

 取り立てて〝衝撃〟と言い表すほどの美貌びぼうではないのだ。

 まあ、うわさにはびれが付き物だからな。

 少しだけ肩透かたすかしを受けたとはいえ、目の前の少女が平均よりもはるかに美しいことには変わりない。

 それに相手は国賓こくひんのクレスト教会の聖女だ。

〈世界魔法政府〉の母体国家――アルビオン公国の国教であるクレスト教。

 そのクレスト教で信仰のシンボルとして存在している聖女たちの中でも、序列じょれつ・第一位の聖女ということは教会でもかなりの発言力を持っている。

 ならば相手が16歳の小娘とはいえ、不遜ふそんな態度を取るわけにはいかない。

 そんな態度で接しようものなら、あとで〈世界魔法政府〉からどのような反発を受けるか予想もできなかった。

 私は一つだけせきばらいをすると、「ようこそ、お出でくださいました」とリゼッタ殿どのに着席をうながす。

「ありがとうございます」

 リゼッタ殿どのが先に着席したことを確認した私は、続いて自分も対面の椅子に座って向かい合った。

 私は自分の隣に大臣だいじんを、後方には護衛の騎士を立たせる。

 場の雰囲気が整ったところで、リゼッタ殿どのは満面の笑みを浮かべてきた。

「改めて自己紹介させていただきますね、陛下へいか。わたくしはクレスト教会のリゼッタ・ハミルトンです。どうぞ、お見知りおきを」

「いえいえ、こちらこそ。それにクレスト教会の序列じょれつ・第一位の聖女殿どのが我が国を訪問先に選んでくれたということは、〈世界魔法政府〉が我がリザイアル王国を上位の存在だと認めてくれたということなのでしょうから」

 こくり、とリゼッタ殿どのうなずいた。

「その通りです。リザイアル王国は先の戦魔大戦せんまたいせんにおきまして、鎮圧ちんあつに多大な貢献こうけんをしていただいたと聞いております。それは〈世界魔法政府〉の上層部とクレスト教会も大いに認めており、こうして聖女の一人であるわたくしがさんじさせていただきました」

 これには私も大きく目をみはった。

「つまり、我がリザイアル王国にクレスト教の聖域を……」

「はい、是非ぜひともリザイアル王国にはクレスト教の聖域である大聖堂を建設していただきたいと思います。そのあかつきにはクレスト教が保管している聖遺物せいいぶつの一つを進呈しんていするとの大司教さまからのお達しです」

 リゼッタ殿どのの発言に、私は今度こそ本物の高揚こうようを覚えた。

 クレスト教の聖域たる大聖堂を建設できるばかりか、クレスト教の聖人の遺物いぶつの一つが手に入るということは、世界中に存在するクレスト教徒たちが我が国をおとずれることを意味する。

 やはり、虎の子の魔法兵団と騎士団を送ったのは正解だったな。

 半年前、周囲の国々を震撼しんかんさせた大災害――戦魔大戦せんまたいせん

 その戦魔大戦せんまたいせん鎮圧ちんあつするべく、〈世界魔法政府〉から兵力の要請ようせいがあった際には相手の希望を上回る兵力をしげもなく送った。

 決して忠義心ちゅうぎしんから送ったわけではない。

 このような結果を見越して送ったのだ。

 世界中に信徒を持つクレスト教会の巡礼地になれば、我がリザイアル王国はあらゆる分野の知識が高まり経済がますます発展するだろう。

 私もリゼッタ殿と同じく満面の笑みを返した。

是非ぜひともお願いいたします。それこそアルビオン公国のラグナロク大聖堂に引けを取らないほどの大聖堂を建設することをお約束しましょう。お任せください」

 その後、軽い雑談をはさみながら互いの様子を見計みはからっていたときだ。

 ところで、とリゼッタ殿どのが会話を切り出してきた。

「聞いたところによりますと、最近になって陛下へいかがお認めになった勇者さまが誕生したということですが真実まことでしょうか?」

「うん? ああ、キース・マクマホンのことですか。ええ、そうです。この半年の間に目をみはるほどの活躍でCランクからSランクへと昇格した冒険者です」

「それはそれは……わずか半年間でCランクからSランクへと昇格するとは、さぞかし優秀で勇猛ゆうもうなお方なのでしょうね」

 どうやらリゼッタ殿どのは勇者について興味が出て来たらしいが、あまり根堀ねほ葉掘はほり聞かれてうっかりとを喋らないようにしなくては。

「ええ、ほんの数日前に認定した勇者でしてね。確かパーティーは4人……いや、3人だったか? 大臣だいじん、どうだったかな?」

 私は隣に立っている大臣だいじんに目線で余計なことを言わないよう忠告する。

 それは大臣だいじんもきちんと分かっていたようだ。

「恐れながら、陛下へいか。勇者パーティーは4人でございました」

 当たり障りのない大臣だいじんの返事にリゼッタ殿どのは反応する。

「4人と言うと他にはどのような方々がおられるのですか?」

「う、うむ……大臣だいじん、他にはどのような者がいたのだろう」

「はい。勇者ことキース・マクマホンを筆頭に、サムライのカチョウ・フウゲツ、魔法使いのアリーゼ・クイン。そして――」

 大臣だいじんはやや口ごもりながら答える。

「確かサポーター兼……か……かり……から……からて……おお、そうです。サポーター兼空手家からてかのケンシン・オオガミという者でした」

 バアンッ!

 突如とつじょ、応接室にけたたましい音が響いた。

「ど、どうされました? リゼッタ殿どの?」

 さすがの私もこのときばかりは動揺どうようしてしまった。

 優雅ゆうがな態度で座っていたリゼッタ殿どのが、大きく目を見開きながら勢いよく立ち上がったのだ。

 まるでずっと昔になくした大切な物が、予想もしていない場所で見つかったときのように。

 そんなリゼッタ殿どのは、全身を震わせながら私に向かって言った。

「会わせて下さい……その勇者パーティーの方々に今すぐに!」
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