【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

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幕間  ~物事には光があれば闇があり、表があれば裏がある~

道場訓 三十一   勇者の誤った行動 ⑧

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 おいおい、誰だこの女は?

 俺は銀髪の少女を食い入るように見つめた。

 年齢はアリーゼと同じ16歳ほどだろうか。

 しかし、顔立ちやプロポーションはアリーゼなどとは比較ひかくにならない。

 アリーゼが雑草ざっそうならば、銀髪の少女は薔薇ばらの花だ。

 清潔感せいけつかんと気品が感じられる服装もそうだが、その服を着ている人間自身から高貴こうきなオーラがありありとにじみ出ている。

 ごくり、と俺は生唾なまつばを飲み込む。

 正直なところ、俺の好みのタイプだ。

 そしてクレスト教の聖服せいふくを着ているところを見ると、この街にやってきた遍歴へんれきの修道士一団の人間かもしれない。

 おそらく、中央街の外れにあるクレスト教の修道院をたずねてきたのだろう。

 修道院は病院もねているため、そこで働く修道女がよく来るのは知っている。

 この銀髪の少女もその一人に違いない。

 けれども、そんな修道女が一人で街中をウロウロすることなどあるだろうか?

 答えはいなだ。

 基本的に修道院に関係する奴らは単独行動はしない。

 街中で買い物をするときも常に2、3人で固まって動くのが普通だった。

 だからこそ、こうして修道女が一人で誰かの部屋にたずねてくることなど本来ならばありえない。

 そう、本来ならだ。

 くくくっ……そう言えば最近は修道女ともご無沙汰ぶさただったっけ。

 俺は内心で舌なめずりをした。

 きっと、この銀髪の少女は俺のファンなのだ。

 そう考えれば部屋に入るなり口にした「わたくしの勇者さまはどこですか?」の台詞せりふにも納得がいく。

 街の外で勇者である俺のうわさを聞きつけたものの、実際に俺がどこにいるのか分からなかったため、誰かに俺たちが泊まっている宿屋を教えてもらったのだろう。

 そうして居ても立ってもいられず、こうして一人でたずねてきたのだ。

 何のために?

 そんなものは決まっている。

 国から正式な勇者として認められた、このキース・マクマホンに会うためだ。

 などと俺が思っていると、ハッと我に返った銀髪の少女は「申し訳ありません」と頭を下げてきた。

「何の断りもなく部屋に入ったばかりか、自己紹介もせずにおたずねしてしまって大変失礼いたしました。わたくしはクレスト教会のリゼッタ・ハミルトンと申します。こちらの部屋にお泊りになられているのは、勇者パーティーの方々でよろしかったでしょうか?」

 おお、やっぱり俺を目当てに来た修道女だったか。

 俺は咳払せきばらいをしてのどの調子を整えると、「ああ、そうだ。俺たちは本物の勇者パーティーさ」といつもより声を意識して答える。

「そして、俺が勇者のキース・マクマホンだ……君はリゼッタさんだったね? もしかして、勇者である俺にわざわざ会いに来てくれたのかな?」

 もちろん、リゼッタがどう返事をするのかは分かっている。

 ほほを赤く染めながら、「はい、その通りです」と言うに違いない。

 しかし――。

「いいえ、違います。わたくしはあなたに会いに来たのではありません。わたくしは〝わたくしの勇者さま〟に会いに来たのです」

 と、俺の妄想もうそうは一瞬で打ち砕かれてしまった。

 え? 待て待て、どういうことだ?

