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幕間 ~物事には光があれば闇があり、表があれば裏がある~
道場訓 三十 勇者の誤った行動 ⑦
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現在、キース・マクマホンこと俺は中央街にある宿屋の一室にいた。
あれからどのぐらいの時間が経っただろうか。
あのとき俺は一足先に安全地帯に駆け込み、他の冒険者が作っていた地上までの転移魔法を使って事なきを得た。
そしてカチョウとアリーゼの二人も間一髪のところを別の冒険者パーティーに助けられ、命からがら地上へと逃げ延びることが出来たのだが、それが俺たちの失態をまき散らすことになった。
あろうことかカチョウとアリーゼは、自分たちを助けてくれた冒険者たちに事の経緯を洗いざらいぶちまけやがったのだ。
それが原因で俺たちはBランクのダンジョン攻略に失敗したばかりか、低ランクの魔物たちから逃げ出したという風評があっという間に知れ渡り、それは中央街にある冒険者本部ギルドのギルド長の耳にまで入ってしまった。
ギルド長は俺たちを王宮に勇者パーティーとして推薦してくれた人物だ。
だからこそ、このままでは自分の名前にも大いに傷がつくと思ったのだろう。
ギルド長は大事になる前に冒険者たちに箝口令をしくと、その足で王宮に向かってある提案をした。
それは――。
「ふざけやがって! 何で俺の神剣が没収されないといけないんだよ!」
俺は怒りに任せて近くの椅子を蹴り飛ばした。
「落ち着け、キース。物に八つ当たりするのはよくない」
「はあ? 落ち着けだと!」
俺はベッドに腰かけていたカチョウに怒声を浴びせた。
カチョウは服を着ているが、その服の下の脇腹には包帯が巻かれている。
「どの口が言いやがるんだ、カチョウ! てめえが切り込み隊長の仕事を果たせなかったことが原因の一つでもあるんだぞ! 俺に意見するぐらいなら、もっと悪びれたように大人しくしてろ!」
うぐっ、とカチョウは痛いところを突かれたように顔を歪める。
「そ、そんな言い方ってないでしょう。カチョウだって頑張ったじゃない。それに私も……」
「ああん? 私も何だって?」
俺はこめかみに青筋を浮き上がらせながら、ベッドに横たわっていたアリーゼに歩み寄った。
「カチョウだけじぇねえ。原因の一つにお前の魔力不足もあったことを忘れるなよ、アリーゼ。 お前も魔法使いとして真っ当な仕事さえしてればこんなことにはならなかったんだ」
「待ってよ……私だけが今回の失態の原因じゃないでしょう。カチョウの道案内さえ的確にされていたら、さっさと安全地帯に辿り着けていたはずよ。そうだったら私たちはこんな目に遭うこともなかった」
「おい、アリーゼ。たわけたことばかり言うなよ。自分のことを棚に上げて、すべての責任を拙者に押しつけるのか?」
「実際、そうだったじゃない。あんたがちまちま迷っていたせいで、結果的に私たちは魔物に見つかってひどい目に遭ったのよ。でも、私は違う。私は魔法を使ってちゃんと光源を作っていたわ」
「何だと? それだったらキースも非難されるべきだろう。拙者《せっしゃ》たちを置いて一人だけで逃げ出したのだからな」
俺は「また蒸し返すのかよ」と激しく舌打ちする。
「だから俺は逃げたんじゃねえ。助けを呼びに行ったって何度も――ああ、もう面倒くせえ。てめえら、さっきからごちゃごちゃとうるせえんだよ!」
俺は二人に対して怒鳴り散らす。
そして腰に差されていたはずの神剣を抜こうとして、ハッと我に返ってまた怒りが込み上げてくる。
そうだ、俺の腰に神剣はもう差されていないのだ。
ちくしょう、どうしてこんなことになった?
なぜ、俺がこんな目に遭わないといけないんだ。
俺は国王から認められた勇者なんだぞ。
《神剣・デュランダル》を賜った勇者なんだぞ。
なのに、どうしてその神剣がここにない?
