【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

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第五章 ~邂逅、いずれ世界に知れ渡る将来の三拳姫~

道場訓 三十五   クレスト教に伝わる整体術

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 俺は空き地の入り口に立っていた、見知らぬ銀髪の少女を見つめた。

 どうしてこんなところにクレスト教の修道女がいるんだ?

 純白のドレスのような聖服せいふくは、間違いなく世界中に信徒しんとを持つクレスト教の修道女たちが着る服だ。

 だからこそ、なぜここに修道女がいるのかが分からなかった。

 ここの近くには修道院もないし、買い出しに来るような市場もない。

 ましてや巡礼する聖堂なども商業街にはまったくなかったのだ。

 加えて銀髪の修道女はどうやら1人でここにいる。

 普通なら修道女たちは2、3人で行動をするはずなのだが……。

 などと俺が思っていると、銀髪の修道女は「ようやく見つけたで。うちの勇者さま」と涙を流しながらつぶやいた。

 ……何だって?

 俺は銀髪の修道女が口にした、特徴的な言葉使いでハッとなった。

 リザイアル王国では珍しい銀髪。

 世界中に信徒しんとを持つ、巨大宗教団体のクレスト教。

 クレスト教の母体国家である、アルビオン公国の上位層が使う言葉使い。

 そして体型や雰囲気ふんいきはまったく異なっていたものの、俺のことをと言う人間は過去に1人しかいなかった。

「まさか……お前、リゼッタか? リゼッタ・ハミルトン?」

 俺が怪訝けげんな顔つきでたずねると、銀髪の修道女は涙をぬぐいながら「そうです。うちはリゼッタ・ハミルトンです」と答えた。

 その直後、リゼッタは地面を強く蹴って一足飛いっそくとびに間合いを詰めてきた。

 流れるような動きで俺の首に両腕を回して抱きついてくる。

「会いたかった! ホンマに会いたかったで、ケンシンさま!」

 甲高い声で叫びながら、嬉々ききとした表情を浮かべるリゼッタ。

 そんなリゼッタは続いて俺にキスをして来ようとしたので、俺は瞬時に空いていた左手でリゼッタのアゴ先をつかんで勢いを止めた。

 そのままリゼッタの身体を無理やり引きがす。

「おい、いきなりを何をする!」

「え~、それはこっちの台詞せりふでっせ。何でですの、ケンシンさま。久しぶりに会った弟子からのキスの一つや二つぐらい受け止めてもええやないですか」

 誰が誰の弟子だって?

 いや、それよりもどうしてリゼッタがこんなとこにいるんだ?

 俺はあまりにも突然のことが重なり頭が軽くパニックを起こしかけたが、胸の中で少しずつ死に向かっていくキキョウの存在がすぐに現実へ引き戻してくれた。

 そうだ、今はリゼッタのことよりもキキョウを助けることのほうが先決だ。

「悪いな、リゼッタ。今はお前に関わっている場合じゃないんだ。こうしている間にもキキョウの命が……」

 そこまで言うと、リゼッタは瀕死ひんしのキキョウを見て「誰かは知りまへんが、ただの病気やなさそうでんな」と言った。

「それに全身をおおっている魔力マナの強さと流れが明らかにおかしい……はは~ん、これはあれやな。非合法な魔薬まやく過剰摂取かじょうせっしゅによる禁断症状やな。残念やけどすぐに適切な処置をせんと死んでしまいまっせ」

「お前、見ただけでそこまで分かるのか?」

「もちろんでっせ、ケンシンさま。これでもうちはクレスト流・合気柔術あいきじゅうじゅつ免許皆伝めんきょかいでんをもろた身です。修行中にはこの人みたいな魔薬まやく過剰摂取かじょうせっしゅによる禁断症状が出た人間をそれこそほど助けましたわ」