 この女は自分の口からはっきりと「勇者はどこだ?」と言っていたはずだ。

 それなのに勇者である俺を前にして、俺に会いに来たわけではないと言う。

「いやいやいや、待ってくれ。君は勇者に会いに来たんだろう? だったら、ここには俺以外に勇者はいないぞ。なぜなら、俺こそが本物の勇者である――」

 キース・マクマホンだ、と言葉を続けようとしたときだ。

 チッ、とリゼッタは表情をゆがめながら舌打ちした。

「あー、うるさいのう。せやから、うちはお前なんぞに会いに来たわけちゃう言うとるやろが。人の話は最後まで聞けや、ボケが」

「はえ?」

 俺は思わず馬鹿みたいに頓狂とんきょうな声を発してしまった。

 それもそのはず。

 目の前の清楚せいそを絵に描いたような少女の口から、一体どこの野蛮やばんな国の言葉使いなのか分からない言葉が出てきたのだ。

 面を食らった……いや、と言ったほうが正しい。

「え……あの……その……お、俺が……俺は……勇者……」

 そして俺がしどろもどろしていると、リゼッタは俺をにらみながら嘆息たんそくする。

「お前が国から認められた正式な勇者なんは分かっとるわ」

 リゼッタはそう答えると、部屋のすみからすみまで何度も見回す。

「それで? うちの勇者さまはどこにおられるんや? ここにおらんということは、もしかして買い出しにでも行かれてるんか? だとしたらタイミングが悪かったな」

 まあええわ、とリゼッタはゆるく両腕を組んだ。

「それならここで待たせてもらおうか……ああ、うちには別に構わんでええよ。こっちは何年間も待っていたんや。今さら少し待つぐらいでもないわ」

って……」

 何だ、この女?

 まさか、見た目とは違ってかなりやばい奴なのか。

 それにさっきから言っていることがよく分からない。

 一体、この女が言っているとは誰のことをしているんだ?

「ちょっと、あんたね。クレスト教の修道女か何か知らないけど、いきなり部屋に入って来るなり変なこと言ったりして失礼なんじゃないの?」

 俺の心の声を代弁だいべんしてくれたのか、上半身を起こしたアリーゼがリゼッタに対して言い放つ。

「うむ、アリーゼの言う通りだ。いくら何でも無礼ぶれいすぎる。それに先ほどから意味不明なことばかり言っているのも気に食わん。拙者せっしゃらは本物の勇者パーティーであり、そこにいるキースは間違いなく本物の勇者だ。他に勇者などおらん」

 カチョウもリゼッタに対して思うことがあったのだろう。

 真剣な表情でリゼッタを見つめながら断言だんげんした。

 普通の修道女ならば、二人の威圧いあつ気圧けおされて青ざめたに違いない。

 だが、リゼッタはどこ吹く風だった。

 切れ長のまゆ一つ動かさず、代わりに大きなため息を吐く。

「ホンマにごちゃごちゃとやかましい奴らやで。どうしてこんな奴らをサポートしてたんかは分からんが、さぞ苦労があったことやろうな」

「俺たちをサポートだと?」

 その言葉に俺は嫌な予感を覚えた。

 同時に俺の脳裏に一人の人間の姿が浮かんでくる。

 無能と判断してパーティーから追放したサポーター兼空手家からてかの姿が。

「おい、まさかとは思うが……お前が言っている勇者さまというのはケンシンのことじゃねえだろうな?」

「はあ? 当たり前やろうが。うちにとって勇者さま言うんはケンシン・オオガミさま一人だけや」

 このとき、俺の中からこのリゼッタという修道女に抱いた劣情れつじょうが消え失せた。

「出ていけ!」

 俺はリゼッタに怒声をびせる。

「これ以上、てめえみたいな頭のおかしい女にかかわっていられるか。あの無能のサポーターのケンシンが勇者だと? せっかくクビにしてパーティーから追放した、闘えもしない空手家からてかのケンシンが勇者だと? ふざけるなよ!」