どうして、せっかく手に入った神剣が没収されないといけないんだ。
俺は激しく舌打ちすると、ベッドの横に置かれていた花瓶を壁に投げつけた。
バリンッ、と花瓶は壁にぶつかった衝撃で粉々になる。
それでも俺の怒りは治まらない。
いや、こんなことで治まるはずがなかった。
《神剣・デュランダル》を没収されたということは、勇者パーティーとして――しいては俺の勇者としての代名詞を剥奪されたに等しい。
つまり、勇者として失格のレッテルを貼られたようなものだ。
そして周囲の冒険者たちはこぞって俺たちを馬鹿にするだろう。
あいつらが勇者パーティーになること自体何かの間違いだったのだ、と。
クソッ、と俺は前髪を激しく掻きむしった。
どれだけ冒険者本部ギルドが箝口令をしこうが、興味を引く噂話が好きな人間の口に扉は絶対に立てられない。
このままだと冒険者どころか、一般人にまで悪評が広まっていくだろう。
などと俺が考えていると、脇腹を押さえながらカチョウが口を開いた。
「しかし、よもや《神剣・デュランダル》を没収されるとはな。しかも、その返還条件がBランクの依頼任務を達成することとは……」
「オンタナの森に生息するジャイアント・エイプの討伐だっけ?」
カチョウはこくりと頷く。
「ああ、アリアナ大森林とは反対側にある場所だ。そして、オンタナの森の魔物は比較的に大人しい奴らばかりだからな。要するに国も完全に《神剣・デュランダル》を没収したのではなく、もう一度それなりの実力を見せれば返すと暗に言っているのだろう」
確かにカチョウの言う通りだった。
国側も俺を勇者にして神剣を与えた身なのだ。
完全に神剣を没収してしまえば、自分たちの判断ミスだと国中の人間に疑われてしまう。
そこで国側は俺たちに適当な依頼任務を与えて成功させることで、俺たちの失態を早々になかったことにしてしまおうという魂胆に違いない。
それはそれで願ってもないことだ。
国側にそのような意志があるのなら、俺たちはまだ返り咲くことができる。
俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、カチョウとアリーゼの顔を交互に見ながら言った。
「いいか? 俺たちはもう一度、勇者パーティーとして返り咲くぞ。このままじゃ、俺たちは確実に降格処分になる。てめえらも不手際を起こして降格処分になった冒険者パーティーがどんな不遇な目に遭うか知ってるよな?」
カチョウとアリーゼの顔が一気に強張る。
どうやら二人とも十二分に理解できているようだった。
不手際や不祥事を起こして降格処分になった冒険者パーティーほど悲惨なものはない。
陰口を叩かれるのは序の口。
冒険者ギルドからのサポートも満足に受けられず、下手すれば依頼任務の依頼者からNGが出てまともに仕事を受けられなくなる。
そうなれば冒険者として終わりだ。
特に俺たちのように知名度の高い勇者パーティーまで成り上がってしまうと、そこから転落したときの落差は他の冒険者パーティーの比ではない。
冒険者どころか一般の仕事にも就けず、どこかで野垂れ死ぬ可能性だってある。
ブルッと俺は身体を震わせた。
冗談じゃねえ、そんな惨めな思いなんてしてたまるか!