 渡りに船とはまさにこのことだった。

「だったら、頼む。こいつを――キキョウを助けてやってくれ。このまま死なせるには不憫ふびんすぎる」

 リゼッタは俺とキキョウの顔を交互に見ると、最後にエミリアの顔を見る。

「……ケンシンさまの頼みなら構いませんけど、終わったあとに話しましょうか。聞きたいことが山ほど出来ましたわ」

 俺が頭上に疑問符を浮かべるなり、リゼッタは「ほんなら、失礼」とキキョウの身体を地面に寝かせた。

 それだけではない。

 おもむろにキキョウの襟元えりもとつかみ、一気に衣服をはだけさせる。

「ちょっ……いきなり何をするんですか!」

 胸にサラシが巻かれたキキョウの上半身があらわになると、これから何をするのか分からなかったエミリアがリゼッタに声を上げた。

「やかましい! 素人は黙っとれ!」

 リゼッタはエミリアを一喝いっかつすると、そのまま胸に巻かれていたサラシすらも無理やりぎ取った。

「さあ、ちゃちゃっとやるで」

 続いてリゼッタは聖服せいふくのポケットから小さな革袋を取り出した。

 そして俺とエミリアが見守る中、リゼッタは革袋の中から取り出した何本もの〝はり〟をキキョウの上半身にあるツボに打ち込んでいく。

 俺が感心しながら見ていると、はりを打ち終わったリゼッタは次の行動に移った。

 まるで熱を確かめるように右手のてのひらをキキョウの額に合わせ、左手のてのひら中丹田ちゅうたんでんと呼ばれる胸の中心に置く。

 そして――。

 ヒュウウウウウウウウウウウウ――――…………

 リゼッタの口から口笛くちぶえのような呼吸音が発せられた。

 戦闘にけた闘神流空手とうしんりゅうからて息吹いぶきとも違う、整体にけたクレスト流の独特な呼吸音だ。

 このとき、俺の目にははっきりと見えていた。

 下丹田げたんでん気力アニマを練り上げたリゼッタが、右手と左手の労宮ろうきゅうからキキョウの肉体へ気力アニマを流し込んでいることに。

 クレスト流の整体術せいたいじゅつ……久々に見るな。

 世界中に信徒しんとを持つ巨大宗教団体――クレスト教。

 そのクレスト教の中には身分や貧富ひんぷに関係なく、他人のためにくすという教えがある。

 もちろん托鉢たくはつ説教せっきょうなども重要な教えだったが、クレスト教は弱者保護により発展してきた宗教だ。

 そのため、クレスト教の人間たちは怪我人や病人の治療にけている。

 リゼッタが行っている整体術せいたいじゅつもその一つだった。

 はりを使って肉体のツボを刺激して回復させる――鍼灸術しんきゅうじゅつ

 相手の身体に気力アニマを流して体内の調子を整える――蘇生術そせいじゅつ

 他にも脱臼だっきゅうや骨折を治す整骨術せいこつじゅつなどもあるが、大抵の怪我や病気なら鍼灸術しんきゅうじゅつ蘇生術そせいじゅつで事足りるという。

 今がそうだった。

 リゼッタが施術しじゅつを行っていると、キキョウの身体に変化が起こってきた。

 ビクンビクンと何度も身体が動き、そのたびにキキョウの口からはき気をもようしたときのような嘔吐えずきがれてくる。

 はたから見ていたエミリアは心配そうに「ケンシン師匠、大丈夫なんですか?」と俺に声をかけてきたが、俺は自信を持って「大丈夫だ」と答えた。

 正直なところ、これほど高度な整体術せいたいじゅつは今まで見たことがない。

 肉体を回復させるツボに1ミリの狂いもなく針を打ち込んだこともそうだが、的確な量の気力アニマを流し込んで体内をマッサージしている技量には舌を巻くほどだ。

 こうしてキキョウの体内に蓄積していたいびつ魔力マナを、少しずつ外へと放出していけば後遺症の心配もなく回復するだろう。

 ほどしばくして、リゼッタは気力アニマによるマッサージを終えた。

 皮膚に打ち込んでいたはりも手慣れた動きですべて抜き、最後にはだけさせていた衣服を元に戻して自分の呼吸も整える。

「これで終了ですわ。とりあえず、命の危険はもうないですやろ。それに日頃から身体を鍛えていたみたいですし、常人よりも回復は早いと思われますよ」

 リゼッタの言うことは正しかった。

 先ほどまでは顔に死相しそうが浮かんでいたものの、今のキキョウはおだやかな表情で呼吸も安定している。

 もうこれで死ぬことはないだろう。

 俺はほっと胸をで下ろした。

「すまん、リゼッタ。何と礼を言えばいいか」

「礼なんていりませんよ……それよりもケンシンさまに聞きたいことがあります」

 突如とつじょ、リゼッタは俺をすような目で見つめてくる。

「治療したこの人もそうですが、そこの金髪のお嬢さんとはどういった関係なんですやろ? うちの耳がいかれてなかったら、ケンシンさまのことを〝ケンシン師匠〟と呼んでいたように聞こえましたが……」

「うん? ああ、そうだ。彼女の名前はエミリア。俺の一番弟子だ」

 俺がそう言うと、エミリアは呆然ぼうぜんとしていたリゼッタに「一番弟子のエミリア・クランリーです」と自己紹介する。

「な……なな……」

 やがてリゼッタは自分の頭を両手で押さえながら、

「何やてえええええええええええええ――――ッ!」

 路地裏にいた野良猫たちが一斉いっせいに逃げ出すほどの叫び声を上げた。
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