 俺が怒りの感情を爆発させると、今度こそリゼッタは恐怖に青ざめると思った。

 けれども、リゼッタの顔には恐怖とは別の感情の色が浮かんでくる。

「おい、ちょい待てや」

 怒りと殺意だ。

 リゼッタは俺たちが後退あとずさりするほど表情をけわしくさせる。

「もういっぺん言うてみい。ケンシンさまが無能のサポーターやと? 闘えもしない空手家からてかやと?」

 ざわッとリゼッタの髪がらめく。

 部屋の窓は開けておらず、風などが入ってくるはずがない。

 それでも、リゼッタの銀髪は確かにらめいてる。

「そんでクビにしてパーティーから追放したやと!」

 次の瞬間、リゼッタの全身から何か〝見えない力〟が放射ほうしゃされた。

 その〝見えない力〟は突風のように俺たちの身体に叩き込まれる。

 何だこの力は? 魔法? それともスキルか?

 違う、とすぐに俺は心中で頭を左右に振った。

 これは魔法の力でもなく、ましてやスキルの力でもない。

 まぎれもなく、俺の予備知識にはない意味不明な力だった。

「おい、ボンクラども。これからうちが質問することに正直に答えろや。もしも一つでも嘘を言うたら地獄を見せたるからな」

 すべてを一変させたリゼッタに対して、まずはアリーゼが動いた。

 魔法使いの本能が、リゼッタを〝敵〟と判断したのだろう。

 リゼッタに左手を突き出して呪文を詠唱えいしょうしようとする。

 しかし、リゼッタはまったく動じない。

 それどころかリゼッタは自分の服に取り付けられていたボタンの一つを引きちぎると、そのボタンを右手の親指ではじき飛ばした。

 パアンッ!

 部屋の中にかわいた音が鳴った。

 リゼッタの放ったボタンによる指弾しだんが、アリーゼの眉間みけんに命中したのだ。

 アリーゼはそのまま気を失ってベッドに倒れる。

 次の動いたのはカチョウだった。

 帯刀たいとうはしていなかったものの、それでも修道女の一人ぐらい素手で軽々と制圧せいあつできると思ったのだろう。

 カチョウはリゼッタを拘束こうそくしようと両手を突き出した状態で飛びかかる。

 しかしリゼッタはつかみかかってきた両手の下をいくぐると、カチョウの襟元えりもとつかんで一気に投げ放った。

「ごはッ!」

 背中から勢いよく床に叩きつけられたカチョウは、ついでに後頭部も激しく打ちつけたのか白目をいて気絶してしまう。

「な……なな……何だと……」

 俺がパニックになっていると、リゼッタはゴミでも見るような目を向けてくる。

「よ~く、分かった。おどれらにSランクの価値なんてない。ましてや、勇者パーティーなんぞと呼ばれるほどの実力もこれっぽっちもないわ。それでも周囲からの評価が高かったのは、ケンシンさまがお前らのために人知れず尽力じんりょくしていたからなんやろうな」

 次の瞬間、リゼッタの姿が俺の前から一瞬にして消えた――ように見えたのもつか、気がつくとリゼッタは互いにに立っていた。

 しかもリゼッタは右拳を俺の腹部に軽く押しつけた状態で立っていたのだ。

「お前と話すのはもうやめるわ。ケンシンさまの居場所はうちが自力で探す。せやけど、その前にケンシンさまの無念を少しでも返しておくわ」

 まったく動けなかった俺を前に、リゼッタはりんとした声で「〈当破あては正拳突せいけんづき〉」とつぶやいた。
 
 次の瞬間、俺の体内で何かが爆発したような衝撃が走る。

 リゼッタが零距離ぜろきょりから攻撃を放ってきたのだ。

「うげッ!」

 俺は大量の吐瀉物としゃぶつを吐き出し、そのまま前のめりに倒れた。

 視界がぐちゃぐちゃになり、自分が吐き出した吐瀉物としゃぶつに顔がうずまる。

 やがて俺の意識が途切とぎれる直前、リゼッタの声が真上から降り注いできた。

「本当の無能はお前じゃ、このクソ勇者もどきが」

 そして、俺の意識は屈辱くつじょくとともに深い暗闇へと落ちていった――。

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