俺は二人に対して力強い眼光を飛ばす。
「今度こそ、絶対にヘマはできねえ。今回の失態の根本的な原因は、認めたくねえがケンシンがやっていたサポータ役がいなかったことだ。なら、どうするか?」
「誰か代わりのサポーターを探すのだな」
カチョウの言葉に俺は「そうだ」と首を縦に振る。
「代わりのサポーターさえ入れてしまえばあとはこっちのもんだ。もちろん、今度はアイテムもばっちり揃えて万全の態勢で依頼任務に挑む。そして、さっさと終わらせて俺たちは再び勇者パーティーとして堂々と返り咲くんだ」
と、俺が意気込んだ直後だった。
――コンコン。
誰かが扉をノックしてきた。
全員の視線が扉へと集中する。
どうやら誰かが訪ねてきたようだ。
「拙者が出よう」
そう言ってカチョウがベッドから立ち上がろうとすると、ノックしてきた人間は俺たちに何の了承も得ずに勝手に入ってきた。
次の瞬間、俺たちは思わず息を呑んだ。
部屋の中に入ってきた人物は、クレスト教の聖服を着た銀髪の少女だった。
そんな銀髪の少女は部屋の中を見回すと、今度は俺たちに向かって叫ぶように尋ねてくる。
「わたくしの勇者さまはどこですか!」
あれからどのぐらいの時間が経っただろうか。
あのとき俺は一足先に安全地帯に駆け込み、他の冒険者が作っていた地上までの転移魔法を使って事なきを得た。
そしてカチョウとアリーゼの二人も間一髪のところを別の冒険者パーティーに助けられ、命からがら地上へと逃げ延びることが出来たのだが、それが俺たちの失態をまき散らすことになった。
あろうことかカチョウとアリーゼは、自分たちを助けてくれた冒険者たちに事の経緯を洗いざらいぶちまけやがったのだ。
それが原因で俺たちはBランクのダンジョン攻略に失敗したばかりか、低ランクの魔物たちから逃げ出したという風評があっという間に知れ渡り、それは中央街にある冒険者本部ギルドのギルド長の耳にまで入ってしまった。
ギルド長は俺たちを王宮に勇者パーティーとして推薦してくれた人物だ。
だからこそ、このままでは自分の名前にも大いに傷がつくと思ったのだろう。
ギルド長は大事になる前に冒険者たちに箝口令をしくと、その足で王宮に向かってある提案をした。
それは――。
「ふざけやがって! 何で俺の神剣が没収されないといけないんだよ!」
俺は怒りに任せて近くの椅子を蹴り飛ばした。
「落ち着け、キース。物に八つ当たりするのはよくない」
「はあ? 落ち着けだと!」
俺はベッドに腰かけていたカチョウに怒声を浴びせた。
カチョウは服を着ているが、その服の下の脇腹には包帯が巻かれている。
「どの口が言いやがるんだ、カチョウ! てめえが切り込み隊長の仕事を果たせなかったことが原因の一つでもあるんだぞ! 俺に意見するぐらいなら、もっと悪びれたように大人しくしてろ!」
うぐっ、とカチョウは痛いところを突かれたように顔を歪める。
「そ、そんな言い方ってないでしょう。カチョウだって頑張ったじゃない。それに私も……」
「ああん? 私も何だって?」
俺はこめかみに青筋を浮き上がらせながら、ベッドに横たわっていたアリーゼに歩み寄った。
「カチョウだけじぇねえ。原因の一つにお前の魔力不足もあったことを忘れるなよ、アリーゼ。 お前も魔法使いとして真っ当な仕事さえしてればこんなことにはならなかったんだ」
「待ってよ……私だけが今回の失態の原因じゃないでしょう。カチョウの道案内さえ的確にされていたら、さっさと安全地帯に辿り着けていたはずよ。そうだったら私たちはこんな目に遭うこともなかった」
「おい、アリーゼ。たわけたことばかり言うなよ。自分のことを棚に上げて、すべての責任を拙者に押しつけるのか?」
「実際、そうだったじゃない。あんたがちまちま迷っていたせいで、結果的に私たちは魔物に見つかってひどい目に遭ったのよ。でも、私は違う。私は魔法を使ってちゃんと光源を作っていたわ」
「何だと? それだったらキースも非難されるべきだろう。拙者《せっしゃ》たちを置いて一人だけで逃げ出したのだからな」
俺は「また蒸し返すのかよ」と激しく舌打ちする。
「だから俺は逃げたんじゃねえ。助けを呼びに行ったって何度も――ああ、もう面倒くせえ。てめえら、さっきからごちゃごちゃとうるせえんだよ!」
俺は二人に対して怒鳴り散らす。
そして腰に差されていたはずの神剣を抜こうとして、ハッと我に返ってまた怒りが込み上げてくる。
そうだ、俺の腰に神剣はもう差されていないのだ。
ちくしょう、どうしてこんなことになった?
なぜ、俺がこんな目に遭わないといけないんだ。
俺は国王から認められた勇者なんだぞ。
《神剣・デュランダル》を賜った勇者なんだぞ。
なのに、どうしてその神剣がここにない?
どうして、せっかく手に入った神剣が没収されないといけないんだ。
俺は激しく舌打ちすると、ベッドの横に置かれていた花瓶を壁に投げつけた。
バリンッ、と花瓶は壁にぶつかった衝撃で粉々になる。
それでも俺の怒りは治まらない。
いや、こんなことで治まるはずがなかった。
《神剣・デュランダル》を没収されたということは、勇者パーティーとして――しいては俺の勇者としての代名詞を剥奪されたに等しい。
つまり、勇者として失格のレッテルを貼られたようなものだ。
そして周囲の冒険者たちはこぞって俺たちを馬鹿にするだろう。
あいつらが勇者パーティーになること自体何かの間違いだったのだ、と。
クソッ、と俺は前髪を激しく掻きむしった。
どれだけ冒険者本部ギルドが箝口令をしこうが、興味を引く噂話が好きな人間の口に扉は絶対に立てられない。
このままだと冒険者どころか、一般人にまで悪評が広まっていくだろう。
などと俺が考えていると、脇腹を押さえながらカチョウが口を開いた。
「しかし、よもや《神剣・デュランダル》を没収されるとはな。しかも、その返還条件がBランクの依頼任務を達成することとは……」
「オンタナの森に生息するジャイアント・エイプの討伐だっけ?」
カチョウはこくりと頷く。
「ああ、アリアナ大森林とは反対側にある場所だ。そして、オンタナの森の魔物は比較的に大人しい奴らばかりだからな。要するに国も完全に《神剣・デュランダル》を没収したのではなく、もう一度それなりの実力を見せれば返すと暗に言っているのだろう」
確かにカチョウの言う通りだった。
国側も俺を勇者にして神剣を与えた身なのだ。
完全に神剣を没収してしまえば、自分たちの判断ミスだと国中の人間に疑われてしまう。
そこで国側は俺たちに適当な依頼任務を与えて成功させることで、俺たちの失態を早々になかったことにしてしまおうという魂胆に違いない。
それはそれで願ってもないことだ。
国側にそのような意志があるのなら、俺たちはまだ返り咲くことができる。
俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、カチョウとアリーゼの顔を交互に見ながら言った。
「いいか? 俺たちはもう一度、勇者パーティーとして返り咲くぞ。このままじゃ、俺たちは確実に降格処分になる。てめえらも不手際を起こして降格処分になった冒険者パーティーがどんな不遇な目に遭うか知ってるよな?」
カチョウとアリーゼの顔が一気に強張る。
どうやら二人とも十二分に理解できているようだった。
不手際や不祥事を起こして降格処分になった冒険者パーティーほど悲惨なものはない。
陰口を叩かれるのは序の口。
冒険者ギルドからのサポートも満足に受けられず、下手すれば依頼任務の依頼者からNGが出てまともに仕事を受けられなくなる。
そうなれば冒険者として終わりだ。
特に俺たちのように知名度の高い勇者パーティーまで成り上がってしまうと、そこから転落したときの落差は他の冒険者パーティーの比ではない。
冒険者どころか一般の仕事にも就けず、どこかで野垂れ死ぬ可能性だってある。
ブルッと俺は身体を震わせた。
冗談じゃねえ、そんな惨めな思いなんてしてたまるか!
俺は二人に対して力強い眼光を飛ばす。
「今度こそ、絶対にヘマはできねえ。今回の失態の根本的な原因は、認めたくねえがケンシンがやっていたサポータ役がいなかったことだ。なら、どうするか?」
「誰か代わりのサポーターを探すのだな」
カチョウの言葉に俺は「そうだ」と首を縦に振る。
「代わりのサポーターさえ入れてしまえばあとはこっちのもんだ。もちろん、今度はアイテムもばっちり揃えて万全の態勢で依頼任務に挑む。そして、さっさと終わらせて俺たちは再び勇者パーティーとして堂々と返り咲くんだ」
と、俺が意気込んだ直後だった。
――コンコン。
誰かが扉をノックしてきた。
全員の視線が扉へと集中する。
どうやら誰かが訪ねてきたようだ。
「拙者が出よう」
そう言ってカチョウがベッドから立ち上がろうとすると、ノックしてきた人間は俺たちに何の了承も得ずに勝手に入ってきた。
次の瞬間、俺たちは思わず息を呑んだ。
部屋の中に入ってきた人物は、クレスト教の聖服を着た銀髪の少女だった。
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